第17話


「・・・おまー、さっきドサマギで俺の裸見たよな?見たよな??」


 保健室を出てからやや赤面したままの優希に俺は歩きながら優希の肩に腕を回して絡みつく。

タダ見はさせないぞ、優希ぃ。



「な、なんのことかなぁ?」


「惚けても駄目だぜ?さっきいつの間にか会話の最中に女子二人に紛れて生理の話したじゃねえか。

あんときゃ俺はトランクス一丁だったんだからな。胸は丸見えだったはずだろ?」


「見えるわけ無いじゃん。明ちゃんの投げつけた君の服が邪魔になっていたんだから」


・・・甘いな、優希。

見てないんなら、いつもみたいに目を見ながら話せるはずだろ?

それがこいつ、さっきから目を合わせようとしないんだからな。分かりやすいって!

 そして、それを証明してくれる相棒がここにいる事も忘れてるみたいだが?



「ねえ?どうしてあの服、私が投げつけた事を知ってるの?カーテンの向こうにいるまんまなら……それは分からないんじゃないのかなぁ?」


ビンゴだ、明。ナイスツッコミ☆



「え〜…それわ、そのぉ〜…」


 しどろもどろになりながら必死に言い訳を探す優希に、俺は女性の甘い声で優希に話しかけた。



「……別に怒ってる訳じゃないんだよぉ?ただねぇ…ウソついて逃げようとするのはどうかなぁ〜?って、思うんだぁ〜♡」

「……そうやってすぐに女の子しちゃうアンタもどうかなぁって私は思うんだけども」


……そのツッコミはノーサンキューだ、明。

とりあえずクリスマス大作戦に人手が欲しいんだから、貴重な労働力をむざむざ逃す道は作っちゃいけねえ。



「…んで、そこのカメラ小僧。折行った話があるから隠れてないで出てこいよ」


「……?かめらこぞう??そんなの何処にも…わぁ?!」


 周りを見回してそんな人物はいない事を確認した明だったが、俺の呼びかけに答えて廊下の窓の上からひょっこり顔を出した鳥間に驚き声を上げた。



「おまえも、タダで俺の胸を写真に出来るなんて思っちゃあいねえよ、な?」


「・・・なんのことかなぁ?僕は普通に窓の外の風景を撮っていただけ、なんだけど?」



…………(汗)おまえ、その自分の体にロープを巻き付けてぶら下がってる状況を「普通

」と言い切るつもりかい!


ツッコミたいのは山々だが、この際猫の手でも借りたい状況だし、今は止めておいてやるよ。



「・・・まあ、いい。俺達に協力してくれるなら、胸の写真くらいは大目にみてやるから、手伝ってくれないか?」


・・・と、言っても久利須が手伝えることはパーティの準備などではなく。



「どうせなら、施設の子たちが楽しんでいるところとか、良いスナップ写真を撮って欲しいんだよ。俺達はパーティの準備やら子供達の面倒をみる側にいるから、写真を撮るとなると子供達が身構えちまうからな」


「……タダでやるのはちょっと……」

「さっきの身体検査中の写真は不問にしてやるし、クリスマスパーティなんだから俺達もそれなりの格好をするぜ?!いい写真を撮るチャンスなんじゃねえのか?」

「アンタ、瞳ちゃんのヌード写真なんてってたの?!いつの間に・・・」


 明が久利須を捕まえようとするのを、手を出して制した俺は更に続けた。



「当日は俺の姉ちゃんも女性サンタとして登場する。もちろんプライベートのパーティだからマスコミは来ないし、写真をとやかく言うようなマネージャーも、来ない。

・・・こんなビッグチャンス他にはないぜ?」

「行きます。是非写真を撮らせて下さい瞳様っ!!」


 久利須は窓から飛び込んできて廊下にかしこまって正座すると頭を深々と下げた。



「……決まりだな♪」

「いいの?そんな事言っちゃって」

「なあに、構わねえさ。姉ちゃんがあの格好するのを写真に納めることは、特になんにも気にする必要は……」

「アンタの写真、オールヌードが撮られたんでしょ?!こんな奴に許しちゃって、良いの?!」

「…別に構わないさ。コイツは趣味の盗撮写真を他人に見せちゃうような事はしない。今までも何枚も撮られちゃいるが出回ったりしてないんだ」


 久利須はその性癖なのかはよく分からないが、秘密裏に撮った写真をばらまくようなことはしてはいなかった。



「うちのクラスの男子共が、コイツの写真の成果を気にしないはずがないと思うんだけど…特にいま、アンタは女の子なんだよ?裸の写真を撮った、なんて連中が知ったら……」


「俺はその写真を自分の姿が写った写真だとは思ってねえんだから……ばらまかれても痛くねえ」


 いつ自分が元の姿に戻るのかは判らないが、もし戻ったとしたら…その写真は、どんな姿の俺を残しているのか、逆に楽しみなくらいだ。



男のヌード写真を、男が見てなんと思う?

それで興奮するようなやつはどうしようもない変態野郎でしかないだろ?



「瞳ちゃんは自分が元々女の子みたいな存在だってこと、忘れてなあい?だからそこのカメラ小僧君も常にあなたを狙ってる訳で…」




・・・・・。



うむ。


言われてみれば、ちょっと嫌な感じがしてきたような……?



「アンタ、瞳ちゃんの写真、何に使ってるの?まさかとは思うけど、健全な男子君よろしくオカズにしたりしてないわよね?!」


そんなことを、女子が男子に聞くってのは……




・・・ちょっと、まて。




それは、俺も気になるぞ?



「・・・あ、あんなところに龍星丸がっ?!」


 龍星丸…某アニメの魔神とかではなく、有名覆面レスラーの事だけど。

この近くにプロレス事務所は有り、目撃情報はとても多い。

 窓の外をびしりと指さした久利須につられて、俺と明は一瞬久利須から目を離してしまった。



「・・・んだよ?!いねーじゃん……あ」



お察しの通り。


奴は逃げた。

それはもう、どうやってこの場から逃げたのか分からないほど素早く。



「・・・あんにゃろ。今度捕まえてとっちめてやる……」

「危機感が足りないと言うかなんと言うか…アンタも大概オマヌケね……」


呆れてため息をつく明に、俺は苦笑いするしか無かった…。


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