第14話 【回想】焦燥
約束の日、瑞紀はいつもより少しおしゃれをして、浩紀の舞台を見に行った。
本人はちょい役と言っていたのだが・・・。
それでも、やはり舞台メイクをしているので、ぱっと見の浩紀は全然違う人物に見えた。
そして、よく見たら・・・。
「あれ、私が縫った衣装じゃ・・・!?」
と内心で思った。
舞台が終わって、瑞紀は浩紀と会うことができた。
「お疲れ様です、浩紀くん。」
「あ、瑞紀ちゃん!舞台、本当に来てくれて嬉しいよ。どうだった?」
「最初誰かと思ったけど、演技も本当にすごくてびっくりしちゃった!」
「そっか。それは良かった。でも、まだまだここじゃ終われないよ!」
「凄いよね。」
夢に向かってしっかりと歩く浩紀が眩しく見えた。
瑞紀は帰り道、複雑な気持ちでいた。
浩紀が夢に向かって前進しているのに、瑞紀はカフェの調度品やらメニューを考えることで精一杯、前進しているとはいえ明らかに浩紀以上に牛歩だった。
「もし・・・、秋までにカフェとして開ける事ができなかったらどうしよう・・・。」
瑞紀は冬になると動くことが困難である。
寒がり、というよりかはほとんど体質というものだが。
「ただいま・・・。」
「あ、おかえりー!みずきー、どうしたの?」
「げんきないよ?」
「ううん、大丈夫。ちょっと慣れないことをして、疲れただけだよ。」
「そっかー。じゃあ、きょうはもうおやすみする?」
「ううん。今日も焼き菓子練習しないと。」
「ぼくたちもてつだうよ!」
「じゃあ、お願いね。」
だが、何度練習してもカップケーキが上手く膨らまない。
「どうしてだろう・・・?あ!」
「ねえみずき、これ、いれた?」
「ベーキングパウダー入れ忘れてた。膨らまないわけだよ・・・。」
失敗作を片付け、瑞紀は椅子に座り込んだ。
「こんなに失敗ばっかりじゃダメだね・・・。」
「みずき、やっぱりきょうはおやすみしようよ。」
「そうそう!だって、いっつもみずきもいうじゃない!」
「だれだってしっぱいする、ってさー。」
「そうだけど・・・、このままだったかカフェだって開けられないかもしれないじゃない!」
「いいから!みずき、あとはおれたちがかたづけするからさっさとやすんで!」
はじめは無理やり部屋から瑞紀を追い出した。
「あの子たちにも気を遣わせちゃった・・・。本当、今日はだめな日だな・・・。」
瑞紀は一人落ち込むと、窓に影が映る。
木のツタが、部屋の窓を覆っていた。
無意識に、瑞紀は力を使ってしまっていたらしい。
「ああ、もう!なんでこんな失敗ばっかりの日なのよ!」
瑞紀は思わず日記に八つ当たりした。
「みずき・・・、おそと、まっくらだよ!」
恐る恐る、女の子が声をかける。
「・・・怖いよね、大丈夫。」
「みずき、いっしょにいていい?」
「いいよ。おいで。」
瑞紀は女の子が傍にいる事で気持ちが少し落ち着いた。
この子たちを守らねば、心配かけさせるわけにはいくまい、と自分を必死に鼓舞する。
翌日、朝から外は大雨だった。
仕事もなく、瑞紀は一日焼き菓子やチョコ菓子の練習を続ける。
焼き上がるまで、ただぼんやりと外を眺めている。
「こげてる!」
「うわっ!大変!・・・あー、またやっちゃった・・・。」
子どもたちは不安そうに瑞紀を見つめた。
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