第十九話 下駄箱に寄り掛かる美少女


――キーンコーンカーンコーン。


 学生なら聞くだけでちょっと幸せになれるチャイムが鳴り響く。

 

 授業から解放された俺たちは、大きく息を吐くと、各々楽しみな放課後の時間へ動き始めた。


 かくいう俺は、特に放課後予定もなく、ぺったんこなスクールバッグのチャックを閉める。


 ぶぶっ、とポケットの中が振動し、見てみるとメッセージが来ていた。それもグループに。


 画面に表示されているグループ名は、『いちごアイス』。俺と広瀬と早坂の三人のグループで、命名者は広瀬。


 理由は、「私、いちごアイス好きなのよ」ということ。


 それにしたって安直だよなぁ、なんて思いながら、メッセージを見る。


『早坂:今日委員会で帰るのが遅くなるかもしれないから、夕飯は冷蔵庫にある昨日の残り物でお願いします‼』


 早坂の方を見ていると、友達と話しながら、気持ち急ぎ目に教室を出て行くところだった。


 そのついでに広瀬の方を見てみると、気づけばバッグは机の横にかかっておらず、もう帰ったらしい。


「(……俺も帰るか)」


 帰ったら映画でも見るかなぁなんて思いながら、席を立つ。


 教室を出る前に、


『松下:りょ』


 とだけ送って、教室を後にした。





「あ、来たわね」


「……なんでお前がここにいんだよ」


 帰ろうと下駄箱に来たところ、俺の下駄箱の前に広瀬が居た。


「いたら悪いかしら?」


「そんなことないけど」


「じゃあいいでしょ。それより、今日一緒に帰りましょ?」


 ニコッと自然に微笑む。


 別に断る理由もないし、どうせ帰る場所は同じなのだから、選択肢は一つしかない。


「まぁ、いいよ」


「やったっ。……ふふっ、透と二人きりね……(ボソッ)」


 難聴系主人公ではなので、最後の呟きはバッチリ聞こえた。


 が、まぁいちいち反応するのも面倒なのでスルーして、取り出した靴を放り投げる。


「あっ、そういえば、ちょっと寄り道するけれど、いいわよね?」


「……嫌だと言ったら?」


「さっき私と一緒に帰るのいいって、言ってたわよね?」


「それずるくないか?」


「女の子は少しずるいくらいが可愛いじゃない?」


「俺に聞かれてもなぁ……」


「ふふっ」


 なんといえばいいのか分からず、頭を掻いているとそんな俺を見て広瀬が小悪魔的な笑みを浮かべた。


 最近気づいたことなのだが、広瀬は俺が少し困っているのを見るのが好きらしい。


 ……なんて悪趣味を持った奴だ。


 昔はそんなこと、なかったんだけどな。


「とにかく、良いわよね?」


「……はぁ、拒否権なんてないんだろ?」


「そこは素直に『いい』って言って欲しいわ」


「……いいよ」


「うんっ、よくできました」


 なんだか妙にテンションの高い広瀬。


 やっぱりさっき呟いていたけど、早坂が委員会でいないから、俺と二人っきりなことに気分が上がってるんじゃなかろうか。


「さっ、帰りましょ! ちょっとだけ、寄り道はするけど!」


 弾むように前を歩いていく広瀬。


「(絶対ちょっとじゃないよなぁ……)」


 そんな確信を得ながら、さっきの予想は案外的を射ていそうだなと思った。

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