第18話ダンジョンで行方不明になってしまったパルディオスくん


(ああ、くそっ! なんで最近の俺は散々な目にあってばっかりなんだよ! それに毎回毎回記者は俺を叩きやがって!!)


 ダンジョンは危険である。

 手強い魔物がウヨウヨしていて、いつ罠にかかるかわかったものではない。

それでもここ最近、プライドを傷つけられてばかりいたパルディオスは、プンスカそのことに怒りながら先を進んでいた。


そしてそろそろ勇者として、何か成果を出さなければマズイ頃合いでもある。


「ま、待たれよ、パルディオス殿! 危険ですよー!?」


 最近、一党に加わったばかりのあどけない顔をした剣豪【マイン・レイヤー】は、慌ててパルディオスを追いかける。


やがてパルディオス一行は二股道の前に達した。


「パルディオス殿、どちらの道を?」


「ふーむぅ……じゃあ右!」


一党は右の道を選んで進む。


「UGAGAGA!」

「GOBUBU !」

「KISYAYA!」

「なんじゃ、ここはぁー!!」


 ダンジョンの中に時々発生する魔物たちの集合場所ーー通称モンスターハウスだった。


 逃げようにも、すでに前後の入り口は塞がれていた。


「パルディオス殿、抜かれよ! 某と共に活路を見出そうぞ!」

「お、おう!」


 マインに促され、パルディオスは剣を抜いた。

 いくらモンスターハウスに遭遇してしまったとはいえ、パルディオスは勇者。

あっさりとは行かなかったものの、この場を切り抜けることができた。


 そして今度は三叉路の前に立った。


「パルディオス殿、どちらへ?」


「ここは真ん中だぁ!」


 パルディオスは意気揚々と真ん中の道を進んで行く。


「UGAGAGA!」

「GOBUBU !」

「KISYAYA!」

「またモンスターハウスだったぁ!」

「抜かれよ、パルディオス殿!」


 なんの不運か二度目のモンスターハウスだった。

 さすがに二度目の遭遇だったので、それなりに消耗はしたものの、今回も無事に切り抜けたパルディオス一向。


 さすがのパルディオスも不安を覚えつつ、先を行く。

そうして五叉路の前に立った。


「パルディオス殿、どちらへ?」


「……」


「パルディオス殿?」


「今回はマインが決めてくんね?」


 しかしマインは膝まづき、首を垂れた。


「出来かねます。某はパルディオス殿の意思に従って戦う刃。刃が主へ物申すことなどできません」


「いや、そこをなんとか」


「申し訳ございません……」


 マインは優秀でかなり強い剣豪なのだが、こういう頭の硬いところが玉に瑕だった。

 これ以上問答を繰り広げても埒が開かない。

 パルディオスは他のメンバーへも、マインと同じ要求をするが、誰もが『パルディオスの判断に従う』の一点張り。


……みんなは頑なにパルディオスに代わって、行先を判断をしようとしなかった。

だって、きっと、これでまたモンスターハウスに遭遇したら、絶対にその道を選んだメンバーのせいにするんだもん。

パルディオスとはそういう男である。


「ああ、もうわかったよ! 使えねぇ奴らだなぁ!!」


 パルディオスはプンスカ怒りながら、左斜め前の道を選んだ。


「UGAGAGA!」

「GOBUBU !」

「KISYAYA!」

「OGAAAAAAAAAAA!!

「またかよ!? しかもここ、オーガの巣窟じゃん!!」


 多様な魔物に加えて、三度目のモンスターハウスには、大きくて強力な魔物の代表格オーガが多数生息していたのである。


「ぬ、抜かれよパルディオス殿! なんとかここを!」


「わぁってるよ……ぬわぁぁぁぁ!!」


 かくしてパルディオス一党とオーガを含む強力な魔物達との間に激戦が勃発する。

 戦いは熾烈を極めた。全員が何度も死にかけた。

だけどこんなところで死んでなるものかと、じゃんじゃんスキルを使って、ばんばんアイテムを消費していった。


「はぁ……はぁ……はぁ……マ、マイン……ポーション残ってね?」


「も、申し訳ございません。某の分はすでに底をついております……」


「んだよそれ……おい、他に誰かもってないのかよ!?」


 しかし一党の誰もが首を横へ振る。

 さすがのパルディオスでも、この状況はまずいと考えた。

一度戻って体勢を立て直すのが得策である。


「……あれ?」


 パルディオスはダンジョン脱出用の魔法が記された巻物を取り出そうとする。

しかし一向に目的の巻物が見つからない。

滅多に使わないものだから、奥にしまってしまったのだろうか。


「パルディオス殿、いかがされたか?」


「いや、脱出魔法の巻物がみつからねぇんだけど……マイン知らね?」


「もしや、このダンジョンの序盤で破棄された巻物では?」


「あっ……」


 ダンジョンへ入って早々、オリハルコンというレア素材を見つけた。

だけど持ち物がいっぱいでーー大半が無駄なガラクタばかりーー使い道が少ない巻物を捨てたような……


 全員の冷たい視線がパルディオスへ突き刺さる。

 この状況で、こんなミスをしたなんて言えるはずがない。


 だけどダンジョンから脱出する方法は、巻物以外にもある。

 パルディオスは魔法使いへ"転移魔法"の発動を要求する。


 しかし魔法使いは"できない"と首を横へ振る。

 この魔法使いはパルディオス好みの攻撃特化系で、補助系魔法を一切習得していないのだった。

 どうやら、そのことは契約時の契約書に明記されていたらしい。


「マジか……!」


 パルディオスは愕然とした。

 残っているアイテムはごく僅か。

 このダンジョンから脱出する方法といえば、歩いて元に戻る他ない。

だけど今の自分たちは自力で地上へ戻れるほどの力が残されてはいない。


 こうしてパルディオスとその一党は、魔物蠢くダンジョンへ閉じ込められてしまったのである。



⚫️⚫️⚫️


「ど、どうだったキュウ姉……?」


「早く教える!」


 ある日の冒険者ギルド。

コンとシンは掲示板を確認し終えたキュウへ、回答を促してる。


「あった……あったよぉ! 今日から私たち3人とも"紅等級"だよぉ!!」


 キュウは涙目で喜びを叫んだ。

コンもシンも歓喜して、三姉妹は仲良く抱き合いながら喜びを分かち合う。


……やべ、俺も自分のことみたいに嬉しくなってきた!


 ちなみにムサイ国の冒険者等級制度は七段階に別れていて、紅は序列三位を意味している。

 カニ騒動の解決、弓大会での活躍、スチールスネークの討伐に、魔穴騒動の鎮火ーー三姉妹は冒険者デビューをしてから、2ヶ月も満たない期間に、随分と活躍をしたと思う。

それに今でも素直に俺の言うことを聞いてくれ、地味な訓練も欠かしていない。

だから紅等級という立派な……立派すぎる結果が付いてきた。


 こりゃこの姉妹は本当にいつの日か物凄い伝説を打ち立てるのかもしれない。


「トーさん、おいわーい!!」


「こ、こらシン!?」


 シンは周りの目も気にせず俺に抱きついてきた。


「そうだね! 私たちがあっという間に紅等級に上がれたのも先生のお陰だよね?」


 珍しくキュウも腕に引っ付いてきた。


「そ、そうだな……私らがこう慣れたのもトク兄のおかげだよ……?」


 少し恥ずかしがり屋のコンは、顔を真っ赤にしながら服の裾を摘んでくる。

 2人っきりの時はすごく積極的なのにな。


 でも3人の言う通り、今日ぐらいはお祝いでパーっとやるのも悪くないかもしれない。


「すみません、通りまーす! 通してくださーい!!」


 カウンターの奥から飛び出してきたのはローゼンだった。

彼女は俺たちになど目もくれず、まっすぐとクエスト掲示板へ向かってゆく。

そしてそこへ、びっしりと赤文字が書き込まれた、一際大きな依頼書を貼り付ける。


「緊急クエスト発令です! 依頼者はフィクサー・マリーン子爵! 受注対象は紅等級以上限定! 内容はダンジョンで行方不明となったパーティーの探索及び救出! 報酬額は……全員無事に救出できて5200万Gです!」


「「「「「な、なんだってぇぇぇぇーー?」」」」」


 キュウも、コンも、シンも、他の冒険者達も、もちろん俺だって破格すぎる報酬額に目を丸くする。


 にしてもマリーンって家名、どっかで聞いたことがあるような……?

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