第17話 帰らずの森混成魔物部隊掃討戦 前夜

 2日後。

 掃討戦前夜。

 時刻は21時。


 普段なら大通りでさえ活気が薄まる時合。普段とは違い多くの冒険者が歩いている。

 目的地は冒険者ギルドだ。

 これから明日の明朝行われる掃討戦の作戦が伝えられる。

 掃討戦に参加する冒険者が集まってきていた。


 一日働いたあとでさらに働く。受付にいる職員たちの顔色は悪い。

 それでも都市を守るためにと奮起する。


 ギルド内を埋め尽くす人の群れ。

 その中にセリムもいる。


「夜遅くに集まってもらって悪いわね。掃討戦に関する説明を行うわ。聞き逃さないようにね」


 最前方に立つレイニーが告げる。

 お立ち台の上に立ち皆の視線を集める。


「依頼ボードに張り出してあった通り今回の掃討戦は魔物の混成部隊が相手よ。事前情報より数は増えて600ほどに膨らんでるわ」


 30分ほど前。

 魔物が巣食う場所に偵察に言っていた冒険者が帰ってきた。その時に告げられた事だ。


「やることは変わらない。掃討戦が失敗に終われば魔物は数日中には都市に押し寄せることになるわ。だから何としてでも倒してちょうだい」


 事前情報では500体。増えた数は僅か100体。

 問題は数じゃない。


 後に加わった部隊にどれだけ高ランクがいるかだ。

 Aランクが一匹でも混ざっていれば掃討戦は失敗の可能性すらある。


 偵察部隊も夜間では全てを把握しきれなかった。

 情報が足りない枷を理解して挑むことになる。


「では作戦を説明するわ」


 レイニー含め高位の冒険者が意見を出し合って決めた作戦は以下。


 森に入るのは少数の遠距離火力部隊A班。

 一斉に魔法を放ち魔物の数を減らす。

 A班は弾幕を張りながら後退。森を出て平野に誘導。平野に出た所を控えていた冒険者が魔法や弓部隊B班が一斉攻撃。

 完全に平野に出た所で掃討戦へ移行。


「作戦は以上よ。班分けに関しては各々の得意スキルによって決めるわ。これから決めるからことになるから得意スキルとランクを申告してちょうだい」


 受付職員総出で集まった冒険者のスキルとランクを調査していく。

 

 今回参加するのは100名余り。

 600もの敵を相手にするにはいささか心もとない。

 

 数は劣るが調べるとなるとそれなりに時間がかかる。

 調べ終わった職員たちはため息を吐いている。


 魔術師を主軸に火力が最も高い者たちをA班に。10〜15名。

 次点の者たちをB班に。10〜15名。

 残りは近接戦闘部隊――掃討部隊になる。

 セリムが配属されたのは掃討部隊だ。


 部隊分けが終わると同じ掃討部隊から疑問の声が上がる。

 標的はセリムだ。


「こいつFランクですよね。使えるんですか?」


 冒険者は6つのランクから構成される。

 Fランク――最底辺。討伐依頼を受けることは出来ない。雑用が主な仕事。

 Eランク――底辺冒険者。討伐依頼を受けられるようになる。

 Dランク――下級冒険者。一人前までもう少し。

 Cランク――中級冒険者まであと一歩。一人前。

 Bランク――中級冒険者。一目置かれるようになる。

 Aランク――上級冒険者。都市に2、3人いるかどうかのレベル。

 Sランク――超級冒険者。世界に数えるほどしかいない実力者。

 SSランク――神級冒険者。至ったのは伝説の勇者と呼ばれる存在だけ。討伐対象に神敵者が該当する。


 オードを熨した事実はあれど実践ではない。訓練だ。

 訓練と実践では天と地ほども違う。

 強者であっても実践では容易に死ぬ。実戦経験の薄い弱者なら尚更。


「実力問題ないわ。ランク的にも後方に配置するから」

「それなら良いですが」


 レイニーの回答に質問者は下がった。


「作戦決行は明朝よ。壁門前に2時に集合、その後に出発するからそれでまで準備をしておくように」


 解散の合図がなされ各々班ごとに散っていく。

 

 夜襲部隊のA(魔術師が主の火力主体部隊)。

 待ち伏せ部隊B(平野に出てきた魔物を一斉掃射する次点火力部隊)。

 掃討部隊。


 この3部隊の内部にもいくつか部隊分けがなされている。  

 AB部隊は3つの小隊からなされる。

 掃討隊は総数70。14班からなされる。

 5人1組から構成される。

 最もレベルの高いランクのものが部隊長を務める。


 低ランクに属するセリムは掃討部隊でも後方に配置される。

 安全面は約束されているが周りは低ランクだらけだ。

 自身が低ランクなので班は当然低ランク。


「これから命を預け合うことになるんだ。取り敢えず自己紹介をしておきたい。

 俺はガイ。見た通りの戦士職を取っている。今回リーダーを務めさせてもらうよろしく頼む」


 全身鎧を着けた大柄な男に続き他の3人も挨拶をする。

 長身痩躯の男性――戦士職。

 腰に鞭を携えた女性――調教師。

 ローブを纏い杖を持つ女性――魔術師。

 最後にセリムが自己紹介した。

 

「セリムだっけ? Cランクのオードとの戦いすごかったな」


 4人はセリムがオードと戦っていた所をみていた。

 下の者からすればセリムの行いは誰にも媚びず己の力でのし上がっていく英雄譚。そういう風に映る。

 血気盛んな者からは一匹狼然としたセリムは憧れの対象だ。


 グイグイ押し寄せてくる4人。

 セリムは顔をしかめ手を払う。

 冒険者ギルドを後にした。


 残された4人はもっと話を聞きたかったと残念がった。


 

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