第5話とらぶる・はいすくーる




 学校へ着くなり、俺は注目の的となった。


…そりゃあ、そうだろう。昨日まで普通の一般高校生男子だった人間が、次の日には女子になって通学してきたんだから。



 ご多分にもれず、学校の正門で生徒と挨拶しながら色々チェックしている生活指導の先生が俺を呼び止めて一言



「…目黒ぉ…ハロウィンの仮装は校内では禁止されている……」

「せんせ。そのネタはコレで3回目だから止めてくれ。読者も飽き……」


「私は真面目に注意しとるんだぞ?!何だその態度はっ?!」


…やっぱり面倒なことになりやがった。

だから学校には来たくなかったんだ。



「もさもさしてると遅刻になっちまうから、また後でな、先生!」


捕まえようとする先生の腕をひらっと躱し、俺は校舎へ向かってダッシュする。



「あっ!コラッ!その作り物の胸は置いていかんかあっ!」


・・・本物だって知ったら、あの先生腰抜かしちまうんじゃねえのか?


「ホントに…今すぐそれを置いて代わりに私が……」

「お前も、いい加減そこから離れてくれ。いちいち引き合いに出されたらキリがねえ」


 まったく…女子も女子で……こんなもんが大きいだの小さいだのってそんな事問題にしてるんじゃねえよ。

男子から見りゃあ…それは適度な大きさがあればさほど問題じゃねえし、男にだって好みがある。イケメンがみんなおっぱい星人だって話、聞いたことねえかんな?



「女子のココは男子のシンボルの大きさを気にするのとおんなじくらい大事なことなんだもん。気にするなって方が無理っ!」


………明?

そんな事…男子の前で話すのは良くないぜ?







「・・・おはよー……」


教室に入るなり、俺はクラスメート達にたちどころに取り囲まれてしまった。



「瞳ぃ!お前……女子になっちまったって、本当か?」


 悪友の大木大道おおき たいどうが前のめり気味に俺の肩を掴んで喚き散らす。



「…ああ。そうみたいなんだが……」


俺がそう答えると、周りはどよっ!と大きなどよめきに包まれた。



「なっ…なあんて、素晴らしいっ!お前は俺達にとってまさに・・・我々男子の希望の星だっ!」


 男子数人が涙を流しながら俺に近寄ってくる。一方で、その後ろで女子達が

「やーね、男子って」

「そうそ。考えてることがバカでスケベで」

「目黒くんがあんなに大きな胸になったのって、男子共の欲望の結果じゃないの?」


…ま、考えることが馬鹿でスケベかは置いといたとしても、この後奴らが要求してくることなんて手に取らなくたってよく分かる。



「目黒っ!む・・・」

「断る(きっぱり)」


俺の一言から3秒ほど時間が止まったかのような静寂が訪れた。



「飢えた野郎どもの欲望を満たし、この学園に平和をもたらすための使者となったのではないのか?さあ、われわれに・・・」

「まっぴらごめんだ」


・・・・・。



「め〜ぐう〜ろぉ〜〜!」


「血の涙流して訴えても、そんな事俺が許すわけねえだろ?」


 取り囲む男子生徒数人が血の涙を流しながら身を震わせちゃいるが、そんな事俺の知ったこっちゃねえし。



「おおっ!目黒ぉ〜!こんなチャンス、そんなに起きることじゃないっていうのにい…」

「起きねえんだ、普通は、な。だいたいよく考えろ?こんな体になったとはいえ、元は俺だぜ?そんなよく知った男子の胸揉んで何が良いんだよ?なあ、優希?」



 同じクラスメイトの林原優希は…俺と同じ、女子顔で悩みを持つ数少ない俺の味方だ。

 俺とは違っておとなしい性格で、優しい性格から女子達に大変人気がある。


 そんな彼は、俺に向かって一言言い放った。




「うっ……うらやましいっ!」



俺は上から軽トラが落っこちてきて弾き飛ばされたみたいに激しくズッコケた。



「…は???ゆ、ゆうき…君???君は何を言ってるのかな?」


「…だってぇ……本当の女子になったんなら、女子に間違われるっていう問題が無くなるじゃない?はじめから女子なら、声かけられて悩まなくて済むし」



・・・いや、それ……何か、違わないか?



「目黒ぉ!揉むのが駄目ならいっそのこと犯らせてくれっ!!男同士なら後腐れ無えだろ??」

「ばかやろ!お前今言った言葉の意味をよく考えろっ!男同士でそんな事して、気落ち悪いだけだろがっ!!」



「……林原くんとのなら……きゃああぁん♡素敵ぃ☆」


後ろの方にいた数人の腐女子らしき面々が、鼻血を出して悶絶している。




ああっ!もうっ!!うちの女子共まで……


このままじゃ収集がつかんな……





ココは、一旦・・・。


「あきらあ!先生が来たら俺は身の危険を感じたから何処かに隠れてるって言っておいてくれっ!」



 群がり俺を捕まえようとするゾンビのような男子共を投げ飛ばし、俺は一旦教室から逃げ出した。





  ★★ ☆ ★★ ☆ ★★ ☆





「……とりあえず、ここなら少しは安全だろ……」



保健室へ滑り込むように逃げ込んだ俺は、保健室のドアを閉めてからほっと一息ついた。



「何が安全なのかな?健康優良児の目黒瞳君?」



 そこには、白衣を着て美味しそうにホットコーヒーを啜る保健医の色河美智代いろかわ みちよがいた。


「スマン、先生。ちょっと訳ありでね…少しの間かくまってくんないか?」


「匿うって…お前、また何かやらかしたんかい?まさか、そのひ弱な少年である優希に手を出した…とか言う話じゃあるまいな?」


「うちのクラスの腐女子共と同じレベルの妄想、膨らませてんじゃねえよ!

・・・って、え?優希?なんで??」


「なんでって…君が無理やり引っ張ってきちゃったんじゃないかあ!」



・・・あれ?


何やってんだ?俺……(汗)



「あ…あはは……わ、わりい。結構焦ってたからな…気が動転してそんな事しちまったかもしれん」


「お前もつきあいイイやつだねぇ……そんな不良高校生に付き添うなんてさ」


ずず〜っとコーヒーを啜ってから、先生は呆れながら優希を見る。



「誰が不良だ、だれが。俺は真面目に学生してるぞ?」


「そうですよぉ…瞳ちゃんはこうみえて正義のミカタで、そこいらの不良とは格が違いますよ?」



・・・優希。それ、あまりフォローになってねえぞ?(汗)



「……で?どうして逃げてきた?何があったのか話な?」






 俺は今朝から起こっている騒動について詳しく先生に話してみた。




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