第16話 借金 5080万8305ゴル
「僕がこの状況を予知した証拠。
それは…
テレージアさんの持っている荷物です。」
「な!?」
テレージアが荷物を持つ手に力を込める。
「ど、どうした?
テレージア?」
あまりにも過剰な反応に、剣を持っていた男が疑問を口に出す。
「な、なんでもない!
なぜ、こ、この荷物が関係するのだ!?」
「僕がこのことを予知した時、燃え上がる家の前でうずくまるテレージアさんの横に、その荷物の中身が落ちていました。
その中身を僕が当てることができたら、僕が【予知者】の能力が覚醒していること、信じてもらえますか?」
「え!?
あ、ああ…。
だ、だが…しかし…。」
どうにも歯切れの悪いテレージア。
「他に証明する方法はないのか!?」
必死なテレージアだが、残念ながらニクラスは別の選択肢を持っていない。
「すみません…。
他には思いつかないです…。」
「う…。」
「ま、待てよ!」
そこに冒険者の男が口を挟む。
「その中身をもともと知ってたのかもしれねえじゃねえか!
たまたま袋に入れるとこを見た、とか!
それに、テレージアが嫌がってるだろ!?」
テレージアに気に入られるいい言い訳も見つかったと、ここぞとばかりに責め立てる。
「…残念だが…、この中身を知っているのはこの町に1人しかいないはずだ…。
それに、これはさっきギルドからの帰り道に買ってきたのだ。
ここでお前たちと争っていたそいつが知る術は…ない…。」
「くっ…。」
「だが、この中身をここで晒すのはできるだけ避けたい。
中身を言い当てた場合はしょうがないから見せるが、外れていた場合は見せんぞ!?」
「…わかりました…。
テレージアさんを…、信じます。」
テレージアの言い分では、当たっていても外れたと言い張ることもできる。
だが、テレージアはニクラスのことを【よた野郎】と呼ぶのをやめていた。
まだ疑っているが、1人の人間として向き合い始めている。
それを感じたニクラスは、テレージアのことを信じることにした。
「では、その中身が何か、言いますね?」
「あ、ああ…。」
「その中身は…、
イワトリ、です。」
「「「は!?」」」
冒険者3人組は素っ頓狂な声を出す。
テレージアは、俯いたまま荷物を両腕で抱きしめている。
中身を見せる素振りは…、ない。
「…は、はははは!!
お、驚かせやがって!!」
「やっぱり【よた野郎】でしたね!
なんでイワトリを大事に抱えて帰ってくるんですか?
そんな変人いるわけないでしょう!?」
「残念だったな〜、【よた野郎】?
じゃあ、お前には死んでもらうぞ?」
三度剣を振り上げる男。
(ま、間違いなくあの中身はイワトリだった!
て、テレージアさん……!)
テレージアに視線を向けるニクラス。
しかし、テレージアは俯いたまま目を合わせない。
「テレージアさん…。」
縋るような声でテレージアの名を呼ぶニクラス。
「往生際が悪いですよ。
もう諦めてください!」
「そうだぜ。
じゃあな、【よた野郎】!」
(もう…、ダメだ…。)
思わず目を瞑るニクラス。
「待ちな。」
「なんだ?
荷物の中身を見せないってことは、はずれなんだろう?」
「…いや。」
「あ?
なんだって?」
「…合ってる。」
「は?」
「だから!
こいつが言ったことは合ってるんだ!!
私が持ってるのは…、これだ!」
そう言うと、テレージアは袋からイワトリの…、ぬいぐるみを出した。
「「「え?」」」
思わずまた声が揃う冒険者3人組。
「つまり、火をつけようとしていたのは、お前ら3人だ!」
恥ずかしいのか怒っているのかわからないが、顔を真っ赤にしたテレージアが納めていた剣を抜く。
「私の家を燃やそうとするばかりか、無実の少年を殺そうとするなんて…、タダで済むと思うなよ?」
「おいおい、落ち着けよ?
確かに中身は当たったが、どっちが火をつけようとしたかの証拠になるわけじゃねえだろ!?」
「見ず知らずの私を助けようと危険を教えてくれた少年の声を無視し、お前らのような下衆を一瞬でも信じてしまうなんて。
…私の目が曇っていたんだな。
人の噂ほどあてにならないことは私が一番知っていたはずなのに。」
「なに!?
下衆だと?
下手に出てれば調子に乗りやがって…!」
「ふん。
このくらいですぐにボロを出すような奴らが、無償で人を助けるか?
そこの少年は謂れのないことで暴言を吐かれ続けても、こうやって私を助けようとしてくれたんだ。
私もその暴言を吐いたうちの1人だがな…。
すまない…、少年…。」
「テレー…ジア…さん…。」
再びニクラスの瞳から、涙が溢れでてくる。
両親が死んでから自分のことを信じてくれる人も、庇ってくれる人もいなかった。
優しい言葉をかけてくれたあの冒険者も、すぐに息を引き取ってしまった。
「チッ。
めんどくせえ。
もうやっちまおうぜ。」
「そうだな。
今なら周りに誰もいねえし、罪をなすりつけるのにちょうどいいガキもいる。」
「はあ。
穏便に私たちのおもちゃにしてあげようとしていたのに、馬鹿な女ですね。」
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