第2話
放課後になり、部活や、遊び、それぞれの予定に向けて、クラスメイト達が次々に教室を出ていく。ちなみに、栞はクラスの友達と遊びに行ったみたいだった。
直接聞いたわけじゃないから、本当のところは分からないけれど、数人の男女で楽し気に教室を出て行ったところを見るに、きっとそうなのだろうと思う。
栞から誘ってもらえなかった事に少しだけ寂しさを感じるけれど、今はバイトをしてお金を稼がないといけないから仕方がないと気持ちを切り替える。
栞から色々な物を買って欲しいと、頻繁にお願いをされるようになってからは、飛び込みで入れるバイトを継続している。今日もシフトに入ることができたから、栞のためにもしっかりとお金を稼がないといけない。そう考えながら廊下を急ぎ足で歩いていた僕は、「真? どこ行くのよ?」と声をかけられて振り向いた。
そこに立っていたのは、よく見知った人物だった。
栞と同じく、幼稚園の頃からの付き合いで、小中高と同じ学校に通っている一つ上の先輩。僕は昔から、なっちゃんと呼んでいる。サラサラの黒髪が綺麗で、意志の強そうな眼差しが印象的。幼稚園の頃から面倒見がよくて、正義感の強いなっちゃんに、僕はいつもお世話してもらっていた。家が近かったこともあって、関係が途切れることもなく、僕にとっては姉のような存在の人だ。
「なっちゃん、どうかした?」
「どうかしたって、今日はうちの部活の見学にくる約束だったでしょ?」
「あっ⁉」
言われて思い出す。確かに今日は、なっちゃんが所属している調理部の見学に誘われていた。
いつまでも部活に入らない僕を心配して、なっちゃんが提案してくれた事だったけれど完全に忘れてしまっていた。
僕の反応を見て気付いたのだろう、なっちゃんも大げさにため息をついている。
「もしかしなくても忘れてたんでしょ?」
「あはは……ごめんね」
言葉もない。今日は確かお菓子を作ると言っていたっけ、バイトの事で頭がいっぱいになってしまって、微塵も覚えていなかった。
「そんなに急いでどうしたのよ? 今日はお菓子を作る日だって言ったじゃない。真は甘い物好きだったでしょ?」
「お菓子は好きなんだけど、ちょっと急用ができたというか」
「急用って、先に約束してたこっちの用より大切な事なの?」
「うっ、それは、ですね……」
なっちゃんのごもっともすぎる意見に言葉が詰まる。僕は今、約束をすっぽかそうとしているわけで、全面的に自分が悪い事は分かっている。
分かってはいるんだけど、それでもバイトに行かないといけない。栞が何日も待ってくれるとは思えなかった。
「なっちゃんごめん! 急いでバイトに入らないといけなくて」
「ふ~ん、バイト先でなんかあったの?」
「いや、こっちの都合で」
「真の? まさか」
それなら仕方ないかとなりかけていた時、なっちゃんの表情が険しくなる。ある程度予想はしていたけれど、やっぱりこうなる事は避けられないらしい。
「真、あんたまた栞にたかられたわけ?」
さっきまでとは明らかに違う重苦しい声色に、射抜かれるような鋭い目つき。元々キリっとしたカッコいい目つきのなっちゃんに睨まれると、何と言うかすごい迫力があって緊張してしまう。
「いや違うよ。ただ、栞は欲しい物が出来たみたいで」
「買えって言われたんでしょ?」
「買えっていうか、買って欲しいって」
「一緒だよ! それがたかられてるって言うの!!」
急に叫ばれてびっくりした。興奮しているのか、なっちゃんは周りから視線が集まり始めている事も気にしてはいないみたいだ。
「そんなの買ってあげる必要ないよ!」
「いや、でもね……」
なっちゃんがこうなってしまうのは、いつも栞の話になる時だ。
小さい頃はよく三人一緒に遊んでいた。栞も僕と同じで、面倒見のいいなっちゃんを姉のように慕っていたし、なっちゃんだって、栞を本当の妹みたいに可愛がっていたのに……。
そんな関係がいつからだろうか、段々と変わっていて、僕が気が付いた時にはこんな事になっていた。
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