第41話

 翌日はゆっくり寝てしっかりと休んだおかげで仕事も無事復帰し不安なく取り掛かる事が出来た。何にも変わる事無く仕事に取り組んでいたのだけれど、どうやら周りは違ったみたい。


ナザル薬師やレコルト薬師から本当にターナで良いの?俺達が婚約者に立候補してもいいよって心配されたり、ロイ薬師達にはおめでとうと祝福されたりしたわ。


ターナ様は人が変わったように甘くなったかも。そうは言っても仕事に関しては厳しいのだけど。そうこうしている間に来た私の休みの日。





迎えに来たターナ様の馬車に乗り、久々の侯爵邸に着いた。


「お帰りなさいませ、お嬢様。旦那様がお待ちです」


和やかな執事に案内され、執務室へと入る。


「お父様、ルーカス様、お久しぶりです。今日は手紙にも書いた通り、婚約したい方が出来たのでご報告と復籍と婚約の手続きのお願いに上がりました」


私はターナ様と共に父に挨拶をする。


「君がグレイル伯爵子息のターナ君だね。グレイル伯爵からも連絡を貰った。私達はトレニアの事をずっと心配していたんだ。ターナ君にはとても感謝している。トレニアを誰よりも幸せにしてやって欲しい」


父もルーカス様もターナ様に頭を下げている。これにはターナ様も慌てていた。


私達は和やかな雰囲気で婚約の話や婚姻後の話を詰めていった。ターナ様は最短で結婚したいと言っていたけれど、ドレスや式場の手配等が間に合わないので1年後の結婚となった。


侯爵家と伯爵家の繋がりの為に盛大な式にしたいと両家からの要望が出たみたい。私としては身内だけで良いのにと思ったのだけど、みんなから即却下されてしまった。大方の話が纏まり、詳細は後日グレイル伯爵と父とで決めるみたい。


なんとか上手くいって良かった。


…と思ったのは束の間。


それは突然やってきた。


ー コンコン ー 


不意に扉が開かれ、私達は視線を向けると姉、グリシーヌが部屋へと入ってきた。


「グリシーヌ、入室を許可した覚えは無いが?何か用か?」


父が珍しく低い声で問う。


「あら、お父様。別に良いでしょう?久々にトレニアが帰ってきたので顔を見に来ただけですわ。私も領地から息子と久しぶりに帰ってきたのだし」


姉は全く気にする様子もなく、話し始める。


「トレニア、横にいる方がトレニアの婚約者?素敵な方ね。お名前はなんて言うのかしら?」


姉がターナ様に興味を示している。


どうしよう。


泣きたくなる。


私は黙って俯いていると、ターナ様はそっと私の腰に手を回して密着した。


「私、ターナ・グレイルと申します。今日はトレニア嬢と婚約する為の手続きをしに来たのです」


「あら、ようやく妹は婚約する気になったのね。ターナ様、今度、我が家でお茶でもいかがかしら?ルーカスも喜ぶわ。趣味はなにかしら?私も色々と聞いてみたいわ、ターナ様の話」


「グリシーヌ様、それは嬉しいお誘いですね。私の趣味は薬の開発をする事なのです。趣味と仕事を兼ねているんです。そうそう!この間のジルス草の葉先を3ミリ切り取り … … … という部分が…「ターナ様、詳しい説明有難う御座います。いい勉強になりましたわ。私は用事を思い出したのでこれにて失礼しますわ」」


 難しい話はしたくないとばかりに姉はそそくさと立ち上がり部屋を出て行った。反対に父とルーカス様は薬草の話に興味を持ったみたいだわ。領地が薬草の産地だから自然と話は通じるわよね。


「さて、お父様。ルーカス様。私達は今日はこれでお暇させて頂きます。また来ますね」


「あぁ。楽しみに待っている。いつでも帰ってきなさい」


父は優しくそう言ってくれた。


 ターナ様は私の腰に手を回したままエスコートし、馬車へと乗り込んだ。私は過去の仄暗い感情を思い出し、俯いて必死に蓋をしようとしていた。


「トレニア、大丈夫?顔色が悪いね。少し休む?」


「ターナ様、私は大丈夫です。ただちょっと疲れただけです」


ターナ様はギュッと私を抱きしめる。


「大丈夫じゃないだろう?グリシーヌが部屋に入って来た時からトレニアは辛そうにしていた。覚えているかな?卒業パーティーの時にナザルが君の妹に言い寄られた事を」


ターナ様は私に微笑みながら話を続けた。


「ナザルもそうだが俺も幼い頃からあの手の令嬢を相手にして来た。嫌と言うほどね。綺麗だとか美人だからと顔で好きになる事は無い。色目を使ってくる奴ほど嫌いなものはない。


トレニアは俺にとってかけがえの無い存在なんだ。それは姉や妹が傾国の美女だとしても揺らぐ事は無い。揺らぐ奴は馬鹿な奴だ。俺はトレニアさえいれば良い。それでは駄目か?」


「ターナ様。嬉しいです」


「では婚約者殿、顔を上げて俺に顔をよく見せてくれ」


ターナ様は私の顎をグイッと持ち上げお互いに目が合う。その近さに恥ずかしさが込み上げてくるけれどターナ様の手は私を離してくれそうにない。


「… ターナ様」


「ターナだ」


「… ターナ」


「ようやく呼んでくれたね」


「色々と横槍が入る前に、君を他の奴に取られたくないと少し急ぎすぎたね。1年後には結婚する事は決まったから後はゆっくり恋人としての時間を楽しみたい」


ターナ様に寮まで送ってもらい、また週末に出かける事になった。

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