ー if story ー カイン2

 翌日の朝、私はカイン殿下を迎えに行く。今日はシャツにジャケットと昨日の王子服よりラフな格好をしているわ。それでも滲み出る王子オーラは凄いと感心してしまう。


「カイン殿下、昨日話をしていた王宮内を案内しますがそれで良いですか?」


「そうだね。トレニアの働いている薬師棟や騎士団をのぞいてみたい」


「分かりました」


私はそう言うとまず騎士団棟へと案内した。カイン殿下は騎士団長だし、やはり気になるわよね。


 騎士団棟の前では騎士達が訓練を行ってる。端には見学スペースが設けられており、ご令嬢達は騎士達を見て黄色い声援を送っている。これはカイロニアでもここでも変わらないわね。


「トレニアちゃん!来てくれたの?」


そう大声で私を呼びながら訓練を止めて駆け寄ってきたのはラムダ副団長。


「トレニア、知り合いかい?」


「ええ。第三騎士団の副団長のアインス・ラムダ様です。たまに医務室でお会いします」


「トレニアちゃん、隣に居る人ってカイロニアのカイン団長だよね?なんで一緒にいるの?」


なんだか2人とも睨み合っている気がする。


「ラムダ副団長、私カイン殿下の案内役となりました。騎士団に案内している最中です」


「へぇ、そうなんだ。あれだよね?カイン殿下って女の子侍らせているって有名なんだけど、トレニアちゃん知ってる?」


…ええ。そうですね。


カイロニア国で過ごしてよく分かっております。心の中で即答しつつも淑女の仮面で通し切るわ。


「ラムダ副団長、残念だがそれは昔の話だ。今はトレニア一筋なのだよ。君と一緒にしないで欲しいな」


私はどうしたらいいか分からず、従者の方を見ると従者の方は頷くばかり。


「本当かなぁ?女の子の尻を追いかけ過ぎて腕が鈍ってるんじゃないのー?」


「ははっ。鈍ってるかどうか確かめてみると良い」


 そうして決まった2人の手合わせ。カイン殿下は上着を脱いでやる気充分。見学スペースのご令嬢達の興奮はMAX状態。凄いわ。訓練をしていた他の騎士達も心配そうにみている。


「では私が審判を行う。では、始め!」


 第三騎士団長の合図で始まった打ち合い。ラムダ副団長もカイン殿下も強いのね。


 木刀での激しい打ち合いに両者一歩も引いていないわ。けれど、段々とラムダ副団長が押されているようにも見える。


ラムダ副団長が大きく振りかぶったその時、


「隙あり!」


とカイン殿下はラムダ副団長の木刀を弾き飛ばした。


「参った。流石団長を名乗るだけあるね。負けちゃった。トレニアちゃん、慰めてー」


そう言って私の所へ向かおうとしたラムダ副団長の腕をカイン殿下は掴むとご令嬢達の群れの中にポイっと放り込んだ。


「カイン殿下、大丈夫ですか?」


私は色々と心配になり声を掛けた。


「あぁ。大丈夫だよ。ライバルはこれでまた1人蹴落としたしね。さぁ、トレニア。騎士団を実践も兼ねて見学したし、薬師棟も見に行きたい」


「分かりました」


 私はカイン殿下を薬師棟へと案内した。薬師棟ではカイン殿下が連れてきた薬師2人が仕事をしているように見えるわ。


「ラクス、ジャル。仕事はどうだ?」


「素晴らしいです。少人数で仕事は膨大ですが、薬草園の薬草達も育ちが良く、薬師方の知識量も技術も凄い。ここでずっと働いていきたいです」


薬師方の話を聞いてカイン殿下は満足気な様子。


「そうか。ならここに居てもいいぞ。トレニアと交換でもいい。トレニアも素晴らしい薬師だからね。カイロニアで働いたらカイロニアの製薬技術も飛躍的に伸びるだろうし」


そう言ってカイン殿下は私をギュッと抱きしめて頬に口付けをした。


「っ!カイン殿下、お戯れをっ。みんなが見ています」


「見せつけているんだよ。僕とトレニアの仲を」


顔から火が出そう。いや、絶対出ているわ!


 ナザル薬師はニヤニヤ笑っているし、レコルト薬師はサッと席に戻ってしまったわ。


「カイン殿下、そろそろ戻りましょう」


「そうだね。みんな仕事頑張ってね」


上機嫌でカイン殿下は薬師棟を後にした。


「トレニア、明日はどこへ行こう?」


カイン殿下はニコニコと聞いている。


「明日はカイン殿下の訪問歓迎の舞踏会が行われます」


「あぁ、そうだったね。トレニアのドレスはもうローサが受け取っているはずだし、確認しておいてね」


そうして私はカイン殿下にエスコートされ舞踏会に強制参加となった。




 当日は朝から悪魔達(王宮侍女さん達)にフルコースを受け、カイン殿下のエスコートで会場入りした。


令嬢達に囲まれるのを予想はしていたのだけれど、カイン殿下は令嬢達を無視していたわ。そして私とダンスを3曲踊ったの。ダンス中に甘く囁くカイン殿下に私は溺れてしまいそう。


彼から逃げる事は出来ないと思ったわ。


だから…。


「カイン殿下のリードするダンス、とても嬉しかったです。カイロニアでも私と踊って頂けますか?」


私はダンスを終えたその場でプロポーズし、最上のカーテンシーを行う。カイン殿下は一瞬の間を置いて私に勢いよく抱きしめた。


「嬉しい。僕はトレニアと踊るよ。生涯で君だけだ」




そこからは猛スピードで時間が過ぎていった。


もちろんローサはカイロニアに付いてきてくれた。カイロニアでは陛下も王妃も良くしてくれたの。


どうやら過去のカイン殿下に思う所があったらしく、彼が変わった事でとても喜んでいるようだ。令嬢達は厳しく注意されていたようでカイン殿下には全く近づいて来なくなっていたわ。





「トレニア、カイロニアに来てくれてありがとう。愛している」


「カイン殿下、私もお慕いしております。これからも末永く宜しくお願いしますね」


「もちろんだ」


【完】

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