第3話

 情報の神の声が聞こえなくなり、辺りは静まりかえった。

 沈黙に耐えられなかった俺はとりあえず自己紹介をすることにした。


「えっと、は、はじめまして。白谷雪って言います! お、お願いします!」


「俺は黒澤要だよ。よろしくね。雪くん」


「は、はいっ!」


 し、下の名前〜!


「雪くんは異世界のこととか、よく知ってるの? なんか神様と色々話してたけど」


「あぁ、アニメとかゲームで少しは......」


「そっか、俺、全然詳しくないから、わからないことあったら教えてくれる?」


「も、もちろんです! で、でも、なんで神様に転移と転生って聞かれた時、転移って言ったんですか?」


「あぁ、それはね。転生しちゃうと、どこの誰かも分からない人の子どもになるってことでしょ。そうなると、雪くんと出会えるかもわからないし、自由が制限されかねないからだよ」


「なるほど。たしかに、自由が制限されたら世界も変えられないですよね」


「うん。ここにいつまでもいるわけにもいかないし、この世界について調べに行こっか」


「は、はい!」


「ここは洞窟みたいだから、まずは出口見つけないとね。持ち物に地図ってあったけど、それ見ればわかるかな?」


「ちょっとまってくださいねあ。えっと、〈地図〉......おぉ、出てきた」


「さっそく使いこなしてるね。すごい」


「へへ、簡単ですよ。使いたいものを心で唱えればいいだけだから」


「たしかにね。じゃあ俺も、〈地図〉.......お、出てきた。えっと、へぇ、この地図すごいね。現在地がわかるように印ついてる」


「ほんとだ」


 GPSでもあるのかな、この世界。


「ここは四季の洞窟みたいだね」


 四季の洞窟って、神様が言ってた「四季の土地」の近くかな?


「とりあえず、出口向かいましょ」


「うん」


 どうやら、俺たちは洞窟の奥深くに転移したらしく、出口までには距離がある。


「そろそろ行こっか? 歩きながら色々教えて欲しいんだけどいい?」


「あ、はい! 俺もそんなに詳しいわけじゃないから、あんま期待はしないで欲しい......です。」


 異世界とか好きだけど、アニメとかでしか見たことないから、ちゃんと説明できるか不安だ。


「全然いいよ。これから二人でいっぱい知ればいいしね」


 これから? ふたり? プロポーズ......。


「プロポーズ、ですか?」


「えっ、あー」


「あっ、えっ、わ、忘れてください!」


「ははっ、俺の方が変な言い方したからね。ごめんごめん」


 俺のバカ! 何言ってるのんだ。そんなはずないだろ。俺なんか......。きっと、この世界でも前の世界でも要さんはめちゃくちゃモテる。そして、綺麗な女の人と幸せになるんだ。


「雪くん?」


「あっ、ごめんなさい。えっと、歩きながらこれからについて考えましょうか」


 ここからは歩きながら話すことになり、俺たちは出口に向けて色々な話をしながら進んだ。


 30分が経過し、光がようやく見えてきた頃、要さんがふと口を開いた。


「常時発動するスキルって何にしてる?」


「俺は、〈探索・探知〉と〈魔法の創造・操作〉、あとは強化系と回復系ですね」


「前2つは神様に言われてたけど、強化系と回復系は何でつけてるの?」

 

「魔法の使い方とかまだ慣れてないし、突然襲われて死にたくないので。ちょっとした対策です」


「なるほど。俺もしよ」


「はい! そろそろ外見えてきましたね」


「そうだね。まずは外出たら食料と寝床探さないとね」


「あっ、それなんですけど、まずは人族の領地に行きませんか?」


「んー、そうだね。この世界のこととか色々知りたいし」


「はい! あっ、要さん。魔法創造で〈言語翻訳〉作ったんですけど、要さんも作っておくといいと思います! 異世界転生系だと言語が伝わらないってことがよくあるので」


「〈言語翻訳〉か。さすがだね」


「へへっ」


 褒められた褒められた褒められた!


「人族は、地図によると「四季の洞窟」の西側にあるけど、少し遠いね」


「はい」


「あ、これ使えるんじゃない? 〈瞬間移動〉と〈転移〉っていうの」


「そうですね。でも、多分〈転移〉は使えないと思います」


「なんで?」


「おそらく〈転移〉は1度言ったところにしか行けないので」


「なるほど。じゃあ〈瞬間移動〉っていうのは?」


「うーん、多分目で見える範囲に行けるというものだと」


「なるほどね〜。じゃ、1回使ってみようかな」


 そう言うと、要さんは俺の横から居なくなった。キョロキョロしていると頭の中に要さんの声が聞こえてきた。


『雪くん、聞こえる? 洞窟の入口にいるんだけど』


 〈念話〉かな?


「は、はい! 聞こえます! 俺もすぐ行きます」


 照準は洞窟の入口。〈瞬間移動〉


「おぉ」


「お、来たね。これ使うと移動も楽だね」


「はい! この調子で人族の土地まで行きましょ!」


 そうして俺たちは人族の土地に向かった。

 地図によると、北は魔族領、南は人族領、東は四季の土地、西は森らしい。色々地名はあるみたいだが、この「王都」と書いてあるところに行けば間違いないだろう。

 そうこうしているうちに人族の土地が見えてきた。


「雪くん、〈瞬間移動〉はここまでにしとこうか。不審がられると困るからね」


「そうですね。検問のようなものもありますし」


 おぉ。あそこで検問係してる人が着てるの甲冑だ。かっこいい。そして異世界っぽい! 

 検問の前には短みな列があり、斧を持った屈強な男たち、荷馬車に乗った偉そうな人と、その荷台に乗った獣耳の子どもたち、旅人らしき人たちがいた。


「ここからは歩こっか」


「はい」


「すごいね。人に耳があるのなんてつけ耳で以外見たことないよ」


「それは俺もですよ」


「それにしても、大丈夫なのかな? あの子たち」


 恐らくあの荷台に乗っているのは、神様の言っていた奴隷にされている子どもたちなのだろう。


「俺、ちょっと行ってくるね」


 え?! 


「ちょっ! 要さん!」


 俺が口を開く前に要さんは瞬間移動を使って行ってしまった。

 

「あの、失礼ですがこの子たちはあなたのお子さんですか?」


 か、要さーん! その人、いかにもって感じの奴隷商人だよ!


「は? 何言ってる。この薄汚いのが私の子どもだと? ふざけるな」


「では、なぜこの子たちを連れているのでしょうか?」


「なんだね君は? この世界じゃ、獣族は我々人族の奴隷だぞ? 私は金にするためにこうして外で狩りをしてきて、今から売りに出すところだ。獣族の子供は金持ち貴族によく売れる」


「奴隷? 狩り? 売る? こんな小さい子どもたちを? 怯えているじゃないですか」


「あぁ、そうだ。何か文句でもあるのか?」


「親御さんから子どもたちを無理やり引き離したと?」


 か、要さん、怒ってる?


「チッ。あぁそうだよ。何が悪い?」


「そうですか。では、今すぐその子たちを返してきてください」


「チッ。おい! お前たち! こいつをどうにかしろ!」


 偉そうな男は、周りにいた屈強な男たちに言い放った。まじですか! もしかして、あの人たち全員あなたの手下ですか!

 男たちは瞬時に要さんの周りを取り囲み武器を向けた。ど、どうしよ! 要さんがピンチ......だ? お、男たちが固まった?

 

「来るな」


 もしかして要さん〈支配〉使ったのか? 


「お、おい! お前ら何をぼーっと突っ立っとる!?」


「申し訳ないですが、部下の方をしばらく動けなくしています。あなたは、どうして欲しいですか?」


「ひっ! お前、特殊スキル持ちか! わ、わかった。こいつらをお前に渡す!」


「そうですか。では、子どもたちを早く解放してください」


 荷台から子どもたちを下ろすと、すぐに男は部下と共に去った。

 

「要さん! 大丈夫ですか?」


 俺はすぐに要さんのところに瞬間移動し、要さんの無事を確認した。


「うん。大丈夫だよ。それより、この子たちを親御さんのところまで送り届けたいと思ってるんだけど、君たちはどこから来たのかな?」


 獣耳の子どもたちは4人いた。その中でも最年長と思われる15歳くらいの男の子が口を開いた。


「僕たちは、ここから東の四季の土地の近くにある巣から連れてこられた。でも、お父さんもお母さんも人族に殺された。巣は焼かれてもう何も残ってない」


 最低だ。攫うだけじゃなく、殺すなんて。


「そっ、か。......雪くん、俺、この子たちをこのままにしておくわけにもいかないし、一緒に連れて行ってもいいかな?」

 

「はい! もちろん! 俺たちで精一杯幸せにしましょ!」 


「ありがと。じゃあ、君たちの名前、教えて貰ってもいいかな?」


「僕はのハウリア・リム。16歳です。こっちは妹のユイ、10歳です」


「私はワイアル・シーナ、12歳。この子は6歳の弟のユノ」


「リムにユイ。シーナにユノ。俺は黒澤要、26歳、よろしくね。ユイとユノは名前少し似てるね」


「ほんとだ。俺は白谷雪、19歳。よろしくな」


 か、要さん26歳だったのか! どうりで落ち着きがあると思った。安心感、半端じゃない。


「あの、要さん、雪さん。俺たち何でもします! だから、どこにも売らないでください!」


「もちろんだよ。あと、名前、さんつけなくていいよ。雪くんもいいよね?」


「はい! 俺もリムたちのこと、呼び捨てにしてもいいか?」


「「「「はい!」」」」


「よし! じゃあ、まずは服とご飯と寝るところを探そっか」


 そうは言いつつも、あの検問は通れるのだろうか。怖い顔して見られてるんだけど。


「要さん、あそこ、通れますかね?」


「んー、ちょっと待っててね」


 そう言うと要さんは1人で検問の方に歩いていった。何をするんだろう? 

 よし。俺はこの子たちの鎖を外すか。多分〈鎖操作〉ってやつでできるよな?

 

「リム、手出して?」


 カチャッ


「お! 外れたな。次、ユイ」


 全員の鎖を外すと要さんも戻ってきた。


「じゃ、行こっか」


「あの、要さん。......な、何かしたんですか?」


「ううん、怪我治してあげたら通してくれるって」


「なら良かったです」


「何? 俺が無理矢理通すようにした思ったの?」


「い、いえ!」


「ふふっ、冗談だよ。さっ、皆も行こっか」


 要さん、子ども好きなのかな? なんか慣れてる。それに、少し要さんとの距離が縮んだような気がする。

 とにかく! 人族の領地にレッツゴー!

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