ー if story ー ナザル薬師2

 仕事に追われているうちにとうとう舞踏会の日が来た。


「ローサ、変じゃ無いかしら?」


「お嬢様、今までにないほど光り輝き女神のようです」


当日は朝から公爵家のメイドさん達がワラワラとやってきて私の準備に取り掛かってくれたの。悪魔の再来だわ!瀕死の私を他所にローサはお茶を飲んで見学していたわ。


ぐぬぬ。解せぬ。


悪魔達は(公爵家のメイドさん達)やり切ったという顔をしている。


「お嬢様、ナザル様がお見えになりました!」


 玄関を出るとそこには王子様然としたナザル様の姿。私の瞳の色や髪の色を取り入れている。これはお互い好き好きアピールなの?ちょっとそれはそれで気恥ずかしいわ。だって婚約者でも無いもの。ローサは『外堀をガンガン埋められていますね』なんて言っているわ。


「ナザル様、お待たせ致しました」


「トレニア、美しい。女神のようだ。是非、僕の、僕だけの女神になって下さい」


私は顔を真っ赤にしたまま頷くのが精一杯だった。


「ハイドラ公爵子息様、トレニアお嬢様が困っております。早くエスコートで舞踏会に行って下さいませ」


「あぁ!そうだね。あまりの美しさについ、プロポーズしてしまった。さぁ、僕の女神。舞踏会へ行こう」


私達は歩いて会場へ到着するとナザル様のお父様とお母様、お兄様とその奥様が待っていた。


「お初にお目に掛かります。トレニアと申します。本日は舞踏会へ参加させていただき有難う御座います」


私はしっかりと礼をする。


「ナザルから話を聞いているわ。ガーランド侯爵の娘さんね。これからも宜しくね」


ナザル様のお母様はニコニコしながら話しかけてくれた。


「さぁ、陛下へ挨拶に向かうよ」


ナザル様のお父様が声をかけた。ナザル様に似て素敵なお父様だわ。



 会場に入るとそこは煌びやかな衣装を着た紳士、淑女が沢山いたわ。初めての王宮舞踏会。きっとこれが最初で最後だわ。しっかりと目に焼き付けないと。


「トレニア、キョロキョロしていて可愛いね。だけど、ほらもう挨拶だからね」


ナザル様は耳元で囁く。私は今、顔が真っ赤になっているに違いないわ。顔が熱いもの。ナザル様のお父様が代表して挨拶を行う。


「そこの令嬢はガーランド侯爵の娘だな。息子の妃にと思っていたのだが、一足遅かったのか。ワシは諦めておらんのだ。ハイドラ家と婚約しないならすぐにでも王宮へ連絡を欲しい」


 私はなんとも言えず、曖昧に笑みを浮かべて礼をした。公爵様はハハハと笑い、陛下に断りを入れている。挨拶後、公爵様達はそのまま挨拶回りがあるので別れる事になった。

ナザル様のお母様は別れ際にこっそり『ナザルと3曲続けて踊って頂戴』と囁いていったわ。


こ、公爵夫人公認なの!?


私のドキドキは他所に


「さぁ、挨拶も済んだ。トレニア、ダンスを踊っていただけますか?」


ナザル様は手を差し出す。私は手を取り、2人でホールの中央に向かい礼をしてダンスを始める。


「トレニア、さっき母はなんて言っていたんだい?」


ニコニコしながらナザル様が聞いてきた。


「えっと、ナザル様と3曲踊って頂戴と言われました」


「ったく。母上は余計な事を」


そう言いつつもナザル様はどこか照れている様子。


「トレニア、このまま僕と3曲踊ってくれるかい?」


「えっと、婚約をすっ飛ばして夫婦となるのですか?」


「それもそうだ。トレニア、2曲終わったらバルコニーへ行こう。話がある」


いつになく真剣な表情のナザル様。


「わかりました」


私はそう返事を返す。それにしてもナザル様のダンスは素敵だわ。夢見心地になってしまう。


「ナザル様とのダンスは素敵で2曲なんてあっという間ですね」


「嬉しいよ。さぁ、トレニア行こう」


ホール脇ではナザル様とのダンスを待っていたご令嬢達が集まっていたけれど、ナザル様は『ごめん。君達に興味は無いから』と、にこやかに私の腰を抱きし、バルコニーへと向かった。


ようやく出たバルコニーはホールの賑やかさを遠くに聞きながら月明かりに照らされて落ち着いた空間になっている。


それにしてもさっきはご令嬢の中には猛者もいてナザル様の腕に絡みつこうとしている人もいたわ。これじゃ女の人嫌いになるわよね。


「ナザル様、相変わらずモテモテですね。私と2曲踊っているのに気にしていませんもの」


「そのうち薬でも盛られそうだよね。まぁ、薬師の僕には効かないけどね」


ナザル様はふふっと微笑みながら私に向き直り片膝をついた。


「… … … トレニア、僕は、君の事が好きだ。結婚して下さい」


震える声でナザル様が差し出した一つの指輪。涙が出てしまう。


「ナザル様、私、平民ですが良いのですか?」


「僕は公爵家の4男だし、結婚したら籍を出るから僕の持っている爵位の子爵になってしまう。トレニアが平民だからと言って僕は気にしない。むしろ、僕は爵位が落ちてしまう。でも爵位の事で諦めたくない。トレニアを妻に迎えたい。それでも良いと思えるならこの指輪を受け取って欲しい」


私はそっと指輪を受け取り、薬指に着けた。



「ナザル様、好きです。一生側に置いて下さい」


「ああ。もちろんだよ。絶対離さない」


【完】



最後までお読み頂き有難う御座いました。( ^∀^)



ーこっそり小話ー

健康のために剣の道を極めそうなナザル薬師。理由、絶対ズレてるわ。と書いていて考えがよぎる。

if編を書いている途中、トレニアは熊に襲われてナザルが助ける話になったのですが、描写もグロになるし、恋愛モードが吹っ飛ぶという大惨事が起こり何度も書き直しする羽目になりました。(いつもの事ですが)毎回脱線するので完成までに時間が掛かってしまいました。m(_ _)m

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