運命は最初から決まっているものなのか、それとも……!

誰もが知る物悲しい童話『人魚姫』――その言い伝えが残る世界に生きる、人魚の女の子のお話です。

私たちの世界ではハッピーエンドをつかむ人魚姫のお話もありますが、彼女の世界に伝わっているのは、王子に恋をしても報われることなく泡となって消えた人魚姫の悲恋のみ。そのことを知りながらもやはり、彼女は王子様に恋をしてしまうのです。なんだかもうここからしてちょっと切ない。

しかしひとつの事件をきっかけに、なんと人魚――エレオノーラは、王子様と直接会話ができる関係になります。彼の護衛騎士であるギルバートと共に3人は幼なじみとして季節を過ごし、全員が立派な男女へと成長していきました。するとやはり強く芽生えるのは、先へと進みたくなる恋心。

人魚から人間になる方法は存在し、実際に彼女は人間の世界へと旅立つことになりますが、それは御伽噺と同じく高いリスクを伴う行為。恋を成就させねばならない期限は、たったの一年です。ギルバートの助けを得て人間としての生活を必死にこなすエレオノーラの健気さは、どの場面も転がり回るほどかわいいのですが……。人間の世界は不穏と苦労が渦巻いていて、なかなかうまくいかないことばかり。

そして王子様に恋をしているはずなのに、近くで支えてくれるギルバートのことも意識するようになり、エレオノーラはあれほど夢見ていた“恋”の本当の苦さを知っていくようになります。ううん、切ないっ……!

丁寧な導入に美しい文章、そして繊細なひとの心を綴ってくれる、まさに真珠のようにさまざまな艶めきをもったお話。この恋の結末はあらたな御伽話となるか、それとも……?いよいよお話も大詰めで楽しみです!がんばれエレちゃん!

その他のおすすめレビュー

文遠ぶんさんの他のおすすめレビュー130