第九話 転校生???


 今現在、学園一の美少女に朝から上目遣いで見つめられていた。


 この土日に色々あったことを当然知らないクラスメイトたちは、突然変わった俺たちの関係に疑心を含んだ視線を送る。


「いや、その、な?」


「な、なに?」


「その、なんと言いますか……」


 もうすでに修羅場だ。


 この状況を打開する状況が思いつかない。


 ちらりと横を見てみると、伊織は漂うゴシップの香りに涎を垂らしている。


 早坂の後ろからはまたあの鋭い視線。具現化すれば、かなりの殺傷能力を誇るだろう。……って、今はそんなの関係ない。



「ねぇ、なに? 透くん?」



 顔を真っ赤にして、首を傾げる早坂。


 早坂の言葉に、教室がざわめく。


「おい今早坂さん、下の名前で言ったぞ!」


「う、うそ、だろ……?」


「なに、あの二人付き合ってるの?」


「まさかぁ~」


 様々な憶測が飛び交う中、俺はただひたすら早坂の猛アピールを受けていた。


 ……クソッ、どうすれば……!


――ガラッ。


「おいお前ら~朝のホームルーム始めるぞ~」


 気だるげな声で入ってくる担任。


 クラスメイト達は致し方なく自分の席に戻っていく。


 いつも通りの喧騒。


 た、助かった……。


 安堵からほっと胸を撫でおろすと、


「も、もうぅ……」


 少し残念そうに席に戻っていく早坂の姿が視界に入った。


 ……今の早坂を見られたら、ちょっとヤバかったかもな。


 とりあえず担任に心の中で最大級のリスペクトを送った。


「今日の連絡……の前に、今日はみんなに転校生を紹介するぞ~」


 …………ん?


 何だろう。妙に変な汗が出てくる。


 それにこの嫌な予感。


「じゃあ、入ってきてくれ~」


 ドアがガラリと音を立てて開く。


 クラスメイトたちが「転校生⁈」と騒ぎ出す中、アイツが一歩踏み込んだ瞬間、誰もが言葉を失った。


 まるでアニメの世界から出てきたかのような姿に、息を飲む。


 教室中に漂う圧倒的な美少女のオーラ。


 ……おいおい。


「初めまして、広瀬・カトリーナ・美乃梨です」


 特徴的な赤い髪が揺れる。


 堂々と胸を張り、少し八重歯を覗かせているのは、紛れもない俺の幼馴染だった。


 ……アイツ、何やってんだよ。


 俺の反応とは裏腹に、教室中が歓喜の声に溢れる。


「おいおいマジかよ! とんでもない美少女じゃねぇか!」


「美少女転校生とかベタな展開きたぁぁぁぁぁぁ!!」


「美しい……美しすぎる!!!」


 そんな好意的な反応を感じ取ったのか、ほのかに微笑む広瀬。


 ちらりと早坂を見てみると、驚いているのか口をポカっと開いていた。


 俺はというと、確かに驚きもあったのだが、広瀬がここに住むと言ってから、薄々そんなことになるんじゃないかと思っていた。


 広瀬ならどんな手段を使ってでもねじ込んできそうだからな。


 だから、あまり驚きはない。


 それより、確信に変わっていく嫌な予感に心を震わせていた。


 何もしないでくれよ……。


 広瀬がニコッと笑い、ちらっと俺の方を見る。


「(おはよ、透♡)」


 そう言われているような気がした。


 そしてすぐに教室全体を見渡し、口を開いた。





「好きな人は、幼馴染の透です♡」





 ……あはは、やっぱりやりやがった。



「「「えぇぇぇぇぇええええぇぇえっぇぇぇええええ!!!!!!!!!」」」」



 あまりにもお決まりで、最悪の展開に、一人ため息をつかずにはいられなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る