第22話厚みのある人生をもう一度
「ぐわぁぁぁぁー!!」
「先生っ!」
「トク兄ッ!」
「トーさん!」
「トクザ殿ぉー!!」
4人の悲鳴を聞きながら、俺は情けなく岩壁へ叩きつけられる。
久々に格好つけたのに、こりゃだせぇなぁ……。
たった一撃もらっただけで、俺は満身創痍になってしまったのだった。
「グ、グオー……!」
しかし若ドラゴンも俺と同じ状態らしい。
身体をゆらゆらと揺らしながら、傍で未だに気絶しているパルディオスへ視線を落とす。
どうやらパルディオスを喰らって、魔力を吸収し、傷を癒すつもりらしい。
「や、やれ! キュウ、コン、シン! 今だったらお前らでも!」
「「「――!?」」」
「大丈夫だ。例えお前達は一人一人は小さな火でも、3人揃えば全てを焼き尽くす"火炎"となるんだぁー!!」
俺は駆け寄ってきた三姉妹へ叫んだ。
すると三姉妹は互いに頷きあう。
「行くよ! コン、シン!」
「おう!」
「ほらさー!」
三姉妹はそれぞれの武器を握りしめた。
「「「わぁぁぁぁー!!」」
キュウ、コン、シンの3人は勇ましい声を上げながら、ドラゴンへ突き進んでゆく。
「見ていてください先生! これが私の編み出した、必殺の一撃! ライトニングアローっ!」
キュウは魔力を注いで光り輝く矢を放った。
矢はドラゴンを撃ち抜き、更に怯ませる。
「トーさんに怪我させた……許さない、許さない、許さない……ダぁークネス! ボォォォルトォォォ!!」
激しい憎悪を孕んだ暗黒の矢が満身創痍のドラゴンを薙ぎ倒す。
そして白銀のハルバートを掲げたコンが飛び上がった。
「その首、もらたぁぁぁぁ!!」
「ギギャァァァァ!!」
コンのハルバートが砂塵を巻き上げた。
ややあって、切り落とされたドラゴンの頭がドスン! と、地面へ落っこちてくる。
たとえ満身創痍の相手であろうとも、サク三姉妹はドラゴンの討伐を成功させた。
冒険者を初めてたった2ヶ月で、これは快挙だった。
「これからも頑張れよ、キュウ、コン、シン……」
俺は安堵の中、意識を閉ざしてゆくのだった。
⚫️⚫️⚫️
「……というのが、今回の救出劇とドラゴン討伐のあらましってわけだ」
俺は治癒院のベッドの上で、丁度ギルド職員のローゼンと月間冒険者野郎ども!の記者であるササフィさんへ、話を終えたところだった。
「ローゼンは正確に、俺がこうして治癒院へ運び込まれるまでを詳しく頼むぞ」
「はいはい、分かったわよ。仕事だからきちんとしたげるわ」
呆れた様子のローゼンだった。
「ササフィさんは多少盛っても良いから、三姉妹の大活躍をしっかり記事にしてくれよな!」
「勿論ですよ! こんなグレイトなネタ、逃すわけには参りませんから! ああ! 自然と文字が溢れ出るぅー!!」
ササフィさんは無茶苦茶興奮しながら、ものすごい速度で文字を書き殴っていた。
「はい、トクザさんおしゃべりはそこまで! ちゃんと寝っ転がってください。怪我人なんですから!」
「はいよ」
反対側で心配そうにしていたアクトに促され、素直にベッドへ寝転がる。
アクトはローゼンに誘われてきたらしい。
まぁ、体の方はすっかり治ってるんだけど……治癒院からはあと三日ほど様子を見たいって言われていて入院が長引いている。
こんな楽な状況を見逃すわけには行かなかった。
クエスト中の怪我だから冒険者保険協会からは見舞金が貰えるからだ。
こうして寝ているだけで、なんと日額5000Gの給付金が貰える!
かけててよかった保険ってやつだ。
なんならこのままずっと入院生活していても良いんじゃないかなぁ。
「おはようございます、先生!」
「おはようトク兄!」
「トーさん、おはおはー!」
なんて俺の邪な考えを、今日も見舞いにやって来てくれた三姉妹が払拭させた。
こうして慕ってくれるのは嬉しくて堪らない。
だけど、きっとこんな時間はもう長くないのだと思っている。
「お陰様で元気さ。ところで色々とどうだった?」
そう問いかけると、三姉妹は少し恥ずかしそうにしつつ、首元から等級認識表を取り出す。
3人揃って、認識表が紅色から“青”に変わっていた。
「これ本当に良いんでしょうか……?」
「それをもらえたってことは冒険者協会がお前達を"青等級に相応しい冒険者"って認めた証だ。要件のドラゴン討伐も果たしたわけだし!」
不安げなキュウへそう言ってやる。紅等級に上がってからわずか数日で序列2位の青等級になったんだから、無理もないだろう。
「相手が満身創痍だったからって、ドラゴンは簡単に倒せるもんじゃない。だから自信を持て! 大丈夫だ! お前達三姉妹はドラゴンを倒し、勇者パルディオスのパーティーを全員救出した英雄なんだからな!」
3人は俺の言葉を受け笑顔を浮かべた。
そして仲良く深々と頭を下げるのだった。
パルディオスを救出して賞金を手にして、借金返済の目処も付いていた。
もうこの子達はあっという間に立派な……いや、立派すぎる冒険者へ成長した。
どこからどう見ても、もう俺と一緒にいる必要はない。
いつ別れの日が来てもおかしくはない。
本音はずっと一緒にいて、この子たちの成長をずっと見守っていたいんだけどね。
「うう……ぐすん、良いシチュエーションだぁ……そうだ! みなさん、この感動のシーンをカメラに収めませんか!?」
もらい泣きしていたササフィさんが、カバンからレンズの付いた奇妙なアイテムを取り出す。
たしか、最近で始めたマジックアイテムの『カメラ』っていう、今の状況を克明に記録するものだっけ?
「特集記事の締めくくりを、この写真で飾りたいです! みなさん、ご協力お願いいたします!」
「キュウ、コン、シン! 写真撮るぞ! んなとこにいないで、こっち来いよ!」
「わかりました!」
「おう!」
「たましいーぬかれるーしゃしーん!」
3人は俺を取り囲むように並んでくれた。
だけどちょっと寂しい気がした。
「ローゼンとアクトも来いよ」
「はぁ!? なんで私も?」
「ええ!? 私もですか!?」
予想通り、2人は素っ頓狂な声を上げた。
「良いじゃないか、減るもんじゃなし。さぁさぁ、早く!」
「はぁ、もう全く……私の撮影料は高いわよ?」
「ト、トクザさんがそうおっしゃるのでしたら、遠慮なく……」
ローゼンとアクトも入ったら……うん! なかなか良いバランスになったぞ。
「お前もいっしょ?」
「あ、や、やっぱだめ……?」
シンはアクトを睨み、怯ませていた。
「こら、シン! お前、この間アクトに散々世話になっただろ? そういうのは良くないと思うぞ?」
「……むぅ……」
少し不満げなシンだったが、収めてくれたらしい。
シンとアクトは歳も近そうだから、うまくやれば仲良くなれそうなんだけどなぁ……
「じゃあ、みなさん撮りますよ! はい、ポーズ!」
ササフィさんの掛け声と共に、最高の時間が一枚の写真に収められた。
これから死ぬまでの数十年、この写真くらいに厚みのある人生を送っても良いのかもしれない。
人生を謳歌しても良いのかもしれない。
サク三姉妹と再会して、俺はそう思えるようになったのだった。
⚫️⚫️⚫️
ようやく治癒院から追い出された……もとい、解放された俺は久々の家路に着いていた。
てっきり治癒院でお出迎えをしてくれると思っていたサク三姉妹はなにか用事があるということで、来なかった。
ぶっちゃけすっごく寂しかった。
もう、別れが近いのかなぁ……
久々の自宅にだって明かりが灯っていないし、三姉妹は留守なのだろう。
俺はかなり凹みつつ、扉を開く。そして「ただいま」と声をかけると、
「おかえりなさい、先生」
「お、おかえり……はぁ、はぁ……」
「おかぁ……!」
三姉妹の妙に艶かしい声が聞こえたかと思うと、柔らかい感触が四方八方から押し寄せ、俺を拘束する。
「お、お前ら……なんて格好してんだぁ!?」
四方八方から俺に抱きついている三姉妹は全員、身体のラインがくっきり浮かぶ薄いベビードールを一枚羽織っただけだ。
これって、まさか!?
「もうお体が大丈夫でしたら……しましょ?」
*次回、本作恒例ご褒美話です(笑)
希望の未来に向かってレディゴー。
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