第11話 いたたまれなくて

 相当ショックだったようで、オレンジピールのメンバーは次の日、出勤して来なかった。5人で申し合わせたのだろう。俺たちヘアメイクも、彼らがいないのでは仕事がないので帰る事になった。会社としても危機である。

 歌番組の方でも、スタジオに歌手を呼ぶのを控えるようになった。各自リモート出演というのが主流になった。オレンジピールも、リモート出演を求められた。

 コンサートの中止が決まって一日サボったオレンジピールのメンバーは、その翌日には出勤してきた。彼らは会社の入っているビルの中に住んでいるので、外には一歩も出ずに出勤して来るのだ。それに比べて俺は、多少なりとも電車に乗ってくる。俺たち外部の人間から、オレンジピールに新型コロナウイルスを感染させてはいけない。俺らは会社に出勤してくると、検温・消毒はもちろん、3日に1回のPCR検査までする事になった。やれやれだが、仕事があるだけマシである。

 おとといはかなり落ち込んでいたオレンジピールだったが、出勤してきた時にはすっかり気を取り直したようで、ニコニコしていた。どうしてあんなに笑っていられるのか。俺はむしろ不思議に思った。

「お、今日は調子良いな?」

鏡の前に座った瑠伽にそう言うと、

「昨日は久しぶりにいっぱい寝ちゃったよ。泣いたし、たくさん寝たし、また顔がむくんでるでしょ?」

そう言われて、俺は瑠伽の肌の状態をよくよく見た。

「確かに、目が腫れぼったいし、むくんでるな。」

調子がいいと思ったのは、お肌の事ではなかったようだ。よく休んで元気になったのだ。体の調子が良くなったのだろう。それにしても、普通は週に2日は休みたいところなのに、たった1日休んだだけでそんな・・・。俺はいたたまれない気持ちになった。

「また冷たいの、やってくださいね。」

瑠伽がニコニコして言う。俺は冷凍庫から化粧水を出して来て、コットンに含ませ、瑠伽の両目のまぶたにそっと当てた。そして、それを頬にずらす。

「なんで、そんなに笑ってられるんだ?」

「え?」

つい、口をついて出てしまった疑問に、瑠伽は驚いて聞き返した。

「あ、いや。何でもない。」

そうは言ったものの、何だかいたたまれなさが止まらない。俺は瑠伽を後ろから抱きしめた。

「えー!ちょっと、梨陽さん?」

瑠伽は驚いて声を上げた。動画を撮られていたって、知るもんか。瑠伽が、オレンジピールのメンバーが、可愛そうでいたたまれないんだよ。泣いていた彼らを思い出して、胸が痛いんだよ。

「ど、どうしたんですか?」

隣に座っていた大哉が俺にそっと聞く。俺は瑠伽を放し、今度は大哉の事を前から抱きしめた。

「え?梨陽さん?」

俺はようやくの思いで大哉を放した。涙が目から溢れやがる。

「な・・・泣いてるんですか?」

大哉の綺麗な顔がぼやける。

「俺は・・・。」

声もかすれる。一度咳払いをし、もう一度言う。

「俺は、お前らが気の毒でたまらない。俺は、会社からお前らを守りたい。もっと、休んで、自由時間も寝る時間も、プライベートな時間も、作ってやりたいんだ。」

俺は何を言ってるんだ。他のスタッフだってその場にいるのに。すると、若宮さんが夢羅の髪をセットしながら、こう言った。

「いいんじゃない?頑張れ!」

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