私服でも剣士

 そしてやってきた日曜日。

 俺はごはんをおかわりした。昨日は家で跳躍素振り前後飛びながら素振りしまくったからかよく眠れた。夢の内容はあんまり覚えていないが、道城はいなかったと思う。

 出かけるまでの時間掃除した。父さん母さんは先にそれぞれ出かけていった。そわそわ。


 愛車である緑色のフレームのマウンテンバイクを操って、校門の近くまでやってきた。

 校門ドまん前だとほら、部活なのかなんなのか、ほんのちょこっと学生も通ってるみたいだし。

 基本的には、日曜日はどの部活も休みなはずなんだけどさ。園芸部とかは日曜日も行ってるな。

 てのはともかく、白のシャツに茶色のジャケット、黒の綿パン、ベージュのスニーカー、紺色のリュック装備で来たが……

(小学生のときは私服が当たり前だったはずだが、今はセーラー・体操服・道着の三種類ばっかだからなぁ……)

 文化祭も、別に仮装とか劇とかなかったし。

(私服も道着だったらどうしよう)

 …………案外悪くない気がする。

(ってうおおお!!)

 見覚えありすぎる身長! 見覚えありすぎるピシッ! 見覚えありすぎるキリッ! 見覚えなさすぎる水色の服! 見覚えなさすぎる白い膝下までのスカート! スニーカー装備は俺と似ている! 見覚えなさすぎるちっちゃいオレンジ色のカバン!

(あ、あれが普段の道城ってのか!?)

 中学進学以降、俺の夢の中で出てきた道城は、制服か前日にテレビで観たことがあったような服って感じが多かった気がする。しかし! 今目の前にたどり着いた道城は!

「おはよう」

「お、おはー」

 まぎれもなく、現実の! 私・服・道・城!!

(やっぱ現実の道城かわいすぎたわ)

 水色の服っつっても、首元ちょっと開いてるし、なんかフリフリちょっと付いてるし、もうほんとあんただれだよ! いや道城ってわかってっけど!!


 待ち合わせに成功し、なんとなく公園へ向かうことになった俺たち。

 俺は両手でマウンテンバイクのハンドル持ちながら歩き、すぐ左隣を道着じゃない道城が歩いている。

「え、えぁーっと。それで、ど、どーしたんだよっ」

 なんで相手の服が違うだけでこんなテンション上がんだろうな、人間っつーのは。

「いや……」

(嫌!?)

「……朝の会が始まる前だと、時間が少ないから……ゆっくり話を、したかっただけだ」

 あ。俺。今日人生のピークですわ。

「ま、また夢の話の続きかっ?」

 シミュレーションがまだまだ足りないぞ!

「その話でもいいし、違う話でもいい」

 学校の廊下とかなら、たまー……に横並んで歩いたこともあったけどさぁ。

「違う話かー。小手って痛いよな」

「……そうだな」

 あ、こんなのでおもしろかったのか? 口元でちょこっとだけ笑ってるのがわかった。

「そういや道城って、なんで剣道やってんだ?」

 意外と聞かないよな、こういうの。

「母さんが剣道をしていたから、私も始めてみた。それが今でも続いている」

「へー」

 授業参観や小学生のときのスポーツ少年団とかで、ちょっとは見たことがあった気がする。たぶん。

「古樫は?」

「俺は球技苦手だったから、スポーツ少年団で剣道を選んだってだけ」

 サッカーも野球も苦手だったのさ……。

「そうか」

 かっこいいんだよなぁー、道城のそうかっ。

「道城は、高校行っても剣道続ける感じ?」

「……どうだろう」

 おっ? 当然そうだって感じの返事が来ると思ったが、そうでもなかった。

「なんだ、続けねぇのか?」

「続けてもいいとは思っているが……」

 前を向いている道城。ったくどこ見てもかっちょええな。

「ただ続けているだけ、というので、本当にいいのかと思って」

 くぅ~真面目っ!

「せっかくここまで続けてきたんなら、そのまま突っ走っていいと思うけどな?」

(俺からしたら特技らしい特技これくらいしかねぇから!)

「そういうものか……?」

 あ、こっちちょっと見た。たまりませんね。

「お、俺は、剣道以外に得意なことねぇからな。道城もいるしぅぇべっ」

(ぐはっ、つい言ってしまった!!)

 俺的には焦ってしまったが、道城的には真面目に考えているようだ。ちょっとだけほっ。

「私がいなかったら、古樫は剣道を辞めるのか?」

 その目でこっち見ながらそんなこと言わないでくれぇ!

「だあ~っ! 即辞めるとかそんなんじゃあないたぁ思うけどよぉ! で、でも、いるかいないかなら、いてくれる方がいいかなってさっきから俺何言ってんだ……」

 あかん。テンション上がりすぎて壊れてっかも。

「ふむ……」

 なんか思ったような研究結果が出なかった教授みたいなあご付近右手ポジション。

「道城と違って、俺は団体戦でも補欠に入るかどうか程度だからな~。道城がいなかったら、どこ目標にすりゃいいか……なんてな」

 ハンドルの真ん中を右手だけで押し、左手は後頭部でえへへポーズ。

「私なんかを目標にしているのか?」

「ああぁ~、えぇ~っとだな~……」

 最終目標は好きです付き合ってくださいって言ってよろしくお願いしますって返事もらうとこだけどな!! 動機不順すぎますねはい!!

「お、俺なりの目標があって~、そこに道城がいて~……」

 普通クエスチョンマークを浮かべるときの表情って、もっとぼけーっとしてるようなものじゃないのか!?

「とっ、とにかくっ! これからも仲良くしてください!」

 この道城を前にすると、勝手にセリフが出てくる現象なんとかしてくんねーかな!

「ああ」

 んな~。そのキリッの中にもやんわりとした笑顔があぁあぁあぁ。

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