第14話 模擬戦

「ファイヤーボール!!」


 カトリナ嬢の周囲に複数の火球が形成されて、僕に向かってくる。詠唱破棄かなかなかやるね。ま、僕の場合は無詠唱なんだけどね。土魔法を操り土壁を作って防御をする。うへぇ、軽い感じで作成した土壁だからファイヤーボールが当たった箇所が溶け始めているね。いや、カトリナ嬢の魔法の威力が上がったのかな?


 兎に角、この土壁はもう駄目だね。そう思っていると側面からカトリナ嬢が現れて剣で薙ぎ払いをかけてくる。僕は土壁を新たに作ろうとしたらスパッと溶断されてしまった。ああ、火魔法をまとわせているんだね。


「一本取らせていただきますわ!!」


 そう言うと僕に斬りかかる。僕は避けもせずにそのまま斬り裂かれて消えてしまう。


「危ないなぁ。僕じゃなかったら死んでいるよ?」


 言いながら本物の僕は斬りかかる。それを受け流しながらカトリナ嬢は後退する。


「っ!?先程のは幻影魔法!?」


「当たり。どこからかわかったかな?」


「まさか、最初からとは言わないでしょうね?」


「おしい。土壁を作った時だよ。視界から完全に消えるからやりやすいんだよね。」


 切り結びながら話す。剣の腕前も上がっているね。身体強化魔法を使っているのかな、結構一撃が重い感じだねー。でもまだまだ、だね。剣をいなして蹴りを放つ。


「ウィンドバリア!!」


 流石、良い判断だ。ウィンドバリアで蹴りの威力を相殺しながら距離をとった。さて、次はどうするのかな?無言で立っているカトリナ嬢を見る。すると血振りみたいな動作をする。彼女の周囲の魔力が動く感じがした。まさか・・・。


「無詠唱か!!やってくれるね、カトリナ嬢。」


 飛んでくるウィンドブレードを剣で叩き落としながら言う。カトリナ嬢はニコッと笑って言う。


「驚かせることができたようで何よりです。」


 クレメントおじさんとゴットフリート伯爵も口をポカーンと開けている。


「家族にも秘密にしていたのかい?」


 魔法の応酬をしながら尋ねる。


「それは勿論ですわ。どこから漏れて、オーギュスト様のお耳に入るかわかりませんもの。」


「そりゃそうか。」


 お互いのファイヤーボールがぶつかり合い、威力が相殺され消滅する。違う魔力を持つ者の同じ系統で同程度の魔力量を含む魔法がぶつかると相殺されて消滅しちゃうんだよね。このことは基本中の基本だからカトリナ嬢は僕が彼女と同等まで実力を落としているのに気付く。


「手を抜いてくださっているのは有り難いですが、あまりわたくしをなめないでくださるかしら!!」


 その言葉と共に各魔法の威力が上がる。周囲の魔力を集めて使っているんだね。それじゃあ、僕も少し段階を上げよう。ケネス達が愛用しているアサルトライフルと言うモノは先端の尖った鉛弾を火薬を爆発させて加速させ銃身内に刻み込まれたライフリングで回転が加わり弾道と貫通力が上がるらしい。


 だから、僕も各魔法で試してみたんだよね。威力や範囲が広いボールでもなく、命中精度と速さに重きをおいたアローでもない、バレットをね。


 僕の放ったバレットは音速を超えてカトリナ嬢の放つボールやアローよりもほんの少しだけ魔力を上乗せしただけで彼女の魔法を貫き威力を減じることなく練兵場の障壁にぶつかり激しく轟音と魔力を散らして消える。


 クレメントおじさんとゴットフリート伯爵が今度は目をひん剥かんばかりに僕のバレットが直撃して生じた歪みを補修し始めている障壁を見ている。カトリナ嬢は不敵に笑っている。


「流石はわたくしが惚れた御方おかたですわ!!またもや見たことの無い魔法を使われるなんて、素晴らしいですわ!!」


 そう言って、身体強化魔法を重ね掛けしたのだろうね、先程よりも素早くジグザグに移動しながらボールにアローを放ってくる。そして、間合いに入ると重い一撃をお見舞いしてくる。いやはや、バレットを見ても戦意が衰えないとは肝の据わり方が普通の学生とは違うね。


 剣術も実戦的なモノで蹴りや拳、鞘による連撃を加えてくる。ううむ、かなり成長しているね。そんじゃ、僕もそれにこたえてもうちょっと力を出していこう。習熟者の少ない闇魔法を使って精神を攻めていく。少し動きが鈍ったかな。一本取ろうと思って陰に潜むと、


「この・・・程度の・・・闇魔法には・・・屈しませんわー!!」


 とカトリナ嬢は叫び、僕の闇魔法の精神妨害を打ち破り光り輝き始める。僕は思わず潜んでいた陰から出る。


「あら、この光は一体?」


「光魔法!?まさか!?先日鑑定した時は無かったはず。まさかこの土壇場で習得したのか!?」


「これが光魔法なのですね。なんとなく使い方がわかりますわ。いきますわよ、オーギュスト様!!」


 カトリナ嬢は身に纏っている光を自分の剣へと移し光剣とする。一振りするごとに空気が震えるのがわかる。僕はそれを同じ光魔法のバリアで防ぐ。だけど、回数を重ねるごとに光剣の威力が増してきているように思う。これは、あれだね。カトリナ嬢の魔法の才能は光魔法に凄く特化しているみたいだね。


 僕は最終的にカトリナ嬢の光剣を片手で受け止め、


「はい、ここまで。カトリナ嬢、魔力をかなり使ったでしょ?あとね光魔法を使い始めてから結構周囲に魔力が漏れているよ。修練しないとね。」


 そう言うと、カトリナ嬢は剣を鞘に納めて言う。


「ならば、教えてくださいませ。わたくしの周囲で光魔法を完璧に習得している方はオーギュスト様しか知りませんので。」


 だよねー。


「・・・。残りの夏季休暇で叩き込んであげるから、しばらくは泊まっていきなよ。」


「喜んで!!」


 クレメントおじさんとゴットフリート伯爵が視界の端でガッツポーズをしている。なんかムカつくなぁ。

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