天才魔導師凛々花は愛されすぎている!

三月べに

第一章

01 勇者一行の天才魔導師。



 キラキラとラメのような雨が降り注ぐ。

 オーロラの輝きに似ている。

 それでいて、星が降るような光景は、眩い。

 手を伸ばせば、カーテンのように捲れる。

 シルクみたいな肌触り。心地いい。

 それをくぐっていくと、祭壇の上に降り立った。


 ぱぁっと開けた景色は、まるで神殿の中。

 神秘的な青白さの神殿は、人の手で作られたとは思えない。

 なんて美しい景色なんだろう。

 見惚れていて、気付かなかった。

 そばにいるのは、学ランの少年や大学生らしき少女がいる。

 私を含めた三人が、祭壇のところに立っていた。


「ええっと……まさか、これってさ……あれだよね?」


 学ランの少年は、苦い笑みを浮かべつつも、私達に同意を求める。

 日本人らしい黒髪とやや焼けた肌の持ち主。


「異世界トリップってやつ!?」


 大学生らしき少女が、そう声を上げた。

 目を輝かせてだ。

 グレージュ色に染めた髪をカールさせて、いかにも陽キャに見えるけれど、その発言でわかった。

 彼女は、オタクであると……!

 いにしえのオタク! 昔からの夢女なら、転移をトリップと呼んでいた!

 何故わかると言うと、私がそうだったからだ! 同族、いや同志!


「え? 俺は異世界転移って言おうとしたんだけど……トリップとも言うの?」

「えっと」

「うん、トリップとも言うんだよ」


 確認する少年に少女が戸惑うから、私は言い切った。

 少女と目を合わせる。

 同族、いや同志だと理解した瞬間だ。

 私達に言葉はいらなかった。微笑んで、頷き合う。


「そ、そっか、知らなかったな……。つまり、俺達は三人揃って……異世界、トリップ? ……というか、召喚されたってことだよな?」


 少年の視線の先には、祭壇の階段下にいる人々がいた。

 異世界転移であり、異世界召喚。


「理由はやっぱり、この世界を救ってくれってことかな……? 俺、何やっても上手くやるし、運動神経も抜群だし、勇者になれってことかな!?」

「三人とも勇者……とは限らないよね。とにかく聞いてみよう! 言葉は通じるよね、きっと!」

「……巻き込まれだったら、どうしよう」


 ピチピチの十代の少年と少女が、二人。

 そして、私は三十代の女。

 巻き込まれただけのパターンの気がしてしまい、不安だ。

 私と違い、ワクワクした様子の二人を追って、長い階段を下りた。


「ようこそ、勇者一行様」


 勇者一行、様。

 どうやら、複数を召喚したつもりらしい。なら、間違えて召喚されてしまった。そんな展開では、なさそう。

 甲斐甲斐しくお辞儀をした人々に、ついていくことになった。

 説明をしてくれると言うのだ。

 私達三人は優れた異世界人ということで、召喚をされた。

 ちょっと鼻が高い。

 優れた異世界人。

 私ってば、ただのオタクな本屋の店員じゃないのか。

 期待一杯に、私は自分のステータスを見た。

 異世界から来た人間は自分のステータスを見れるそうだ。

 ゲームで自分の強さを確認出来るもののこと。

 そこには、私の立花凜々花(たちばなりりか)の名前から、年齢が表示されていた。

 職業には【魔導師】とあり、そして称号には【天才魔導師】と書かれていたのだ。

 それを話したら、どよめきが走っては、歓喜の声が上がった。

 私の力は、必要不可欠だと告げられる。

 学ランの少年は、藤原光太郎(ふじわらこうたろう)という名の高校生。職業は【勇者】だ。

 同志な少女は、城島神奈(じょうじまかんな)という名の大学生。職業は【聖女】だった。

 勇者に聖女、そして魔導師か。

 確かに、勇者一行である。

 召喚理由は、ベタ中のベタ。

 他種族を滅ぼそうとする魔王を倒してほしいとのことだ。

 すぐに私達の強さ、つまりはレベルを上げる特訓が行われた。

 【勇者】の光太郎くんは、戦い方を学んだ。

 【聖女】の神奈ちゃんは、サポートを中心に治癒魔法を鍛えた。

 【魔導師】の私は、渡された魔導書を読み漁っては使えるかどうかを試す。天才の称号は伊達ではなく、一度学んだものは簡単に使えた。それに飽き足らず、私は自己流の魔法を編み出しては本に書き記す。そんな日々を過ごしていたが、やがて暇を持て余すことになり、帰る方法を探すことにした。あいにく、そんなものはないと召喚された日に告げられたけれど、勇者一行の召喚についての魔導書はあったのだ。

 とても古い文字で書かれて、現代の異世界の言葉しかわからないため、先ずは忘れ去られた古い文字を学んだが、それがそれで楽しいものだった。

 光太郎くん達と協力して付近の大物である魔物と戦い、またレベルを上げる。時には、魔王からの手強い魔物の刺客も送られてきたが、手を合わせて返り討ちにした。


「やっと、レベル50だ!」

「あれ。まだレベル50いってなかったんだ? 光太郎くん」

「私も、もういってると思っていたんだけど、神奈ちゃんはいくつ?」

「レベル59だよ。凜々花ちゃんは?」

「レベル63だよ」

「えっ!? 俺勇者なのに足手まとい!?」


 レベル50に到達してテンションを上げた光太郎くんには悪いけれど、私と神奈ちゃんの方が上。


「勇者としてのレベルが50であって、これから勇者としての活動をすればいいんじゃない? きっと私は魔導師として学んでは魔法使ってきたからレベルが63まで上がって、神奈ちゃんは聖女として私達を回復してくれたからのレベル59なんだよ」

「な、なるほど……!」


 年上として、ちゃんと宥めておいた。


「ステータスとしては、やっぱり最強だよ。前衛の勇者として頑張りたまえ!」


 レベルは私達より低くても、やっぱり強いと思える。

 前衛として、バリバリ戦ってくれているのだ。


「サポートと回復は私に任せなさい!」

「お、おう! 頼むぜ、聖女様!」

「援護射撃は任せなさいな!」

「うん! よろしく、魔導師様!」

「ちっちっちっ! 違うぜ、勇者様。私は天才魔導師だぜ!」

「りりっち、そこ、こだわるよなぁ……」


 十歳ほど年上の私を、光太郎くんは「りりっち」と呼ぶようになった。

 仲間だし、さん付けはいらないと答えたからだ。

 ちなみに、神奈ちゃんは私をちゃん付けである。

 オタク同志である神奈ちゃんとは、よくオタク話に花を咲かせていた。

 光太郎くんもメジャーな漫画やアニメについてはついてくるけれど、知らないもののとなるとだんまりする。

 どうしたのかと神奈ちゃんが問えば「俺はもう一生その漫画読めねーんだなって思って」と悲しげに笑った。


「そんな、諦めないで! 凜々花ちゃんがちゃんと調べてくれてるから! なんたって天才魔導師だよ!?」

「……じゃあ、戻れたら、その漫画貸して?」

「いや超おススメだから買って!」

「勇者からのバイトかぁー」


 神奈ちゃんはそう諦めず励ます。光太郎くんは少し頬を赤らめて笑う。

 勇者は聖女に、片想い中みたいだ。

 密かにニヨニヨしてしまう。


 やがて、十分魔王と対抗出来ると判断が下されて、先制攻撃を仕掛けることとなった。

 異世界召喚されて、三ヶ月後のことだ。

 あっという間のようで、長かった気がしなくもない。

 魔王軍は、待ち構えていた。

 こちらも軍がいる。人間や妖精、他種族が総出で戦いに備えていた。

 私は指揮官である王達に、嬉々として言う。


「超広範囲の攻撃魔法を使ってもいいですか!?」

「……それは、以前、野原に巨大な穴を作ったあれのことですかな?」


 人間の王であるリクルートゥ王は、少々場違いな私のテンションに呆れながらも確認した。

 野原を巨大なクレーターにしてしまったことは、ちゃんと謝ったのでいいだろう。


「あれは試しに最小限で使ってみただけです。何発か放てば、半分は消し飛び、残りは戦意喪失するに違いありません!」


 視界に広がる魔物の軍を、お手製の杖で差して、自信満々に言い放つ。

 正直言って、指揮官の王達はドン引きしていた。その空気を感じ取っても、私は笑みで許可を待つ。


「あー……それは、いけません、魔導師様。魔王と直接対決のためにも、魔導師様は魔力を浪費していてはいけません」


 そう発言したのは、妖精エルフの王。 

 若き美青年の姿をしているけれど、歳は200に近いらしい。

 キラキラの長い金髪は一本に束ねて、青い瞳で私を止める。


「私の魔力は確か……13,000以上ありまして、その超広範囲の攻撃魔法は、せいぜい300減るだけです。十回放っても大丈夫ですよ」


 一同は、驚く。私の魔力の多さに。

 言うの初めてだっけ。


「それとも、足りないですかね? 魔力回復薬は何個か用意済みですけれど……」


 腰に携えたベルトにつけたポーチを軽く叩く。

 中には試験管のような棒状の筒に、魔力を回復させる薬を入れている。私が作ったものだ。

 魔力を完全回復をする。完璧な魔力回復薬。

 魔力切れは私と神奈ちゃんには致命的だから、魔法薬師という職業の人々の作業を覗かせてもらった。

 当時の魔力回復薬の効果は、10分の1の魔力の回復だけ。もっと回復量を増やしてほしかったので、助言をしたら成功。

 もちろん、希少な材料を使っているので、数は多く用意出来ていない。

 私と神奈ちゃんが、3つずつ持っている。


「よし、ならば一回放て」


 ドスの効いた声を響かせたのは、一番身体の大きな種族であるオーガである。

 その王は、真っ赤な肌をしている。黒い髪を逆立てている姿はサイ〇人みたいだと、三人で笑ったものだ。

 顎が突き出て、下の唇から、にょきっと牙が上向きに出ていた。言わずとも、強面。


「宣戦布告の合図にしておっぱじめようではないか! オーガの戦士達が、勇者達の道を切り開いてくれよう!!」


 にやりと口角を上げる顔は、なんというか極悪面である。

 とてもとても、好戦的な一族だ。

 戦いたくて、うずうずしているのだろう。


「属性はなんだ?」

「火属性です」

「では、我がその魔法の強化をしよう」


 そう言い出したのは、炎の精霊。精霊は交代で王をやるらしく、現王。

 まるでア〇ジンのランプから出ているなんでも願いを叶えるジン。

 精霊は属性を底上げしてくれるから、もってこいだ。


「では、満場一致でいいですね?」


 王達から、反対はされなかった。

 なので、私は見渡せる丘まで上がっていき、そこで魔法を展開した。

 古代文字で書かれていた魔導書の中の広範囲の攻撃魔法と現代の広範囲の攻撃魔法と、地球のミサイルをモデルにして、編み出した魔法。

 お手製の杖を一振りして、古代文字を浮かべる。


「”――フィーアマ・フィーアマ・フィーアマ・エエースプロジオーネ・シンシンティッラ・スブリッマツィオーネ――”」


 唇を弾くようにしっかり発音して、唱える。それがコツだ。

 掲げた杖の先で膨れ上がった炎の球は、チリチリッと小さな稲妻のように火花を散らしていく。

 弾けそうなほど膨れた赤い赤い球体。

 言い聞かせるようにもう一度、唱えた。

 そして三度目。また同じ呪文を唱える。


「燃やし尽くせ! 轟音烈火炸裂!」


 今のは、決め台詞と魔法の名前だ。

 大きく振りかぶって投げる。それはとても遠くへと飛んだ。

 戦いは今か今かと待機していた魔王軍、推定100万の魔物。

 その中央に、煌めきながら落下していく炎の球体。

 一瞬にして、燃え上がった。辺りは夜のように暗くなり、そして赤い爆発が起こる。


 ドオオォン。


 爆発のあとに、重たい爆発音が響く。


「たぁーまやぁー」


 私は花火を見たようにご機嫌に声を伸ばした。

 すっきりだ。こんなに盛大に打ち上げた広範囲の攻撃魔法は初めて。

 いやぁ、派手に爆発したものだ。

 精霊王の属性底上げの効果で、30万は消し飛んだだろう。

 遠くに見える魔王の城の手前まで、クレーターが出来上がった。


「お前……怖いな」


 指揮官達のところまで戻ってみれば、オーガの王がドン引きしている。

 そんな凶悪そうな強面の顔で怖いと言われては、ショックだ。


「確かに怖いよ……りりっち」

「たまやはないよ……消し飛ばしたのは命だよ? 魔物でも命」

「……ごめんなさい。反省します」


 光太郎くんと神奈ちゃんにも惹かれていた。

 しょんぼり、と顔を俯かせて反省。


「どうか、魔物達の魂に救済を……」


 神奈ちゃんは、そう手を合わせて祈った。


「よし。行こうか! 魔王を倒して、この戦いを終わらせる!」


 ギュッとグローブをはめ直した光太郎くんが、背にした剣を掴んだ。


「そうだね! 行こう!」


 顔を上げた私も、杖を握った。


「うん! この世界を救おう!!」


 光属性の補助をする短い杖を掲げて、神奈ちゃんも張り切る。

 指揮官の王達が、声高々に叫んだ。

 各々の言葉で「進撃だ!!!」と告げて、前進させた。

 私達は、先導してくれる兵達のあとをついていき、魔王の城を目指す。


「おい!! 魔導師!!」


 後ろから呼ばれた。

 多分、私のことで、ドスの効いた声を上げたのはオーガの王だろう。

 振り返ってみれば、やっぱり私に目を向けていた。


「天才魔導師です! 凜々花って名前があります!!」


 振り返りながら、私は言ってやる。


「そうか、天才魔導師リリカ!! お前、オレの妃になれ!!!」


 とんでもないことを言い放った。

 目玉が飛び出るかと思ったけれど、気を取り直す。


「光栄ですが、お断ります! 陛下!」


 今度は、周囲が目玉を飛び出すような反応をしただろう。


「諦めんぞ! お前ほどの強い女、いやしない!!」


 気を悪くすることなく、ゲラゲラと笑うとオーガの王は言い切った。


「王様にプロポーズされちゃったよ、神奈ちゃん」

「きゃあーすごい玉の輿!! 流石、凜々花ちゃん!」


 こそっと話しながら、私達は進み続ける。


「あの王様に挑んだ花嫁候補は山のようにいたって話だ。見染められたってすげーよ。でもアレで惚れるとか、異常だね」

「異常とはなんだ。文句あるのか、勇者様?」

「ないっす! すんません! 天才魔導師様!」


 ギロッと睨みつけるけど、見えてもいないのに、光太郎くんは謝って先を走っていった。

 いつもの調子で、私達は魔王の城へ乗り込んだ。



 

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