第11話 借金 5080万8305ゴル

結局、4日目の夕方には隣町クレンカに到着した。


装備の素早さ補正に身体が慣れてきたおかげで途中から早いペースで移動できたのだ。


あと1〜2日はかかる予定だったが、嬉しい誤算だった。



ニクラスはまず宿泊場所を探すことにした。


しばらく歩くと宿屋があったので、中に入って部屋が空いているか聞いてみた。



「お父さんやお母さんは?

 さすがに11歳の子ども1人じゃ泊まれないわよ?」


受付のおばさんに残酷な現実を突きつけられる。


「その格好…、もしかしてジョブ持ちの冒険者?

 もしそうなら泊まれるわよ?」


10歳でジョブが覚醒するこの世界では、幼くして冒険者として自立する子どももいる。


なにせ、レベルが1つ上がるだけで【ノービス】の限界を超えられるのだから。


しかし、ニクラスは首を横に振った。


「いえ…、ジョブはありません…。

 ありがとうございました。」


この国にいる限り、【よた野郎】の烙印からは逃れられない。


嘘をついてバレると大変だし、本当のことを言ったら罵倒されるだろう。



(結局、前の町とあんまり変わらないか…。)


ニクラスは町の外れにテントを張り、野営することにした。


(でも、前と違ってバルドゥルたちはいないし、お金もある。

 モンスターを倒すこともできるようになった。

 お金が貯まったら、家を買うことは…、この年齢じゃ無理か…。

 まずは借金返せるように頑張ろう。)


そんなことを考えながら、ニクラスは寝床に潜った。


(それにしても、なんだか前の家のことを思い出しちゃうな…。

 父さん、母さん…。)


 父と母を失った火事のことを思い出す。


 町の外れとはいえ、街道と違いモンスターに襲われる可能性がほとんどない場所での野営。

 

 張り詰めていた緊張が解れたこともあり、あの夜のことが思い出されてしまう。


 思い出すだけでも胸が痛み、眠りに落ちるまでかなり時間を要したニクラスだった。


 


 

 


「あぁ……!

 なんで…!

 なんで私の家が…!!」


燃え盛る一軒の家の前で、若い女性が力なく座り込んでいる。


火はもうすでに家全体を包んでいて、もう手の施しようがない。


ニクラスは何もできず燃え尽きていく家と、泣き喚く女性をただただ見ていることしかできなかった。






「…はっ!」


そこでニクラスの目が覚めた。


(今のは…ただの夢じゃないよね…。

 また予知したのか?

 モンスターに襲われた時はなかったのに…。)


予知夢を見るときと見ない時の違いについて考えるニクラス。


(予知夢を見るときは、寝る前に夢の内容と同じようなことを考えていた気がする。

 暴行を受ける夢の時は、暴行のこと。

 火事の夢の時は、火事のこと。

 モンスターに襲われることを考えながら寝たことは…、あるな。

 でも、見なかった。

 モンスターとの戦いではあんまり危険な思いしなかったから、かな…。)


ぼんやり条件のようなものが見えてきた気がするが、まだ断定できるほどの根拠がない。


(予知夢をこれからも見ていけば、そのうち条件が分かりそうだな。

 でも、それだけ危険な目に会わないといけないってことか…。

 いやだな…。


 それはそうと、あの女性の家をなんとかできればいいけど…。)


1人の女性が不幸に見舞われることがわかっているので、防ぎたい。


そう思うニクラスだが、女性にも場所にも心当たりがない。


さすがに対処するのは難しい。


(ひとまずはギルドに行こう。

 僕は居場所を伝える義務があるからな…。

 はぁ…、気が重い…。)



ニクラスは道を尋ねながら、重い足取りでギルドへ向かった。


受付に行くと、予想通りの反応が返ってきた。


「あなたが噂の【よた野郎】?

 わざわざこの町に来なくてもいいのに…。

 移動するお金があるなら借金を返したらどう?」


「すみません…。

 ここでお金を稼いで、ちゃんと返します…。」


大声で喋る受付嬢のせいで、ギルド内もざわつく。


「【よた野郎】だって!?」


「まだガキンチョじゃねえか!

 城の中で大層贅沢な暮らししてたんだろうなぁ?」


「俺らの血税でな!

 楽しんだ分はちゃんと返さねえとな〜!」


ギルド中の冒険者から罵声が飛んでくる。


ニクラスは泣きそうになる気持ちをグッと堪えながら、ギルド内の依頼書掲示板で依頼を確認する。


首都に比べると、かなり数が少ないようだ。


(採集や雑用もあるけど…、やっぱりレベル上げやアイテムドロップも狙えるモンスター退治を中心にやっていこう。)


そう思い、モンスター退治の依頼を中心に見ていると、言い争うような声が聞こえてきた。



「しつこいんだよ!

 いい加減にしな!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る