第7話

「私が転生した世界って、やっぱりゲームの世界だったんだ。それに、魔王が倒されてるってことは、クリアした後の世界なの?」


 クリア後の世界に転生したのであれば、平和なことも納得できる。でも、このゲームが選ばれた理由は不明だ。

 もっと楽しくプレイしたゲームはあったし、のめり込んだ小説もある。思い入れの度合いでいけば、このゲームは選択肢に入るはずはなかった。


 ただ短かい歴史の記述の中には、もう一つの事実が書かれていた。


「えっ?……この『勇者たかひろ』って、まだ生きている。……伝説とかじゃなくて、この世界でも魔王が倒されたのは30年以上前の出来事だったんだ。」


 ゲームの発売時期と、この世界の時間経過は同じらしい。

 30年以上前にクリアされたゲームの世界は並行世界として存在しており、そんな世界に転生してしまったとでも言うのか。


「そりゃぁ、RPGの中で恋愛要素を充実させようとしてもムリだったんだ。……でも、クリア後の世界で何をしろって言うの!?」


 魔王は存在していないから世界は平和であり、30年以上前の遊び要素の少ないゲームでは発展性は薄い。

 せめて魔王が生き残ってくれていれば冒険できたかもしれないが、魔王は溶岩の中に落ちて死んでいる。

        


 その他、このゲームについて記憶していたことを思い出してみた。


 『15歳の誕生日に国王に呼ばれて冒険が始まったこと』

 『魔界の門は勇者だけが開け閉め出来る』

 『世界を滅ぼそうとしている魔王を倒すことが目的』


 実に無難な展開で、昔懐かしのゲームとしても再販されることのないつまらなさ。私も暇すぎて仕方ない時にやっただけで、辛うじて覚えている程度だ。

 門番の魔物はボス扱いになっているが、それほど苦労せずに倒せてしまった。どんな魔王だったかも覚えてもいない。


「選りにも選って、そんなゲームじゃなくても良かったのに……。もっと楽しそうな世界はあったはずでしょ?」


 クリア後の世界であればゲームの知識など不要だし、新たな展開を期待することもできない。


 私は、本を開いたまま途方に暮れてしまったが、まだ知らない情報があるのかもしれなかった。ただ、王立図書館であるのに、それ以上の情報が載っている本が見つからなかった。



 今までのことを振り返りながら、考えをまとめてみても『魔王と七つの門』の世界に来ていることの意味が分からない。


「お父さんは、初めて買ったゲームだから大切にしてたみたいだけど、私には関係ないことなのに……。」


 黎明期に近いRPGなので、魔法の種類も遊び要素も少なかった。私の世代ではなくて、父親世代が懐かしむゲームに転生したことは納得いかない。


「……でも、魔王がいなくなっただけで、こんなにも平和な世界になるものなの?」


 その点にも疑問があった。

 歴史書から得られる情報が微々たるものだったとしても、これが大きな一歩であると信じるしかなかった。

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「先生、世界を救った『勇者たかひろ』って、今どうしてるんですか?生きていることは分かっているんですが、どこに住んでるのか分からないんです。」


「……『勇者たかひろ』のことを知って、どうするの?」


 いつもは、『質問に質問で返してはいけませんよ』と言っている優しい先生が厳しい顔をして私を見た。

 この世界に生れてから、初めての恐怖を感じてしまう。

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