第6話 最弱庶民、剣を持てなくて尊敬される

 ファングウルフに占領された『薬草の森』を、取り返すことを決意した。

 その前に戦力増強の意味も込め、三人の美少女を弟子に取った。

 

「まずは武器の選別だ」


 武器屋へと向かう。


「いらっしゃいなのだノム!」


 ノムルフの子が出迎えてきた。

 ノームとエルフを足して二で割ったような、こじんまりとした妖精だ。

 三角帽子を頭に被り、ピンと尖った耳をしている。

 かわいい。

 出迎えにきてくれた、ノムルフの子が言う。


「『ノムルフの両手斧とハンマー屋さん』に、ようこそなのだノム!」


 両手斧とハンマー屋さんっ?!


 オレは慌てて店を出た。看板を見やる。

 そこにはRR世界の言語で、こう書かれていた。


〈ノワルフの両手斧とハンマー屋さん〉


「そうかぁ……」


 オレは自身の顔を押さえた。

 この世界のメイン武器は、両手斧かハンマーだ。

 となれば武器屋も、それを中心に作る。

 論理的には当然だけど、精神的にはかなり痛い。


(武器の作りも、『重さ』を重点に作られているな)


 重量で斬る。

 重量で潰す。


 これが『クリティカルに頼らない場合』の、最適解のひとつだ。

 そういう意味ではこの店も、『最適解』をやっている。


(実戦で死ぬかどうか。そのたったひとつが、店の様式まで変えてしまうとはな……)


「両手斧とハンマー以外は、何か作っていないのか?」


「むかし作って売れなかったのが、倉庫にあるノム」

「見せてくれないか?」

「初めての人に、いきなり見せろと言われても……」


 そりゃそうか。

 オレもこの子の立場なら、普通に断る。

 ケルロスが口を出した。


「この人は、アタシのおししょうなんだケル! とっても大切な人なんだケル! だから見せてほしいケルロス!」

「ケルロス様のお師匠ノム?! それならすぐに見せますノム!」


 ギルドの教官という肩書が、ひょんなところで生きていた。


  ◆


「ここにあるのが、『売れなかった武器の倉庫』だノム」


 ノムレスが扉をあけると、むせ返るようなホコリの臭い。


「こほっ、こほっ、」


 思わずむせた。


「おししょう! 剣があったケル!」

「こっちにもあるベル!」

「ここにもだロス!」


 タタタと走った三人が、剣を持ってやってきた。

 オレに褒めてもらいたいのか。お尻のウルフ尻尾を振ってる。


「すまないが、剣を買うつもりはない」

「「「ケルベロスゥ?!?!」」」


 ショックの三人。


(見せたほうが早いな)


 オレはケルロスが差し出した、ショートソードを受け取った。


(重ッ……!)


 これも『重量で斬る』がコンセプトなのか、ゲーム時代のショートソードより重い。


「見ての通りこのオレは、金属の剣を、装備……できん…………!」


 なぜならあまりに重いから。

 重い武器は装備できない。


 ぐはぁ!

 息を吐いて取り落とす。

 ほんの十秒持っていただけで、腕が痺れてとても痛い。


 オレが両手で苦戦した剣をケルロスは、片手で拾った。


「おししょうは、こんな軽い剣も持てないケル……?」

「うん」


 正直に言った。

 失望される気はしたが、その時はその時だ。

 オレはあくまで、この世界を救うために動いている。

 失望されて笑われることは、それほど大きな問題ではない。


 しかしケルロスの反応は、思っていたのとは違った。


「すごいケル……」


 尊敬の眼差しでオレを見つめる。


「おししょう様が教えてくれるのは、強いからだと思っていたケル……。

 強いから余裕があって、教えてくれると思っていたケル……。

 それなのにおししょう様は、弱いのに私たちのことを考えてくれて……」


 想定外の高評価。

 しかし悪い気はしない。

 オレはゲームでやっていた訓練を、三人が真似しても危険の少ない範囲で教えた。


「「「とってもすごいで、ケルベルロスゥ……」」」


 三人の眼差しが、尊敬そのものになった。


 閑話休題。

 オレは三人に、持つべき武器を伝えた。


 ケルロスは、片手斧を八本(両手に一本持った上で、腰に六本)

 ベルロスとロスロスは、長めの槍だ。


「両手斧は地雷だが、片手斧は小回りが利く。リーチが剣より短い代わりに、攻撃力は高めだ。

 それから――」


 オレは木斧をぶん投げた。


 クリティカル!


 ただの木斧が、石の壁に突き刺さる。


「投擲技が、けっこう便利だ」


「壁に攻撃しないでノムぅ……」


 ノムルフに泣かれた。


「すいません……」


 素直に謝る。


「槍のほうは、どういう強さがあるぜベル?」

「まずはリーチだ」


 オレは身長よりも少し短い槍のところへと向かった。


「平地ならもっと長いほうが強いけど、森でも戦う冒険者ならこのぐらいだな」


 手に持った。


(木なのに重いっ……!)


 しかしまぁ、訓練レベルなら問題ない。

 試し切り用の巻き藁に向かう。


「そいやぁ!!!」


 柄をしならせて、横っ面でクリティカル。

 

「そいやぁ!!!」

 「そいやぁ!!!」

  「そいやぁ!!!」


 クリティカル!

  クリティカル!

   クリティカル!


 長いリーチで何度も殴り――。。


「ソイヤッ!」


 突き刺した。


「これが槍の戦いだ。

 長いリーチで相手をぶん殴りまくって弱らせてから、突き刺して殺す。

 振り回すのが難しい森やダンジョンなら、ひたすらに刺す」


「槍は刺したら、抜くのがとっても大変だぜベル。

 刺したあとは、どうしたらいいんだぜベル?」

「腰に差した剣で戦え」


 オレは端的に続けた。


「長いリーチで一人一殺。

 全員でそれをしたあと、残った敵を数で押し切る。

 一人一殺しても数で上まることができない場合は、さっさと逃げる。

 それが槍のコンセプトだ」


「しかし武器を二種類持つのは、お財布的に厳しいぜベル……」

「お前たちでもそうなのか?」

「モンスターを繁殖させるバカどものせいで、討伐料は低く抑えられているぜベル。

 ベルたちみたいに頭が悪くて、それ以外できないような人間が仕方なくやっている部分があるぜベル……」

「そんな悲しいことになっているのか……」


 現状が悲しければ、ベルロスたちの自己評価も悲しい。

 オレは考えて言った。


「ファングウルフ退治が軌道に乗ったら、ギルドで『ファングウルフ討伐軍』を組め。

 そこで槍を貸し出しながら、お前たちも使うんだ。

 大量に作れば、一本あたりも安く済む」

「討伐軍を組むと、予算がいっぱいかかるぜベル」


 オレはニヤりと笑って言った。


「西の森には、『貴重な薬草』があるんだろう?」


 薬草採取を邪魔するファング先生を倒す。

 ギルドは薬草を採取して、報酬に当てる。

 そして薬草の供給が増えれば、今より討伐が楽になる。

 儲かる道筋を作ることで、冒険者の数も増える。


 いいことしかない。

 しかしこのあたりの改革は、ポッと出のオレには難しい。

 教官チームの手を借りるに限る。


「「強いだけじゃなくって、組織のことも考えられるおししょう様ぁ……♥」」


 ケルロスとベルロスが手を合わせ、祈るようにオレを見た。

 

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