第13話一流の戦士の素質


「はぁ……はぁ……はぁ……、これ……きっつぅ……!」


「お、おいおい、トク兄大丈夫か?」


 山路でヘロヘロになった俺へ、コンは平然と手を差し伸べてくる。

 

 いやはややっぱり俺も歳をとったってことかね。

まぁ、この山道は結構急勾配だから、辛いのは当たり前だけど……なんかちょっとショック。


「少し休もうか?」


 さすがは体力にも、体にも恵まれているコンにとってはこんな山路なんてたいしたことが無いんだろう。

 しかし、こんなとこでへばっちゃ、予定が狂ってしまう。


「だ、大丈夫だ! 先急ぐぞ!」


「はいよ! でも本当に辛くなったら言って。おんぶしたげるから。10年前とは逆に!」


「じょ、冗談じゃない! まだまだ俺だって現役だぁ!!!」


 そーいや、コンの言う通り、10年前はちっちゃかったこいつをおんぶして山を降りたなぁ。

なんて懐かしい思い出に浸りながら、きつい山路を登ってゆく。


 幸い、辛かったのは上り坂のみで、特に魔物に出会うこともなく、順調に鉱脈のある頂上を目指してゆく。

そして頂上へ近づくたびに、ずっと響き続けていた妙な轟音が大きくなってゆく。


「あっ……」


「あっ……お、おっさん! なんでてめぇがここに!!」


 頂上で鉱脈へ魔法をぶっ放していた勇者のパルディオス君と出会ったしまったのだった。


「なんでって、俺られもアダマンタイトを取りに来たからな。しかし、こりゃ……」


 頂上の至る所には無惨な爆破の痕跡が見られた。

更に脇に控えた飛龍の背中には、鈍色に輝くアダマンタイト鉱石が夥しいほど満載されている。


「おいおい、あの量って……まさか掘り尽くしたなんてことないよな?」


「さぁね。まぁ、もうあんまし出てこないから、俺ら帰ろうと思っていたところ」


 パルディオス君はあっけらかんと言い放つ。

相変わらず、他人のことはあまりよく考えてないらしい。


「はぁ……マジか……てか、あんなにたくさん採って何に使うんだよ?」


「お前に教える義理なんてないね! さっさとデカ女と帰りやがれ! シッシッ!」


 デカ女と言われ、隣のコンは強く唇を噛み、ハルバートを握りしめた。

 

「な、なんだよ、デカ女! お、お前に睨まれたって怖くなんかないんだからな!」


「っ……!」


「さっさと失せろ! デカ女! 男女! おっさんとイチャイチャでもしてやがれ!!」


 コンの足が一歩前へで出た。

 これはまずいと、俺はコンとパルディオスの間に立つ。


「謝れ!!」


 意図せず、咆哮のような大声が腹の底から湧き出た。

 コンも、飛龍も、そしてパルディオスさえも怯みを見せる。


「う、うるせぇなおっさん! いきなり大声なんてだしてびっくり……」


「俺のことをとやかくいうのは構わない! だけどな、人の体つきのこととか、そうことを悪く言うのはやめろ!」


「は、はぁ? 何言って……」


「良いから、今すぐコンへ謝れ!」


「なんで俺が……」


「謝れっ!!」


「ーーッ!!」


 渾身の力を込めて声を放った。

さすがのパルディオスも気圧され、背筋を伸ばした。


「わ、悪かったよさっきは……こ、これで満足だろ!」


 たった一言だが、そう謝罪をし、パルディオス君は背を向け、飛龍へ向かって足早に歩き出す。

すると、俺の服の裾をコンが摘んでくる。


「ありがとう、トク兄……」


「良いさ、気にすんな。あと、嘘になっちまって悪い」


「嘘?」


「昨夜、お前の悪口を言う奴がいたらぶん殴るっていったろ? でも流石にぶん殴るのはどうかと思ってな……」


「トク兄も律儀だなぁ……あたしだって、あの発言がモノの例えだってことぐらいわかってるって……でも、本当にありがとう。スカッとしたよ!」


 コンが満足したのなら、御の字だろう。


 しかし肝心のアダマンタイト採掘の件はまだ解決していない。

今更、パルディオス君に譲ってくれと交渉するのもアレだしなぁ……


 そんなことを考えている中、突然足元が激しく揺らぎ出す


「ガ、ガァァァァ!!」


「ぎゃー!」


 目の前では地面から現れた巨大な顎に、アダマンタイト鉱石を積んだ飛龍が丸呑みされた。

さらにその衝撃で足場が崩れ、パルディオス君たちは頂上から真っ逆さまに落ちてゆく。


「ト、トク兄……こいつは……!」


「どうやらパルディオスたちの発破で目覚めさせちまったらしいな」


 巨大な鋼の蛇――危険度C +のスチールスネーク。

 主食として鉱石を食するため体表が非常に硬いことで有名だった。

 さすがにコイツは、今のコンでは手に余る大物だ。


「逃げるぞ、コン!」


「お、おう!」


 俺とコンは山路へ向けて走り出す。

 しかし動きの素早いスチールスネークにゆく手を塞がれてしまった。


――やっぱりここが抜きどきか!?


「おーれーのアダマンタイトをかーえせぇー!!」


 急に変な叫び声が聞こえたと思ったら、パルディオス君が空中浮遊魔法を使って戻ってきた。

彼の手には先日、オリハルコンを入手して製作した白銀のハルバートが握られている。


「パルディライザぁー!」


 パルディオス君はハルバートへ魔力をみなぎらせた。

そしてそれをスチールスネークへ叩き落とす。


 しかし必殺の一撃パルディライザーは、スチールスネークへぶつかる直前にフッ消失した。

刀身が硬い鱗を叩き、カツンと間抜けな音だけが響き渡る。


「しまった! 発破と空中浮遊魔法で魔力使いすぎたぁぁぁ!!」


「あいつ、相当なアホだな」


 コンはほとほと呆れたようにそう言って、ため息を吐く。

 しかしこれは千載一遇のチャンス。


 スチールスネークはパルディオス君にお任せして、俺らは逃げるのみ!


 俺とコンは下り道を目指して走り出す。

 すると嫌な予感が過り、コンを横へ突き飛ばした。


「ぐはっ!」


「トク兄!?」


 どうやらスチールスネークは2匹だったらしい。

俺はその2匹目に思い切り突き飛ばされ、岩壁に叩きつけられる。


……やばい、体が痺れて動かないし、意識が朦朧とする……


そんな俺へスチールスネークが迫って来る。


……やっぱ、俺にはこんな呆気ない最期がお似合いってか……

仕方ないよな……なぁ、シオン、サフト……


「らぁぁぁぁ!!」


 そのとき、目が覚めるほど、気合のこもった声が聞こえた。

そしてスチールスネークの大顎が、俺の目の前でぴたりと止まる。


薄らと視界にコンの背中が映る。


「コン……?」


「や、やらせるか……!」


 コンはスチールスネークの牙を逞しい両手で掴み、押し留めている。

 スチールスネークは必死に顎を閉じようとしているが、コンは微塵も揺らがない。


「トク兄をやらせてたまるか! うらぁぁぁぁっ!!」


 バッキンっ! っと、スチールスネークの牙が、コンによってへし折られた。

 その衝撃で、スチールスネークは怯んでみせる。


 その隙をコンは見逃さず、簡易ハルバートを握りしめる。


「外は硬くても、中は柔らかい筈ってなぁ!」


 ハルバートの穂先が、スチールスネークの上顎を突いた。

コンの膂力は上顎を貫き、その先にあった脳を貫く。

さすがのスチールスネークも、頭をやられ即死した。


「ぎゃぁー!」


 傍から間抜けな声が聞こえた。

 パルディオス君はもう1匹のスチールスネークに突き飛ばされていた。

彼は山の下へ真っ逆さまに落ちてゆき、手にしていた白銀のハルバートがクルクルと宙を舞う。

それはまるで導かれるように、コンの手に収まった。


「おっ? この重さいいね……良いもんゲットっと!」


 コンはにやりと嬉しそうな笑みを浮かべた。

そして穂先を地面へ突き刺し、そこを支点にして空へ高く飛んだ。


「岩石割りで! 決まりだぁ!」


 コンは全力でハルバートを振り落とした。


「キシャァァァッァ!!!」


 スチールスネークはハルバートの刃で頭部を破られて悲鳴を上げた。

やがて、巨体は倒れ、ピクリとも動かなくなる。


 恵まれた身体、そして圧倒的な戦闘センス……コンはやっぱり一流の戦士としての素質があると、改めて思った。


つーか、凄すぎる……


「トク兄! 大丈夫か!? 生きてるよな!? なぁなぁ!!」


 しかしすぐさまこうして心配してくれると。

 なんか、こういうギャップってたまらないね。


「お、おう大丈夫だ……ちょっと腰打っていてぇけど」


「良かった……」


「良い戦いだったぞ、コン。よく頑張ったな!」


 コンは頭を撫でられると、嬉しはずかしと言った具合に

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る