第20話 自白剤の実験

「ふぅー、出来た……」


 一時間後。

 完成した自白剤から余分な細切れキノコの取り出すと、頑丈な小瓶に中身を移した。

 これで城までの長距離配達でも、瓶が割れずに済む。


「フッフッフッ。あとは最終検査です。出来るだけ秘密の多そうな客に飲ませましょう」


 完成した自白剤を持って部屋を出ると、一階の酒場に行ってみた。

 ここなら酒に酔った事にすれば、自白剤を入れてもバレたりしない。


「アップルパイをお願いします」

「はい、毎度あり! 少々お待ちください」


 空いている四角いテーブルに座ると、給仕の女の子に料理を注文した。

 ここの酒場のアップルパイは絶品なので、キノコ狩りの後にいつも食べている。


 ……さてと、誰にしましょうか? 経験上、意外と優しい人が激ヤバなんですよね。

 酒場の客をグルッと見回して、自白剤を使う客を探してみる。

 聖女にララと優しい人間が実はヤバイ。客の中で優しそうな顔の男を探してみた。


 ……あっ、あの四人で飲んでいる、あの人が良さそうです。

 ジュースが入ったグラスを持ち上げると、四人組のテーブルに向かった。

 男四人だから女性は大歓迎だろう。


「あのぉ……一緒に飲んでいいですか?」

「えっ? ああ、もちろんいいですよ! さっさ、こちらにどうぞ!」


 男四人に恥ずかしそうに声をかけてみた。積極的な男が隣の空いている椅子を勧めてくる。

 だけど、そこじゃないので、「ありがとうございます」と言って、黒髪眼鏡の優しそうな男の隣に座った。


「お一人ですか?」

「ええ、気ままな一人旅です。皆さんはこの街の人ですか?」

「俺は生まれも育ちもこの街二十六年で、仕事場の友人と家の近所の友人と飲んでいるんですよ」

「そうなんですね。仲が良くて羨ましいです……」


 会話をしながらポケットから小瓶を取り出して、隙を見つけて、眼鏡のお酒に自白剤を入れた。

 眼鏡は大人しいのか、他の三人と違って積極的に会話しようとしない。

 もしかすると、大した秘密は持ってないかもしれない。


「アレン、お前ももっと話せよ。コイツ、真面目なんですけど、その所為で今まで彼女の一人もいないんですよ。良かったら、どうですか?」

「おい、やめろよ……」

「すみません、近々別の国を旅行するので……」


 このままだと、眼鏡の恋人にされそうだ。

 優しい男と真面目な男は長期的な結婚の安定物件だけど、それだけだ。

 それに年齢が八歳も離れている男はちょっと遠慮したい。


「そんな事言わずにこの街は良い所ですよ。この国の王子も三日後に結婚するから、ちょうどいいじゃないですか。俺達の中で独り身はコイツだけなんで心配なんですよ。ほら、アレンももっとお願いしろよ」

「やめろって言ってるだろうが、お前の親父みたいにぶっ殺すぞ」

「えっ?」


 ……おっと! 安定物件じゃないかもしれない。

 彼女のいない眼鏡の為に友達が頑張って、私と眼鏡をくっ付けようとしてたけど、眼鏡が物騒な事を言った。

 四人組のテーブルを中心に、周囲のテーブルもシーンと静かになって、空気が凍り付いていく。

 ちょっと椅子を動かして、巻き込まれないように避難した。


「な、何言ってんだよ、アレン? 俺の親父は出稼ぎに出掛けているだけで……」

「本当にめでたい馬鹿だな。七年も出稼ぎに出掛けたままなわけないだろう。お前の母親と寝ているところを見られたから、包丁でぶっ刺して、墓場に埋めたんだよ」

「あっ、あっははは、そんなはずないだろう。親父の手紙だって、届いているんだか……」

「俺が書いているに決まっているだろう。テメェが可愛がっている妹も俺の子供だよ」

「そんなぁ……ルカがアレンの子供……」


 やっぱり優しい人は駄目だ。まさかの殺人犯とは思わなかった。

 しかも、友達の母親と寝ている時点で終わっているのに、子供まで作っている。

 あまりの事実に友人がショック死しそうな顔になっている。


「おい、アレン。悪い冗談はやめろよ。酔いすぎだぞ」

「うるせいな。お前の親父と母親の二人とも浮気しているぞ。可哀想な親父だよな。息子の嫁に手を出しちゃうんだからよ。生まれてくる子供は弟か妹なんだろう?」

「アレン! テメェー、ぶっ殺してやる!」

「ぐはぁ、ごはぁ、ぐぼぉ!」


 ……あっーあ、そろそろ部屋に戻った方が良さそうですね。

 激怒した一人が眼鏡を思い切り殴り飛ばした。

 それを切っ掛けに友達三人がドカバキと眼鏡を袋叩きにしている。


「わ、私、部屋に戻りますね。あっ、アップルパイ、ありがとうございます……」


 誰も聞いてないけど、一応は言ってみた。

 自白剤の効果は実証できたので、アップルパイと一緒に安全な部屋に戻ろう。

 今日はもう二階に上がったら、一階には下りない方が良さそうだ。


「世の中には知らなくてもいい事がいっぱいあるんですね。勉強になりました」


 部屋に戻って、しっかりと扉の鍵を閉めるとアップルパイを食べた。

 でも、まだ興奮して眠れそうにないから自白剤を三本作ってしまった。


「ぎゃああああ!」

「コイツ、刺しやがったぞ!」

「ぺぇっ、親父の所に連れてってやるよ!」


 ……これで二人目ですね。私の所為じゃない。私の所為じゃない。

 まだ一階が騒がしいから眠れそうにないです。ついでに王子への手紙も書いてしまいましょう。

 起きてないと私も殺されるかもしれない。


「……よし、これでいいです。私の仕事は終わりました」


 手紙には念入りに覚悟を持って使うように警告しておいた。

 使った後の責任は王子に全部お任せだ。

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