第41話 『ぷればいあす・ないと!』

「青二才め、だが一つ…言わせてもらおう。」

「…言ってみろ」

「お前…それとその仲間は、儂らを見かけたら殺すつもりだったのだろう?」

「そうだね」

「なのに仲間の仇とのたまうのか?」

「あぁ、これは正誤の問題じゃあない…僕のエゴ、不合理な憎悪と我儘わがままさ。」

「そうか。儂と同類だな、貴様は」

「…どういうことだ」

「ここにいるのは紛れもないエゴイストだということだ!」

 冥崎の体から竹が放たれる。

「やはり竹は良い!速度といい、硬さといい、近接戦においては無類の強さよ!」

 常人の反応速度では、これを防ぐことはできないだろう。

 しかし、合理からすれば大した問題ではない。

 鉄の鎧から出来た液体が、竹を溶かしていく。

「この鎧はハイスペックに作ってあるからね。君じゃあこれを壊せない。」

 合理はゆっくりと、冥崎に近づいていく。

(ここからが問題だ…渋谷の契術は『自動反撃』。切れ味もかなり鋭い。位置交換も厄介だ。トドメを刺しそこねると面倒。今ここで、始末する!)

(おそらく奴の力は万物を創造する能力…それしか使っていないように見えるのは、もう一つの能力が戦闘向きではないか、使いにくいか…奴が魔王であることは間違いないだろう。ふん…インファイトでケリをつけてやろう。)

 冥崎は走り進み、合理に殴りかかる。

 それに対して、合理は巨大な鉄塊を生成して迎撃する。

(斬られてもいい、圧し潰せば…!)

 ─鉄塊は、溶けかけのチーズのように歪められた。

 冥崎はそれをくぐり抜けて進んでいく。

(これが奴の最後の能力か!いや、もしかすればそれがブラフの可能性すらある!…ともかく)

「震えているぞ」

 冥崎が、刀の間合いに入った。

(僕は…怯えてるのか…二人を殺した怪物に…!嫌だ…。恐怖の中、本意を果たせずに死ぬことは、生物として最大の屈辱だ!僕はずっと、皆のためにも諦めてはいけない!)

 刀が、鉄の鎧と拮抗する。

 その間に冥崎は手を伸ばす。

(触れられれば終わり。時間はもうない。僕ができることは唯一つ…!)

 冥崎の右手が、合理に触れた。

(勝っ…)

「ギャンブルしようよ」

 掴まれた右手から、冥崎は合理の元に引き寄せられる。

「相手は君じゃないけど」

 生成されたのは、手榴弾だ。

(まずい!位置を入れ替…)

 ガガアァァァァァン!!!!!








「ぐっ…!ここは!」

「ギャハハハ!オマエ、マケ!マケ!」

「ベルゼブブ、儂は…死んだのか」

「ソウ、ジャア、オマエ、キョウノメシ!」

「…人を辞めた者には、碌な末路は待っていないと儂の父は言っていたな。夢を…見たかった。例え破滅を代償としても。」

 パクリ

 冥崎は、ベルゼブブに一口で喰われていった。








「もう、明日で最終日なんだね。…僕の契術が治癒能力でよかったよ。」

 ホテルは冥崎の生み出した樹海に巻き込まれて、粗方壊れてしまった。

 災害の後なので人もいない。

 よって、合理は物陰に隠れて野宿をすることにした。

「マモン、僕は気づいたことがあるんだ。…復讐って、後から凄く虚しくなるね。」

「言っては悪いですが、貴方の逆恨みの部分もございましたよ。…ですが、貴方にエゴが芽生えたことは良い傾向です。強者は、必ずと言っていいほどエゴイストですので。」

「あと…何人?」

「5人でございます。卯月様、米沢様、宮藤様、そして…平様。」

「平さんまだ生きてたんだね…、あとそこまで公開してよかったの?」

「全員にこのタイミングで公開することになっておりますので。」

「なるほど、それを一日で…十分だね。」








 平の家は他とは違い、これまで奇跡的に被害を避けていた。

「おいサタン、お前も呑めよ!」

 平はサタンに缶チューハイを手渡す。

「決戦前夜だぞ…?アルコールを摂取して大丈夫なのか?」

「いいだろ、好きなようにやった方が強いんだよ俺は。」

「…そうか」

 サタンは缶を開けて、中身をすぐに飲み干す。

「安っぽい」

「バァカ、この安っぽさが美味いんだよ。わかってねぇなぁ。つーかあのビビリ、ここまで生き残ってたんだなぁ。」

「もう手は組めんぞ」

「わぁってるさ、会ったら全力で叩き潰す。」








 卯月は、ボロボロのビルに雑魚寝していた。

「卯月様!いよいよ明日は最終日ですわ。いやぁ、本当に愉しみですわね。」

 ベリアルが話しかけてくる。

「言っておくが…私は君たちの事をあまりよく思っていない。」

「あら?理想の世界はお気に召しませんで?」

「君たちはこの世界の滅亡…せめて、人々をどうにかすることはできなかったのか?」

「やろうと思えば可能ですわ…ただ、そんなこと面白くないでしょう?」

 ベリアルはここ最近で、最も口角を上げた。

「やはり…君たちは悪趣味だ。人間のことを玩具としてしか見なしていない。絆も愛も…ないだろうな。」

「前者は否定しませんが、後者は違うと思いますよ。…まぁ私にはどちらもないのですが。」








「…生き残りももう少ななったな。」

「ちーなーみーにー、宮藤ちゃんが唯一の現存している眷属ッス!おめでとうございまッス!」

「ほーん、ま、悪い気はせぇへんな。」

「で、米沢ちゃんは?」

「寝た。昨日今日とめっちゃ疲れとったからな。ちなみにウチはショートスリーパーやからまだ眠うないわ。」

「ショートスリーパー凄いッスね!まぁ悪魔に睡眠はいらないんだけど…」

「あーせやせや、一つ聞きたいんやけど…」

「なンスか?」

「米沢はんが『もう少しで悪魔になれる』、ってゆーてたけどどういう意味や?」

 アスタロトの頬が赤く染まり、ニンマリと微笑みだす。

「ヤバいッスよ!米沢ちゃんホントにサイコーッス!希望とともに期待のボルテージが半端ないッスよ!」

「ちょ、米沢はん寝てんねんから!」

「ごめんなさいッス…じゃあそろそろドロンするッスよ!おやすみなさいッス〜」



 アスタロトは、自分の部屋に戻る。

 部屋には、沢山の箱があった。

(今まで見てきたけど、米沢ちゃんは最高の逸材ッスね。固い意志、高い能力、何より…期待に応えてくれそう♡)

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