第2話 いじめの記憶

 朝のホームルームで、転校生は紹介されます。

 何処の学校でも同じでしょうが、転校生って話題になるんですよね。珍事というか、珍しいものを見たくて、他のクラスからも人が見に来るんです。


 わたしは常に転校の為に見送られる側であり、迎えられて珍しがられる立場でした。

 最初は、皆珍しいから質問してきたり、遠巻きに見てきたりします。日常に投じられた小石の如く。


 わたしは幼稚園児の頃よりは緊張していましたから、たどたどしい受け答えもあったと思います。今となっては覚えていませんけどね。

 転校生ですから、学校のことも何も知りませんし。いつもわたしは、様子見をしていました。


 何を見ていたかと言えば、明確なことは言えません。ただ、人の雰囲気や学校の空気を感じて対処しようとしていたのかもしれません。

 それとも、傲慢にも転校生という立場を利用して「見てやろう」とでも思っていたのでしょうか。


 まさか、それが始まりになるとも知らずに。


 友人は出来ました。部活や授業を通じて仲良くなった子たちで、今でも親交があります。


 しかし同じ頃から、クラスでは爪弾きにされました。

 何となく、仲間外れにされるようになったのです。


 気付いたのは、とある休憩時間でしょうか。


「長月さんって、黒板消しが似合うよね」


 その言葉は、あるクラスメイトの女子から発せられたものでした。

 わたしは丁度黒板消しでチョークで書かれた文字を消していたのですが、驚きましたね。振り返ってみたら、ある女子がこちらを指差していたかは覚えていませんが、少なくともこちらを見ながらもう一人に言っていました。

 言われた女子生徒は戸惑っていましたが、お構いなしです。言った女子生徒は、運動が出来る活発な子だったと記憶しています。


 その頃からか、それ以前からか、わたしはクラスで孤立していきました。


 ある日の選択科目後、教室に戻ると机の中に小さく折り畳まれた紙が入っていました。友人と共にそれを開くと、明らかな女子の癖字で「あなたのことが好きです」といった意味の言葉が書かれていました。

 現在のように様々な在り方があると知らなかった頃、わたしと友人はそれをいじめている女子たちのいたずらだと判断しました。指定された時、その手紙の書き手が指定場所に現れなかったのも判断材料となりました。

 もしかしたら、本当にそう言う意味だったのかもしれませんが、もうわかりません。

 その手紙は、担任の先生に託しました。


 担任の先生は、わたしの状況を心配してくれました。いじめている女子を教えて欲しいと言われ、わたしは何故か中心的な女子の取り巻きの一人を挙げました。

 今でも、何故自分が本人の名を挙げなかったのか不思議です。兎も角、先生は彼女に注意したようで、一度彼女が涙顔になっていたことがありました。

 しかし、孤立する状況はあまり変わらなかったように思います。


 幸いにも物がなくなったり暴力を振るわれたりすることはなく、ただ時折陰口が聞こえて何となく孤立する。そんな状態が約1年続きました。

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