第11話 変化(途中から杏璃視点)

 女装をするようになって、女性ファッション誌を買い、コスメを買い、日々のスキンケアを頑張り、食事制限に少しの筋トレ。


 辛くないと言えば噓になるけど、それでも、杏璃ちゃんに教室で会い言葉を交わすと明日も頑張ろうって思える。


 不思議なもので、自分のためには頑張れなくてもこの頑張りが杏璃ちゃんのためだと思えば苦にならない。


 前にリア充が相手の為ならどんなことでもできるとか言ってて『嘘つけ……』と思っていたけど……本当だったんだと今身に染みて実感している。


「お前、本気で女装してるの?」


「……。なんだよいきなり」


 今日も今日とて、俺の前の席に座りゲームの話をしていたすぐるがいきなりそんな事を聞いてきた。もちろん声は少し小さくして聞いてくる辺り、ありがたいんだけど。


「いや、爪……マニキュア塗ってるよな?」


 傑が俺の指を見ながら顔を動かした。確かに指のケアもやっている。俺自身が意外と指を見ることが多いし、綺麗な方がいいに越したことはないと感じたからだ。


「あぁ、爪を保護するやつなマニキュアとは違くて、艶とか色とかないやつ」


 傑はそう説明する俺の指を見たり、自分の指を見たりしていた。何か感じることがあるんだろうか?もしかしたら、傑もスキンケアに興味が湧いてきたんだろうか?


「ふーん。それに顔も何か塗ってるのか?」


「お前、すごいな。よく気づいたな」


 正直それには驚いた。本当に薄くだが塗ってきたからだ。


「気づくだろ、てかさ、川勾かわさぎさんとはうまくいってるのかよ?」


 俺が驚いているのを気にする風でもなく傑は本題に入ってきた。どうやら、それを一番聞きたかったらしい。別に直球できても答えるのにな。


「あぁ……うまく言ってるも何もまだ始まったばかりだし。今までしなかったような話も少しずつだけどするようになってる。けど、正直今はなんとも言えない」


「そっか。学校でもそんなに話してるようにも見えないしな」


「そうなんだよな。俺としては話をしたいんだけど、杏璃ちゃんがあんまりなんだよなぁ」


「おぉ、名前で呼んでんだな……」


「なんだよ。名前で呼んで悪いかよ」


「いや、悪くない。けどいいなぁ俺も彼女欲しい」


「前までは、ゲームが恋人だ。的なこと言ってなかったか?」


「秋になって、冬が近づいてくるとなぁ」


「なんだそりゃ。ははは」




 ……翔ちゃんの笑い声が聞こえる。自然と視線はそこへと向かう。前は意識してなかったけど、私の彼氏なんだよね。そう思うと意識してしまうのは当然のことで。


 この間の翔ちゃんは……綺麗だった。お化粧……すごく頑張ったんだって伝わってきて、私は少しもしてなくて、逆に気後れしてしまった。


 服も可愛くて、髪の毛も、それに……胸までちゃんとあって声も高く出していた。正直本当に心が苦しくなった。私のためにここまでしてくれる人がいるなんて……。


 今すぐに謝って、なかったことにしたくなった。


『杏璃ちゃんもかわいいね。髪を下ろしてるのも似合うよ』


 だけど、その言葉にどきんと心臓が鳴った。私の少しのおしゃれ……。ゆるふわのウェーブヘアーに憧れてて、毎回コテを使ってセットしてる。いつもは結んじゃってるからあんまりかわいい感じにはなれないけど、今日は自分でも可愛くできたと思っていた。


『ありがとう……』 


 照れくさくなって、声も小さくなったけど。翔ちゃんは気にした素振りも見せなかった。けれど、


『手、繋ぎたいな』


 その言葉に戸惑った。でも、見つめた翔ちゃんの手が震えているのに気がついた。それに顔やわずかに見えている耳も真っ赤だった。


(本当……勇気があるな)


 ……こんなに頑張っている翔ちゃんに私も応えようという気持ちが生まれていた。


 繋いだ翔ちゃんの手は温かくて大きくて、しっかりとしてて男の子の手だと改めて感じた。


 そこから、映画館につくまで私はずっと緊張していた。その度に翔ちゃんが色々と話題を振ってくれて、すごく気を使ってくれた。


 終わってみれば楽しいデートだった。お茶しながら、映画の感想を言い合えたのも楽しかった。


 家に帰ってからも、どきどきが続いていて……。気づけば手に残る翔ちゃんの感触を思い出してた。


 単純だな私って……。女の人じゃなくても、想いを寄せられればそういう気になるんだから……だけど。


 と、翔ちゃんがこっちをちらっと見て目があった。瞬間、目をそらしてしまう。私はまだ友だちにも恋人ができた事を言えずにいた。

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