第42話後編 『うづき・ゔぁにてぃ!』

 卯月太陽は優等生だった。

 文武両道、公明正大。

 進学校に入り、中高共に生徒会長を務め、東京大学法学部を主席で合格した。

 彼の夢は政治家だった。

 政治が既得権益層の私腹を肥やすための道具になっている現状を憂いて、それを変えようと思っていた。

 しかし、現実は彼の予想より遥かに悲惨だ。

 彼は与党にも野党にも失望して、惰性で国会議員を伝えていた。

 仕事は真面目にやっていたが、彼は絶望の中で毎日を過ごしていた。




「それで、確認も兼ねて貴方の理想を聞きたいですわ。」

「…私は、常々思っているのだ。人間は自滅の一途を辿っている。差別、戦争、貧困、環境問題…それらの破滅へと直結する課題を目前としながらも、人間たちはいがみ合い、争う。」

「それらへの世界的な取り組みなどはあるみたいですが、それについては?」

「私には信じられないね」

「なるほど、具体的にはどのようにやりなさるのですか?」

 卯月はコーヒーを飲み干して、語り出す。

「人間は…本質的に孤独を避ける生き物だ。誰もいない場所にいれば、例えそれ以外の全てがあっても一週間を待たずに発狂するだろうね。」

「しかし、一人がいいとおっしゃるお方もおるのでは?」

「質問が多いね…まぁ構わないよ。それは、悪意への恐怖から成り立っていると私は思うのだよ。全より一を優先する心に怯え、傷つけられ、自らもまたそれを捨てられない。実に悲しいことだ。」

「…」

「僕はこの世界の人間全てに、世界的な問題の解決についての、強迫観念を植え付ける。」

「恐怖を幸福に繋げるなんて…斬新な発想ですわ。」

「この世界から孤独もなくせる、一致団結によって非建設的な争いもなくなる。長い目で見れば…これが最も良い。」

「…あなた、本当に人間でして?ありとあらゆる娯楽を拒否する…禁欲的にも程がありますわ。」

「…人間は理性を持つから、他の動物と違うのだ。よってそれは当然のこと…嫌いか?」

「…いえ、人外じみた精神は、私の大好物ですわ!」

「本当に人間として当たり前のことをしているだけだと思うけどな…」

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