第11話 高望み

 針の穴にラクダが通るより難しいという言葉がある。

 まず絶対に出来ないって意味だ。


 俺は今、そういう事態に直面していた。


「私、リボ払いで借金を500万円くらい作ってしまったんだけど、払ってくれるよね? 私のこと好きなんでしょ?」


 ……は?

 今、俺のこれへの愛が消えた。


 今まで愛嬌がある、楽しい、と思っていたこの女の美点が、全て消え失せた。

 目の前に居るのは、とても醜悪な肉の塊。


 そうとしか見えなくなって。


 この瞬間、彼女は「これ」に変わった。


 プロポーズするための、最後のデート。

 1年くらい付き合った女だったけど。


「結婚して欲しい」


 これを言ったら言われたのがあれだ。


 流石にね。彼女の言葉に、こう返したよ。


「前言撤回」


 俺のことをただの金のなる木だと思ってたことが分かってしまったら、こう言うしかない。


「……え?」


 すると、こいつは信じられないという顔をした。

 信じられないのはこっちなんだがな。


 だから、言い直してやった。


「前言を撤回する……たった今、お前が大嫌いになった」


 するとこいつはキレだした。


「あなた年収2000万円あるのにケチくさいわ! 貯金だって億近くあるんじゃないの!?」


「あったとしても、何でお前の借金を俺が払わないといけないんだ? 貯金を作るのがどれだけ大変かお前は理解しているのか?」


「女はお金がかかるの!」


「やかましい!」


 ……大喧嘩。

 そのまま俺たちは、予約してまで席をとったそのレストランの一級の席を立ち、お別れになった。


 その後、身の程知らずにもその女が俺に慰謝料を要求して訴えて来たので、こっちも腕利きの弁護士を立てて、逆に慰謝料を要求して訴えてやった。


 ……結果はこっちの圧勝。

 アイツは己の愚行で作り上げたリボ払いの借金の上に、慰謝料由来の新たな借金を背負うことになった。


 ざまあみろ。


 ……その後はもうどうでも良い気分だったけど、あの女、その後借金の多さに耐えかねたのか、置き引きをして警察に逮捕され、前科がついたらしい。

 アッタマ悪。流石というか。


 さて……


 なまじ、年収が多いと、金目当てのゴキブリが寄って来るから。

 考えものだよな。

 ちゃんと俺を見て、人間として扱ってくれる人と結婚したいよ。


 ……なので、俺はその結婚相談所を退会し。

 新しい結婚相談所で、こう申告した。


「俺の年収は200万円……と」


 そして希望条件は


「年収600万円以上で、兼業主婦をしてくれて、俺の親の介護をしてくれる女性……と」


 すると、こう言われた。


付合山ふごうやまさん。あなたの仰ってることは高望みです」


 なんでだよ!

 俺は普通の事しか書いてねぇ!

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