第8話 施設の子供たち


「あ、おねにいちゃんだ」

「おねにいたん〜」


 華羅ちゃんが呼び水となったのか、こちらに気がついた子供たちがわらわらと駆け寄ってくる。

あっという間に数十人の子供たちに取り囲まれ、俺は身動きがますます取れない状態になってしまった。



「・・・随分な人気ぶりね〜。あんた、子供には当たりが良いもんね」


 いやまあ・・・確かに子供が好きなことには違いはないんだけど、好かれる理由は多分……他にある。



「強姉ちゃんは今日はいないのか?」


「え〜?!つよねえちゃんいないの〜??」



・・・そう。

俺の人気は、俺の姉ちゃんの人気のついでみたいなもので、華羅ちゃんのように俺にべったりという子は実はそんなに多くはない。


 そして、



「あ、知らないおばちゃんがいる」

「知らないおばちゃんは、敷地に入っちゃだめなんだぞ〜!」

「おねにいちゃん、あのおばちゃん、だれぇ?」


・・・純真無垢な分、子供達には「遠慮」というものは存在しない。

「おばちゃん」扱いをたらふく喰らった明は心が折れてしまったのかその場でがっくりと膝をついてしゃがみこんでしまった。



「おまえら…こうみえてもそのおばちゃんはまだ17歳になったばかりのレディだからな?あんまりおばちゃんって言っちゃだめだぜ?」


「じゅうななさい?じゃあ、おばちゃんじゃん」


「俺だって17だぜ?強姉ちゃんなんか二十歳過ぎてるんだ。だから、そのおばちゃんはおばちゃんじゃなくてお姉ちゃんて呼ばなくちゃな?」

「…んじゃあ、おばねえちゃん……」


「だあああああぁっ!!さっきから黙って聞いてりゃいいたいこと言いやがってえぇ!!

子供達はともかく、1番おばちゃん扱いしようとしてるのはあんたじゃないかぁ!!」


 半狂乱になった明が俺の首根っこをがっしり掴み、女子のパワーとは思えないほどの力で俺を持ち上げる。


「ぐえっ!?ち…ちょ…ちょっと待てぇ……別に俺はそんなつもりは……」

「わああ!?おばねえちゃんが切れたあ!」

「おばねえちゃんが怒ったあ!」

「オバンゲリオンが制御不能になったあ!!」



・・・子供ワールドが炸裂しまくり、俺の周りにいた子供達が蟻の巣をつついた後のように俺の周りからわらわらと笑いながら逃げていく。



・・・だれだ?オバンゲリヲンなんてマニアックなこと言ったのは?巧すぎるじゃねえか(苦笑)



「おっ…おちつけぇ!そして、俺を離してくれえぇ…息が…息がっ!」


「・・・あ、いけない。私としたことが…つい、取り乱しちゃった、テヘッ★」



・・・舌をペロッ☆と出して自分の頭を軽く小突気ながら可愛子ぶっちゃいるがいるが、やっていたことはそこらへんの悪役プロレスラーとさして変んねぞ?!明……。



「・・・あらあら、瞳君、いらっしゃい☆

何を騒いでいるのかと思えば……知らない子が来ていたからなのね?」


 華羅ちゃんに手を引っ張られ、ここの施設の職員さんがやってきた。

この人はこの施設の職員さんたちのまとめ役の面堂みはるさんだ。

役名で言えばフロアチーフと言うらしいが、施設の子供達は『シスター』と呼んでいる。

 それは、かつてココが修道院だった時の名残で、そのせいもあって子供達はそう呼んでいるのだろう。

今は寺院は寺院、施設は施設で……

といった感じで分けて運営されている。

 流石にいつもシスターのあの姿でいるというわけではなくて、通常時は普通の格好で仕事をしていて、日曜日の礼拝や相談事がある信者が来た時にシスターの格好に着替え、対応しているようだ。

 ちなみに、俺は面堂さんのシスター姿はまだ見た事は無い。



「こいつは同級生の赤目明。お騒がせしてすみません」


「あらぁ…いいのよぉ?賑やかな方が子供達も喜ぶし、お客様は大歓迎です」


 大人の笑みでそう話すと、面堂さんは華羅ちゃんの頭を撫でながら



「せっかくですし、もうすぐお昼ですから、良ければ瞳くんも明さんもご一緒にどうですか?」


「え、え〜っと……いいのかなぁ?私なんかが一緒にご飯しても?」


 急なお誘いの言葉に明はしどろもどろになって戸惑っていた。

どうしたらいい?と目で俺に聞いてきている気がしたので



「いいんじゃねぇ?別に明一人が加わったところでそんなに影響しないだろ?面堂さんも是非って誘ってくれたんだし、断る理由なんて無いだろ?」


「おねにいちゃん、ご飯一緒に食べるの?やったあ☆」


 無邪気に喜ぶ華羅ちゃんの姿を見るのは単純に嬉しい。

だが、明はまだ決めかねているようで…そんな彼女を察したのか、華羅ちゃんはてててっと明の側まで走り寄ると彼女のブレザーの裾をムギュッと掴むと



「おばねえちゃん?おねにいちゃんを取らないなら…ご飯いっしょしてもいいよ?」


 少しむくれ気味に、でも恥ずかしそうにそんな事を言う華羅ちゃんの姿を見てしまったら・・・。

そりゃあ女子ならたいてい持っている、心の中に眠る母性が見事に揺すぶられて起きてしまうことは間違いがなく。



ずきゅ〜〜〜〜ん☆



「はうん♡」


小さなうめき声の後、一瞬、明の体がぐらりと揺らいだのを俺は確認した。


・・・今、まさに明は華羅ちゃんに完全にハートを掌握されたのだった(笑)



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