第三回・漢詩のルールを把握せよ⓪

 第三回です。


 本題に入る前に、序文で話した、私が企画に参加した作品の中の『早朝』という詩を見ていただこうと思います。



「残月を溶かすように風は吹き、

 氷柱を透かして瞬く星は消えて行った

 遠く山の景に煙は立ち、

 時を告げる光が淡く濁っていく


 梅花の香りが、掌から逃げていく

 夢に見た微笑みが、みるみると翳っていく

 呆然とする私を、どうか笑わないで

 きっと夢の中で、綺麗な春を見ていたはずなの」



 詩としての巧拙はさておき(さておいてください)、この前半部を見て、「なんか漢詩の現代語訳っぽい」と感じた人は鋭い。市丸ギンの斬魄刀くらい鋭い。

 実はこの作品、もとはこういう形でした。



「残月溶かして風は止み

 氷柱透かして星は消ゆ

 遠く山の景に煙は立ち

 時告げの光淡く濁さん


 掌より逃ぐる梅花の香

 忽ちに翳る夢中の笑み

 忘我する朝と嗤う勿れ

 甘美たる昔日の花こそ」



 これはもう露骨に漢詩の書き下し文っぽいです。あるいは享楽隊長の斬魄刀の解号っぽいです。

 なんでこの形から変えたかというと、文字数を揃える遊びは他の詩でやってたので、ちょっとくどくなっちゃうかな、とただそれだけのことだったんですが、これ、一行の漢字の数を数えてみてください。

 ひい、ふう、みい……

 五つです。全部。


 ではこれを漢訳するとどうなるかといいますと――。


「残月溶風止

 氷柱透星消

 煙立遠山景

 告時光淡濁

 逃掌梅花香

 忽翳夢中笑

 勿嗤忘我朝

 昔日花甘美」


 こんな感じです。いえ、相当怪しいです。多分なにかしら間違えてます。

 まあそれはさておき、何だか見かけだけは五言律詩っぽくなります。だって一句五文字で八句あるもん。


 ただ、よく見れば、いえよく見なくとも何一つ詩としての体裁が整ってません。恥ずかしいのであまり見ないでください。

 それを次回で解説することで、漢詩のルールを説明していきます。




 というわけで、第三回『小説版のギンとイヅルの干柿のエピソードってエモいよね』でした!

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