第26話 天使のような東郷さん

「その、どうかな? 似合うかな?」

「…………」


 今更こんな事を言うのもアレかもしれないが、東郷さんはかなりの美人だ。小柄ながらも出るところは出てるし、顔もアイドル顔負け。漆黒の髪は艶々で美しい。


 そんな東郷さんの水着姿は、海の美しさなど足元にも及ばないくらいの破壊力だ。


 東郷さんが着ている水着だが、白い上下のビキニだ。谷間が中々に強調されていて、結構攻めていると思う。


 腰回りには白い布……なんだっけこれ……テレビで見た事が……そうだ、パレオ! パレオとかいう、半分透けた布を巻いている。


 髪は邪魔にならないように、ポニーテールにしていて、それだけでもいつもと印象がガラリと変わっている。


 正直、あまり女性の水着とかに興味はなかったはずなんだが……そんな俺でも見惚れてしまう。それくらい、東郷さんの水着は魅力的で、綺麗だ。


「あ、あれ……あんまり似合ってないかな……」

「いや、そんな事はない。良く似合ってるし、綺麗だよ」

「あ、え……あ、ありがとう……」


 くそっ、なんだかソワソワして落ち着かない。特に胸の奥がなんとも変な感じだ。無性に動きたくて仕方がない!


「ごめん、ちょっとだけ待っててくれ!」

「ゆ、雄太郎くん!?」

「うぉぉぉぉぉぉ!!!」


 俺は東郷さんと美桜を置いて、海に向かって駆け出すと、そのまま泳ぎ始める。


 冷たい水に浸かってるはずなのに、体の熱が全然取れない。ソワソワもドキドキも全然消えない。それに……東郷さんの顔や姿が頭から離れない。


 俺は……一体どうしてしまったんだ?


「はぁ……はぁ……」

「ちょっとおにぃ、急に泳ぎだすとかビックリするじゃん。周りの人も引いてたよ?」

「ごめん。なんか俺もよくわからなくて……」

「ふ~ん……? そうだおにぃ、さっき司先輩がね、おにぃの体とか泳いでるのかっこいいって言ってたよ!」

「み、美桜ちゃん!? なしてそれば言うてしまうん!? は、恥ずかしかぁ……!!」

「え~だって本当の事じゃないですか~♪」


 そ、そうか。そんなに褒めてくれていたのか……嬉しいけど、何故かまたソワソワするっていうか、落ち着かなくなってきたぞ。


「もぅ……ごほんっ。えっと、二人は毎年何して過ごしてるの?」

「えっと、一緒に行動したり別々に行動したりって感じだ」

「だね~。美桜は大体泳いでるけど、おにぃは泳いだり筋トレしたり浜辺を走ったりって感じ!」

「ここでも筋トレ? ふふっ、雄太郎くんらしいね」

「ホントホント! 筋トレ馬鹿すぎて困っちゃいますよ~!」


 そこは筋トレが好きとかでいいじゃないか。わざわざ馬鹿をつける必要は無いと思うぞ。実際に筋トレ馬鹿なのは認めるけどさ。


「まあいいか。東郷さんは何がしたい?」

「うーん……とりあえず、あれがしたいかな!」


 あれとは一体何だ? それを聞く前に、東郷さんは嬉しそうに海に駆け出していっていった。


「おーい東郷さ……わっぷ!?」

「えいっ! えいっ!」

「ひゃあ!? しょっぱーい! 司先輩、やったなー!」

「きゃー♪」


 美桜と一緒に東郷さんを追って海に入って早々、思いっきり水をかけられた。


 なるほど、やりたかったのは水のかけあいだな? ちょっと子供っぽいかもしれないが、東郷さんがやりたいなら、いくらでもやろうじゃないか。


「えーいっ!」

「わわっ! 美桜ちゃんやったな~!」

「負けませんよ~!」


 俺の前で、妹と東郷さんが楽しそうに水をかけあっている。なんかいいな、こういうの。とても微笑ましいし、見てるだけで俺も楽しい気持ちになれる。


 それに……なんだろう。楽しそうに笑う東郷さんを見ていると、ソワソワとドキドキがどんどん増していってる。多分今までで一番だ。


 もう一度思い切り泳いだほうが良いだろうか? でも多分さっきも消えなかったし、恐らく今回も消えないだろうな。


「むむっ、司先輩やりますね! ではこちらも秘密兵器を投入しますよ~! というわけで、おにぃ! やっちゃってー!」

「丸投げかよ。仕方ない……本気を出そう。東郷さん、気をつけてね」

「え、一体何の話?」


 美桜の唐突な振りに応えるべく、俺は近くに他の人がいない事を確認してから、思いっきり水面を叩きつけるように腕を振り下ろすと、大量の水しぶきが発生した。


「「きゃー!!」」


 水しぶきの向こうから、二人の楽しそうな悲鳴が聞こえてくる。それから間もなく水しぶきが収まると、そこには尻餅をついて楽しそうに笑う二人の姿があった。


 よかった、ちょっとやり過ぎたかと思ったけど、二人共楽しそうだ。


「ぷっ……あはははっ! 雄太郎くんすっごーい! あんな凄い水しぶき、はじめて見たよ!」

「もう、相変わらず馬鹿力すぎるよおにぃ! クジラがジャンプしたみたいな水しぶきじゃん!」

「美桜がやれって言うからやったんじゃないか。東郷さん、大丈夫?」

「うん、大丈夫! さすが毎日鍛えてるだけあるね!」


 楽しそうに笑う東郷さんに手を差し伸べると、彼女は俺の手を取って立ちあがった。


 なんだこれ、本当に楽しいぞ。海って友達と来るとこんなに楽しく思えるものなのか。これは凄い発見かもしれない。


 折角だし、もっと東郷さんと遊びたい――そう思っていたのに。その邪魔をする不届き者が現れた。



――――――――――――――――――――

【あとがき】


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