第3話 海辺にて

青年は海を見ていた。

大さん橋から臨む海は太陽の光を受け、きらきらと金色に輝いていた。

青年にとって、海は愛すべきものであり、同時に憎むべきものであった。

それは憧憬と悔恨を含んでいた。

光の届かない、仄暗い海の深淵に沈みたいと願った。

自身が海の一部と化すことで、海を征服できると考えた。


青年は過去の自分を憎んでいた。

このナルシスは、過去の自分を憎むことで、現在の自分を愛したのである。

『おれには、女を愛することはできない。少なくとも性愛という点では、完全に失敗した。おれはノアの箱舟から零れ落ちた男だ』


自らが変態性欲者であると気づいた12歳の夏が思い出された。

その夏は、青年の心の中に深い幻影として灼き付いていた。

『思い出が人を縛り付けるなら、忘却は解放の福音なのかもしれない・・・。すると俺はペテン師にちがいない』


後ろめたさがオルゴールを鳴らし、生きづらさが映写機を回し始めた。

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