十二月二日   おはなし 中


空木先生へ


 本条様とは三歳の時に会いました。迷子になっていたのを助けてもらいました。でも、本条様は覚えていないみたいです。

 私のおうちは和菓子屋なので本条様のお屋しきにお使いに行っています。


✎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏


 杏からの文を読んだ空木は思わず笑ってしまった。止め、はねがしっかりと書かれた字は一生懸命に書いた姿がありありと思い浮かべることができる。

 作文の授業でも、他の皆が騒ぐ中、黙々と書いていたことは記憶に新しい。授業参観でそれを読んだ時もつかえながらではあるが、きちんと読めていた。言葉を口に出すことが苦手なだけで、練習すれば話せるようになるだろう。

 確信にも似た予感を抱いていた空木は微笑ましい気持ちでもう一度、杏の文字を読む。一日前を振りかえり、ふと疑問が沸いた。


「どうして、本条様とは話せるのでしょう」


 口に出ていたようで斜め向かいの先生が顔を上げた。

 空木は愛想笑いで茶を濁す。その質問はまだ早いだろうと、杏の実家について訊くことにした。


✎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏


鈴宮さんへ


 本条様によくしていただいているのですね。これからも、お使いを頑張ってください。

 そういえば、鈴宮さんのおうちのお菓子を食べたことがありませんでした。他の先生もおいしいと言っていたので、食べてみたいです。おすすめは何ですか。いくつでもいいので、教えてください。


 

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