第5話 『ひぽくりーと・こわーど!』

「行きましょう、武丸さん。」

 そう言うと統城が鞄からスタンガンを取り出した。

 そして、2人は合理に走って近づいていく。

(2方向からの攻撃…。でも、僕だって引けない。催眠ガスで眠らせて…)

 合理が右手を前に出すと、紫色の煙が生み出される。

「吸ったらヤバそうだな…まぁ関係ないが。」

 武丸の手から穴のようなものが生まれた。

 その穴に煙がどんどん吸い込まれていく。

 統城がその間にどんどん接近してくる。

(物を吸い込む能力…!?なら…)

 合理は大量のピンを抜いた手榴弾を取り出して投げた。

 ドゴン!ドン!ドドン!

 手榴弾が次々と爆発していく。

「ゴホッ…おいおい、煙の次は手榴弾かよ!物を作る契術か!?」

(傷つけたのは申し訳ないけど…でもごめん、ここから逃げさせ)

「逃げられるとお思いですか?」

 統城が、背後にいた。

(あの煙の中でどうやって…!?)

 パチン!

 統城が指を鳴らした次の瞬間。

 ─スタンガンは合理の首元に迫っていた。









 ザンッ!

 スタンガンと、統城の左手が飛んでいった。

「…!?」

 統城は自身の左手が黒刀によって斬り裂かれた事を少し遅れて認識する。

 煙が次第に薄れてきた。

「統城…!?」

 段々と、黒刀の持ち主の銀髪碧眼の少女の姿が露わになる。

「─何やってるの。」

 位置的にも、間違いなく彼女がであることを合理は知った。

「…ありがとう。ところでどうして気づいたんだ?」

「これだけ派手にやったら、気づく。敵同士なら漁夫の利を狙おうと思って近づいたけど─礼はいいから、さっさと倒す。」

「─わかった。」

 合理は『大人のくせに』目の前の少女に少し心強さを感じて、そんな自分が少し情けなくなった。

「あの男の契術はブラックホール。煙を吸い込むのに時間がかかったからおそらく、吸い込めるのは一度に一つまでだと思う。女の方は…瞬間移動っぽいが…姿勢も変わっていたんだよな。」

「どこからどこまで移動したの?」

「俺に近づいてそっから…もしかして短時間の時間停止か?」

「…正解です。」

「なぁ、手は大丈夫かよ?」

「─私、両利きなので。」

 右手で落としたスタンガンを拾い上げて、カチカチと鳴らす。

「─来るぞ。」

 武丸がもう一度ブラックホールを創り出した。

「来るのはそっちの方だろ。」

 次の瞬間、合理の身体が武丸の方へと飛んで行った。

 咄嗟に電柱を掴んで抵抗するも、腕は限界寸前だ。

 銀髪が武丸に斬りかかろうとする。

「駄目だ!そうなったら奴は吸い込む対象を変更して、君が吸い込まれる!」

「でもどうすれば…」

「何も思いつかないなら、僕の思いつきに付き合ってくれ!」

「…!わかった。」

 合理はロープを生成して、自身の身体と電柱に巻き付ける。

(程よい長さのロープで吸い込まれないようにしようって算段か?なるほど、俺のブラックホールは動かせないから吸い込めない─が、それで近づいても統城の餌だ、何か出してきても俺が吸い込んでやる!)

 武丸の予想通り、合理はブラックホールに飛び込む。

 ─が、武丸の予想に反してロープは合理の身体がブラックホールに入るぐらいの長さだった。

 しかも、銀髪が同時に迫って来ている。

(自分を囮にして女を攻めに行かせる…、いやそれにしてはやり方が拙いぞ…!)

 合理は自分が吸い込まれかけたその時、自身を覆う鉄の球体を創り出す。

 ─それはブラックホールより、遥かに大きかった。

(物理的にブラックホールを塞がれた…!?─なら一旦消して女の方を吸い込む!)

 その間に、女が斬りかかってくる。

 パチン!

 統城はもう一度指を鳴らす。

 ─と同時に、時が止まる。

(さっきは男に近づいた瞬間斬られた…。おそらく女の方の契術は超高速の居合。─なら。)

 統城は銀髪の刀を奪い取り遠くへ蹴飛ばした。

(よし、私の左手を奪ったツケ!払いなさい!)

 ─時は動き出す。



 ザシュッ

「あぐっ…」

 刀が、統城の胸に刺さっていた。

「─私の刀は、設定した対象が私から約10cm以内に入ると自動的に対象を攻撃する。」

 女が刀を引き抜いて手に戻す。

「─強いとこは、ノーモーションでできるとこ。」

「統城ォォォォォォー!!!!!」

 統城が倒れると同時に、ブラックホールの作り直しが完了する。

(─こうなりゃ女だけでも!)

 合理を覆う球体が突如自壊した。

 合理はすぐに、女の体を吸い込まれまいと支える。

(合理の方に対象を変えても…支える側が入れ替わるだけか。ならやることは一つ。)



「すいませんしたーーーーーーっ!!」

 ─武丸は逃げ出した。

「─最善手だね。ブラックホールが消えるまで、僕達は彼を追いかけられない。ところで君、名前は?僕は合理帝。まぁもう察してると思うけど、強欲の魔王は僕だ。」

「渋谷銀子。あ、穴がちっちゃくなっていく。」

 ブラックホールが消えた。

「ありがとう。君がいなきゃ僕はどうなっていたことか…?」

「いえ、あなたの頭の良さにも助けられた。




 ─その上で、厳しいことを言う。」

「…」

 合理は薄々わかっていた。

「遠くから見てたけど、さっきの戦い殺す気なかったでしょ。本気で殺したいなら、マシンガンとか出せばよかったはず。手榴弾も威力が低いヤツ。到底殺すことはできない。」

「…人を殺したくな」

「でも私にやらせることは平気なんだ。」

 合理はやはり自分の醜さはわかっていた。

 なのに、一瞬言い訳に走ろうとした自分を恥と感じた。

「ごめん。」

「いい、私はそうゆうことは慣れてる。ただ、覚悟を決めないと…辛いのは君。

 ─いつかわかる、私はそれを知っている。」

(僕は…最低だ。だから、変わらなきゃ、あの時から抜け出して変わらなきゃいけないんだ…。殺さなきゃ、僕の理想は叶わない。)

「辛気臭い雰囲気は一旦リセット致しましょう。もう一人を探しませんと。」

 マモンが現れて二人の間に入った。

「ん、それもそう。先、急─」

「あーちょっといいかー?」

 突如横道から何者かが現れた。

 合理達に話しかけてきた革ジャンの女性と、

 白いマスクをつけている少女、眼鏡のひょろ長いサラリーマンの3人組だ。

 さらにその直後に、赤鬼を思わせる怪物まで出てくる。

「マモンか…相変わらずだな。」

「─サタンですか。こちらこそ、ですね。」

「おいおいお前ら知り合いかー?まぁそれは一旦置いといて、お前らに話があるんだけど。強欲の魔王さん。」

「─聞こえてたんですか?」

「まぁあれだ、俺は勘が鋭くてな。さて、まずは自己紹介と行くか。俺は平魅美。憤怒の魔王をやってる。メガネのヤローは出口太郎。マスクのガキは稲葉アリスだ。あんたらは?」

「合理帝。こっちは渋谷銀子。あと話って?」

「OK!トーキングする姿勢がありそうで何よりだ!で、本題だが…」

 平はニンマリと笑って言った。

「─俺達と手を組まないか?」

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