第4話 なぜ練習にメイクが必要か

 練習の時には、ナチュラルメイクでと言われていた。俺だって、舞台用のメイクと同じようにしようとは思っていない。ドラマ用とでも言おうか。化粧していないかのように見せて、実はしているというメイクだ。男の子だからその方がいいだろうと思ったのだ。

 オレンジピールのメンバー全てのメイクを終え、道具を片付けようとすると、

「花村君、片付けなくていいわよ。ちょくちょく使うから。」

と、言われた。

「あ、はい。分かりました。」

と答えたが、俺はまだ分かっていなかった。

 オレンジピールの練習が始まった。すると、カメラが出動した。スマホで撮影するスタッフも多数。だが、けっこうごついカメラでも撮影している。

「あれ?練習じゃないんですか?ドキュメンタリーとか?」

俺が近くにいた人に聞くと、

「練習だよ。」

そう、言われた。じゃあ、あのカメラは?と思ったが、撮影されているのでは、こちらの私語が入ってしまうと思い、口をつぐんだ。

「じゃあ始めよっか。」

「おう。」

彼らはウォーミングアップを始めた。楽しそうだ。確かに、決まった演技をしているようでもない。しかも、メンバー同士髪の毛をくしゃくしゃっとしたり、好き放題だ。ああ、せっかく整えたヘアースタイルが。いや、練習だからいいのか。

 そして、彼らは自分たちの新曲の振り付けの練習を始めた。何度も何度もやっている。時々ぶっ倒れる。それでも、また起き上がって踊る。

 休憩になった時、回りのメイクさんたちが一斉に動いた。彼らのメイクを直すのだ。カメラも回ったままのようだ。

「あー、どうもここの動きがわかんないんだよねー。」

真生は休憩になっても座り込んだりせず、くるくるっと回るところを懸命に練習している。そこを、すかさずメイクが手を伸ばして顔の汗を拭いたり、粉をはたいたりしているのだ。

 驚きだった。なんか、危なっかしいじゃないか。

「柊人ぉ、俺できないんだけど。」

真生が言うと、柊人が立ち上がった。

「これ?」

「そうそう。いやー、なんで柊人はすぐ出来ちゃうんだろうなあ。」

俺は出遅れた自分を恥じた。そして、柊人の汗を拭いた。そして他のメンバーも見る。大体他のメイクさんがやってくれたようだ。そして、また練習室の壁際にぺったりとくっついて立つメイクスタッフ。やれやれ。今までの仕事とは大違い。終わりがない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る