第三話 幼馴染参戦


 昨日は色々あったからか、随分長いこと寝てしまった。


 目が覚めたのは、時計の針が十二時を回った辺り。


 とんでもなく連打されたインターホンに起こされた。


――トントン。


「松下くん? 起きてる?」


「あぁ、起きてるよ」


 部屋を出ると、そこにはパジャマ姿の寝起きと思われる早坂の姿があった。

 

 まだ顔は眠そうで、目の下には薄っすらとクマが滲んでいる。


「おはよ」


「おはよう。それでさ、なんかこれ、怖くない?」


「……めちゃくちゃ怖い」


 借金の取り立て業者みたいなんだよな。


 それに、なぜか嫌な予感がする。


「……出た方がいいのかな?」


 怯える早坂。


 まぁなんだ。引っ越したばかりだし、父さんたちのサプライズかなんかだろ。……たぶん。


「俺が出る。だから早坂は一応部屋にいてくれ」


「だ、ダメだよ! 万が一のことがあったら……あれ、だし」


「……そうか。なら俺の後ろにいろよ」


「う、うん」


 早坂が俺の服をちょこんと摘まむ。


 俺はチェーンをしっかりかけて、扉を開いた。


 

 ――その刹那、赤い髪が扉の向こうで揺れた。



 そして、






「透‼ 久しぶりね‼」






 そこにいたのは、どこか見覚えのある赤髪の美少女だった。


「……え、誰?」


「ま、まぁそうなるのも無理はないわね。とりあえず、このチェーン外してもらってもいい?」


「……(どうする?)」


「(危ない人じゃなさそうだし、それに松下くんの知り合いならいいんじゃない?

)」


 早坂と視線で会話をする。


「……わかった」


 チェーンを外す。


 すると少女は顔をぱーっと明るくさせて、


「透っ!!!!!」


「どぅわっ⁈」


 俺の胸に飛び込んできた。

 

 そのまま押し倒される。


「透! 透! 透!」


「いや誰だよ!」


 頬をすりすりされたり、クンクンと匂いをかがれたりと、されるがままの俺。


 なんだこれ、なんだこれ⁈



「久しぶり、透。私、広瀬よ!」



「……は? 広瀬?」


 ありえない。


 だってアイツは……




「そうよ。実は私、女の子だったの」




 ・・・。



「えぇぇぇぇぇぇぇえええええぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!」



 昔からの男友達が、実は美少女でした。


 ……なんだよそれ。








 

 段ボールだらけのリビングにて。


 ダイニングテーブルで俺の正面に座る広瀬に、目を向けた。


 モデルのように整った、少し幼さの残る顔立ち。睫毛はピンと長く、情熱的な赤い髪が艶やかに伸びている。


 早坂に比べたら控えめだが、引き締まったスタイルのいい体。


 すらりと腰から伸びている白い足は美しく、まさにそこら辺のモデルより綺麗だった。


 イギリス人の父と日本人の母との間に生まれ、文字通り日本人離れした美しさを放っている。


「改めて、私の名前は、広瀬・カトリーナ・美乃梨よ」


 本名を聞くのは初めてだったが、明らかに女の子。


 疑う余地もない。


「それで、こちらの方が透の許嫁、かしら?」


「あ、あぁ」


「……な、なるほど」


 顔をしかめる広瀬。


 早坂は気まずそうにしている。


「初めまして。松下くんの一応、許嫁の早坂友梨です」


「ふぅ~ん……」


 早坂の全身を精査するみたいに広瀬が見る。


 うっ、と時折唸りながらも見終わったのか、


「や、やるわね……」


「いや何がだよ」


「どうやら、透の許嫁には申し分ないようね」


「お前は姑か」


 それにしても、未だに驚きを隠せない。


 今までずっと男だと思っていた幼馴染が、まさか女の子だったなんて。


 しかしそんな俺には目もくれず、早坂をじっと見つめる。



「――でも、許嫁は今日で終わりにしてもらってもいいかしら?」



「「……は?」」


 

 当然よ、と言いたげに胸を張る。


 そして、このマンションを激震させる爆弾が落とされた。





「だって私は、透とずっと昔に、結婚の約束をしているもの」





 …………へ?

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