―第3話― 魔王軍襲来

 今日も今日とて、惰眠をむさぼる。

 これこそが、至福の時間というものだろう。

 だが、俺は知っている。


 こういう時に限って、邪魔が入るということを。


『緊急事態発生! 緊急事態発生! 冒険者の方々は、至急城門に集合してください!』


 ほらな。




「ジャスミン、何があったんだ?」


 大急ぎで来たものだから、未だに状況をつかめていない。


「魔王軍が攻めてきたのよ」

「は?」

「それも、幹部が」


 うん、この町はもう終わったな。


「そういうことだ。悪いことは言わないから、君は今すぐに帰りなさい」


 ……こいつまでいたのか。

 この嫌味な声、聞き違えるはずがない。


「なんだ、ルーズ」

「ローズだ! いい加減、名前を覚えろ!」


 普段俺を馬鹿にしてくることへの、細やかなお返しだ、バーカ!


「あなた、リアトリスに喧嘩を売るということは、パーティーメンバーである私にも喧嘩を売ってるととらえてもいいのね」

「そ、そんなつもりじゃ……」


 プッ、ざまあみろ。

 っと、そんな場合じゃないな。

 何か、強いものが近づいてきている。


「貴様らが、この町の冒険者か」


 その声に、先ほどまで騒がしかった冒険者たちも、一気に静まり返った。

 奴の声からは、並々ならぬ気迫を感じる。

 これは、本格的にまずそうだな。


「我が名はシリウス。魔王軍幹部にして、ノーライフキングの異名を持つものだ!」


 黒いフード付きのマントを羽織り、手には悪趣味な装飾の施された杖という、いかにもな格好。

 そしてその声には、先ほどとは比較にならないほどの力がこもっている。

 流石はノーライフキングといったところか。

 これは、俺も能力を使わなくちゃいけないな。


「さあ、者どもよ、かかってこい! そして、俺を楽しませろ!」

「残念だが、それは不可能だ」


 まったく、面倒くさい。


「『気絶』」


 その一言で、俺とシリウス以外の奴らは倒れた。


「……貴様、何者だ!?」

「俺はリアトリス。人呼んで、最弱の冒険者だ」

「何を言っている! 貴様ほどの力の持ち主が、最弱だと!?」

「それと、貴様がここに来たという事実は消させてもらうぜ。『帰れ』」


 今頃奴は、自分の拠点に突然戻され、驚いていることだろう。

 しかしまあ、魔王軍幹部ともなれば、相当力を使わなくてはならないな。

 だが、もう少し使わなければいけない。


「『改変』そして『帰れ』」


 これで、そこらへんに倒れていた冒険者たちを家に帰すことができたな。

 この街の住人の記憶もいじり、魔王軍幹部が来た痕跡も完全に消した。

 ……くっ、町一帯はさすがにきついな。

 でもこれで、何事もなく今日が始まる。

 シリウスとやらが来たのが早朝で助かった。

 さてと、今日は眠るか。






 ――あれ、私、何してたんだっけ?

 えっと、魔王軍の幹部が攻めてきて、それで……。

 そうだ、リア!

 彼が何かを話していた。

 あれ、何を言ってたんだっけ?

 そもそも、どうして私は部屋に……。

 事の核心をついた瞬間、あの時のことが思い出された。

 そうだ、リア!

 リアがあの魔王軍幹部に何かを話した直後に、あいつは消えた。

 つまりは、リアが何かをした?

 あれだけ弱い彼が?

 ……何か、秘密があるのだろうか……。

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