第50話 浅野昴、恋愛相談する

 年もかわり、仕事も始まって正月の雰囲気も落ち着いた頃、昴は悶々と悩んでいた。


 去年は沙綾と出会い、友達から泣き落としで恋人に昇格することができた。梨花の采配で同棲をもぎ取り、年末には念願の初チューもゲットした。親戚にも紹介してもらい、「結婚前提のお付き合い」も認めてもらえ(いつ結婚するのか聞かれた際、「まだ具体的な話じゃないから」と沙綾が答えたのには、かなり凹んだが)、すっかり恋人らしい雰囲気も……ごくたまーにだが漂うようにもなった。……たぶん。昴の希望からくる勘違いではないと思いたい。


 付き合って四ヶ月。いまだにチュー止まり。しかも、まだベロチューにも至っていない。男女のアレやコレやは経験豊富でも、男女交際の経験はない昴だから、これが正常な恋愛の進み方なのかがわからない。よくキスまで○ヶ月、エッチまで△ヶ月とかいうが、はたして良い年の大人で、しかも同棲までしている男女がこれでいいのだろうか?


 いや、良くない!!

 主に昴のスバル君が大変ご立腹だ。

 中学生の恋愛でも、もう少し進展しているんじゃなかろうか?! 


 主に昴がヘタレなのと、沙綾が鈍感過ぎ&切り替えが早過ぎるせいなのだが、いまだ清い関係が継続中だ。

 初めてキスできてから、ちょっと馬鹿みたいにキスし過ぎた。それこそ挨拶のように。そのせいか、沙綾がフランクにキスを受けてくれるようにはなったのだが、そこからいざ!!……という雰囲気に持っていき辛くなった。


「で、普通ならどれくらい付き合ったらエッチOK? 」

「ってか、まだっていうのが驚きなんすけど」


 今日は仕事帰りに結菜が家に遊びにくるというので、昴は谷田部を誘って飲みにきていた。

 数杯生ビールを飲んだところで、愚痴(沙綾が可愛すぎて辛い)から始まり、赤裸々な同棲生活(おはようのチューから始まり、おやすみのチューで別室で就寝。いまだに沙綾の私室を入ったことすらない)を語り、恋愛相談(いつ、どのタイミングで、どうやって、エッチにもっていったらいいのか?!)に突入していた。


「だよな。俺も驚きだよ。たいていは会って数時間もすればベッドの中だったから」

「まぁ、なんとなくわかります。遅くても二回目くらいにはなんとかっすよね」


 谷田部はうんうんと頷いて昴の言葉を肯定するが、それが常識でないことに谷田部も昴も気がついていない。


「エッチまでに最長かかったのは、中学の時の二番目の彼女っすかね。彼女が初めてだったからなかなかOKでなくて……あん時は三週間待ったっす」

「三週間……」

「いやぁ、彼女のこと好きだったから、我慢しまくりましたよ。なんの修行だよって思ったっすよ」


 三週間で最長……。しかも我慢しまくり。四ヶ月待っている昴は、すでにサトリが開かれたかもしれない。


「相手初めてだったんだよな? どんな感じで誘った? 慣れた相手ならさ、ちょっとした雰囲気でなんとなくわかるじゃん。あ、こいつ、ヤリ目だなとかさ。こう、距離感とか、ボディータッチとか、視線とかでさ」

「そっすね。まぁ、そういう相手は楽っすよね。でも、相手が初めてだとそうもいかないんすよ。最初、いきなりやろうとしたら泣かれちゃって、やりたいだけなら別れるとか言い出したりして、初エッチの筈がいきなり修羅場っす」


 谷田部の話から、いきなり襲うのはアウトだということを理解する。沙綾に泣かれて、土下座して謝る未来しか見えないから。


「それが、どうやって三週間でその気にさせたんだ? 」

「徐々にスキンシップをランクアップさせていったのと……」

「と? 」

「土下座っす」


 どっちに進んでも土下座しかないのか?!


 沙綾の為ならいくらだって土下座しても良いとは思っている。それで沙綾の心も身体も自分のものにできるのならば、全く問題ない。

 でも、それって沙綾にとってどうなんだ? 一生に一回、本当に一回しかない初めてを、土下座なんて情けない姿とリンクして記憶されたくない。やはり幸せな気持ちで……というのは少女漫画の世界の話だよな。実際はかなりグロくて現実的な行為だから。女子の初めては痛いと聞くし。


「やっぱ、最初は大変? なかなか入らないとか」

「いや、そこはなんとか。ただ、彼女ずっと痛がってて、しかも終わったらかなりスプラッタ状態で、さすがに二回目したいとか俺が思えなくなっちゃって、結局そのまま破局っす」


 それはそれで最低だな、谷田部。彼女からしたらヤリ捨てじゃないのか?


 谷田部にとってもそれはトラウマになったらしく、それからは明らかに処女ではない娘と付き合うようにしたら、即日エッチ、付き合ってすぐに別れるということを繰り返すようになり、今のチャラい谷田部が誕生したらしい。


 イケメン二人は手羽先をつまみにビールを飲みながら、「処女を相手にするには」という女子が聞いたらひきそうな話題を真剣に話し合っていた。しかし、処女未経験の昴と処女にトラウマがある谷田部では正解を導き出すことはできず、あーでもないこーでもないと時間だけが過ぎてしまった。


「そういえば、寺井とはどうなってるんだ? よく二人で飲みに行くんだろ? 」


 谷田部がスマホを出して、結菜に帰る時に連絡してとラインを送っているのを見て、二人は付き合っているのかと思い聞いてみた。


「そっすねー、ちょこちょこ行きますね。結菜ちゃん、あんな美人ちゃんなのに女女してなくて、話すと面白いんすよ。エッチの相性もいいし、俺は付き合えたらとは思ってるんすけどね」


 ビールからウーロンハイに切り替えた谷田部は、大きくため息を吐く。


「付き合おうって言ってないのか?」

「いや、何回か言ってますよ。ただ、毎回スルーされるんすよ。なんでっすかね」

「真面目に取られてないんじゃないか? どうせ軽く言ってるんだろ」

「そりゃ、チ○コに彼女の名前彫るとか言い出す誰かさんに比べたら軽いかもしれないっすけどね」

「それくらいの気合いで言えよ」

「嫌っすよ! 結菜ちゃんなら彫って見せみろとか余裕で言いそうですもん」


 確かに良い笑顔で言いそうだ。

 結菜が昴にアピールしていた時は、女らしさを全面に出してぶりっ子していたものの、かなり押せ押せで気の強さを垣間見れた。沙綾との関係がバレてからは、すっぱりと昴のことは諦めたらしく、その態度はかなりぞんざいになり、けっこうきついこともズバッと言ってくるようになった。好意の表し方も、その逆も、結菜は徹底していてわかりやすい。恋愛感情は抱きようがなかったが、悪い奴じゃないのだ。


「ま、頑張れよ」

「彫らないっすよ」

「そっちじゃないだろ」

「まぁ、今の関係も楽っちゃ楽なんすけどね」


 少し前の昴ならば、おおいに同意しただろう谷田部の発言だが、セフレに反応しなくなってしまうくらい沙綾にのめり込んでしまっている今、ただの自慰行為と同様のセフレとのセックスよりも、大好きな彼女と身体を重ねる方が絶対に気持ちいいだろうなと思った。

 ただ、まだそこまで至っていない身の昴は、ビールをあおって谷田部の発言をスルーした。セフレよりも彼女とのセックスの方が百倍気持ちいいと言ってみたいと切に思いながら。

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