第17話 王都、到着

 旅程は特に問題なく進み、9月7日金曜日の夕方、とうとう王都に着いてしまった。賊は出てこなかったし、魔物は収束筒でカトリナ嬢が殺したからね。僕の出番は無かったよ。そんで、王都についたらそれぞれの王都邸に向かうんだけど、ここでカトリナ嬢の扱いをどうするか少々話しこんだけど、バチェフ伯爵邸では無く僕の屋敷に泊まることになった。修練は大事だからね。少し涙目だったけど気にしない。


 翌日、8日土曜日の朝は約2年ぶりに王都の冒険者ギルドに顔を出しに行く。特級冒険者だから一応ね。勿論、カトリナ嬢も連れて行く。パオロとハシンタはそれぞれの得物を装備し、カトリナ嬢を守れるように位置してもらう。


 ギルドの扉を開けると、依頼を受けるための冒険者達でごった返していた。そんな中にまぁそれなりの身なりをした男女と御付きと思われる武装した2人が入れば視線を集めるよね。そんな視線を無視して空いている受付に並ぶ。


「なんだ?あの優男。彼女連れの護衛付きでピクニックにでも行くつもりか?」


「おい、変に絡むなよ。あの顔見たことあるぞ。」


「あ、アイツって特級冒険者のオーギュスト・ユベール伯爵じゃねぇか?」


「うん?確かに。言われてみると・・・。似ているな。」


「そう言えば、知り合いの貴族が明日は王城で夜会があるって言っていたぞ。」


「ああ、その関係で王都に来ているのか。」


「だとすると、あの嬢ちゃんも関係者か。触らぬ神に祟りなし、だ。」


「そうだな。依頼の受付済ませてサッサと出るぞ。お前らも死にたくなければ絡むなよ。」


 こんな感じの会話が聞こえてきた。僕は聞き流していたけど、カトリナ嬢は誰が言ったのか気になるらしくキョロキョロしていたけどね。


 さて僕達の番がきたね。受付カウンターの上に特級冒険者を示す冒険者証を提示して職員さんに声をかける。


「特級冒険者のオーギュスト・ユベール伯爵だけど、片づけておいた方がいい依頼は無いかな?ああ、商隊とかの護衛は無理だからね。」


「は?え?特級冒険者!?あ、いえ伯爵様、取り乱して申し訳ありません。お調べするので2、3分程お時間をいただきますがよろしいでしょうか?」


「ああ、大丈夫だよ。」


 すぐに職員さんは3枚の依頼書を持って戻ってきた。


「これらが上級の方々に出している依頼になります。ただ、内容が達成報酬に対して割に合わないこともありまして・・・。」


「みんな受けたがらないと?」


「そうです。」


「それじゃあ、僕たちが受けよう。さあ、みんなも冒険者証出して。」


 そう言って、カトリナ嬢とパオロ、ハシンタの冒険者証をカウンターに出して処理してもらう。その間に詳しく依頼書を見る。


“山に住み着いたグリフォンの討伐 達成報酬金貨3枚”


 ふむ、これは山の麓の村から出されたモノだね。確かにグリフォン相手に金貨3枚は割に合わないねぇ。


“バイコーンの角を16本 達成報酬金貨60枚”


 これは、報酬はいいけど依頼内容が難しいね。バイコーンを8頭分だからねぇ。探してまわるのに時間がかかるね。


“ビッグモール(巨大モグラ)の討伐 達成報酬銀貨30枚”


 8月20日に出された比較的新しい依頼だね。村の中にビッグモールが出たわけか。村民たちでも狩ったけど、手がまわらなくなったんだろうね。あいつら地中にいるし。


 よし、ビッグモール、バイコーン、グリフォンの順で今日中に終わらせよう。場所は離れているけど、あってよかった時空魔法だね。


 一旦、屋敷に戻って僕の執務室で時空魔法を使いビッグモールが出る村の側までやって来た。早速村長のところに行こう。適当に歩いている人を捕まえて冒険者証を見せて村長宅まで案内してもらう。


「あの報酬で特級冒険者の方が、しかもお貴族様が来てくださるとは有り難いことです。」


「あれぐらいしか報酬が出せなかったんでしょ?仕方ないよ。畑とかをあんなに荒らされたらねぇ。今年の税の免除申請はしているの?」


「ええ、見に来ていただいたお役人の方はその場で今年の税は免除すると言ってくださいました。しかし、兵を駐留させることはできないと。」


「まあね。相手は地中だからね。最近できた穴ってどれになるかな?そこから討伐しようと思うんだけど。」


「はい、ご案内します。」


 案内される間、僕はカトリナ嬢に対して問題と言うと言い過ぎかもしれないけど、ビッグモールを地中から追い出す方法を聞いてみる。


「う~ん、水で溺れさせるとかいかがでしょう?」


「そうすると、地中に川が出来て将来的に液状化や地盤沈下の恐れがあるね。」


「では、火魔法で高温にしつづけて炙り出すとかは?」


「うん、良い線だとは思うけど魔力が続くかな。」


「では、オーギュスト様はどのように?」


「僕は2つ使うよ。多分、魔力量からみてもカトリナ嬢にも使える方法だと思う。まずは、土魔法でトンネルを崩れないように強化して水魔法で熱湯を50cmぐらいの水深でトンネル内を満たす。そうすれば火傷しながらどこかの既にある穴から出てくるだろうね。悠長に新しく穴を掘ってれば蒸されちゃうから。それに魔法で出した水は温度変化しないからね。」


「出てくるでしょうか?」


「ま、試してみようよ。100℃だと水蒸気になるから99℃にしてあげよう。」


 そう言って、僕とカトリナ嬢は近くの穴から熱湯を勢い良く入れる。数分後、叫び声と共に畑側の穴からビッグモールが数体出てきた。熱さにのたうち回っているビッグモールをすぐにカトリナ嬢が始末する。その後も16体ほど出てきて全てカトリナ嬢が狩った。修練の成果が出ているね。


 村の敷地下の穴については僕が土魔法で埋めておいた。これで大丈夫かな。村長から依頼達成書にサインをもらって、村を出てからバイコーンが多く住む所に時空魔法で移動する。探索に時間をかけるつもりもないので、探査魔法で一気に調べる。場所を把握したら兎に角そこ目掛けて全力疾走だ。探査魔法は魔力に敏感なモノにはバレることがあるんだよね。


 2時間ほどをかけてバイコーンの角を集めた。バイコーン自体は殺さずに角だけ獲るのは疲れたよ。でも、そうしておかないとまた角を得ることができなくなるからね。角は薬の良い材料になるんだよね。


 お昼を摂った後は、本日の最大のメインとも言っても過言ではないグリフォンを狩ろう。すぐにグリフォンが住み着いた山の麓の村近くへと時空魔法で移動する。村長と話しをしてからすぐに村を出て、グリフォンが目撃された所まで移動する。巣をすぐに発見する。岩陰に隠れて様子を見る。


「いたね。2体だ。つがいかな?カトリナ嬢、れる?」


「1体のみなら。」


「よし、もう1体は僕が。カトリナ嬢の攻撃を合図に動くよ。パオロとハシンタはカトリナ嬢の援護を。」


「「承知しました。」」


 カトリナ嬢が岩陰から飛び出しウィンドアローをこちらに背を向けているグリフォンに撃ち込む。僕はそれを確認してもう1体にウィンドバレットを撃ち込む。僕の獲物は全く反応できずに眉間に穴を開けて血を吹きだしながら倒れた。


 カトリナ嬢は空に舞い上がったグリフォン目掛けて光魔法を纏わせた剣を振るう。巨大な光の剣がグリフォンの首を切断し、カトリナ嬢の勝利に終わった。


 以上の事を夕方のギルドで報告すると、僕とカトリナ嬢を見る冒険者達の目が好奇心から畏怖に変わってしまった。ふむ、まだしっかりと話したことも無いのに失礼だね。

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