第28話 不安定な足場での戦い

 人が一人通れるだけの足場しかない。

 そんな崖の上で空飛ぶ魔物に襲われて、無事で済むわけがない。


「どうしようか……」

「レクスくぅん! 出番だよ! ハーピィ捕まえちゃって!」

「無茶言うな! ……剣しか使えない俺が、こんな場所で何をしろって言うんだよ」


 急いで逃げた方がいいか?

 くそ———!


「ルカ。掴まれるところがあったらしっかり捕まってろ」

「何をする気なんです?」

「とりあえず、この命綱を解く」


 シュルルと腰に巻いていたロープを解き、身動きが取れるようにする。


「お前たちは急いでこの道を抜けろ。俺が護衛する」


 剣を抜く。


「剣一本で? 無茶です、ハーピィは」


 ルカが危惧を口にする前に、その答えが来た。

 ハーピィが口を開く。


 ァ————————————————————————————‼


 振動。

 ビリビリと空気を震わせる。強力な音波がハーピィの口から発せられた。


「なっ——————!」


 足場が悪い場所での範囲攻撃。

 防ぎようがない。

 俺はともかく、ルカ、ベイル、ロッテを守り切ることは不可———。

 思考している場合じゃない。

 音波が————直撃する。


 スッ……、


「え————?」


 何かが、起きた。


「どう、なったの?」


 音波が消えた。 

 最初から、なかったかのように。

 俺にはその現象が起きた心当たりが一つだけあった。

 【魔王】だ。

 空中に手をかざしている。


「……………」


 何か、をしたのだ。

 それが何かわからない。

 強大な魔力をぶつけ相殺しただけなのかも、障壁魔法を張ったのかもしれない。

 人知を超えた力。ただ、その【魔王】の強大な力に救われた。


「何で助かったのかはわかりません……だけど!」


 ロッテが弓に矢をつがえ、


「《風の矢》!」


 風属性の魔力を込めた、高速の矢をハーピィに放つ。


「やあああああ!」


 次々と矢をつがえ、ハーピィに放っていく。

 が———、ひらりひらりとハーピィはロッテの放つ矢を躱す。

 それでも、こちらに攻撃する暇を作らせないことはできる。


「今は、この状況をどうにかすることに集中しましょう!」


 果敢にも、ロッテは矢を放ち続ける。

 俺は————どうする?


「——————ッ!」


 【魔王】と目が合った。

 悲しげな瞳。

 我がしなければいけないのか?

 瞳がそう訴えている。

 逃げることを諦め、真の力を衆目に晒さなければいけないのか————と。

 ハーピィの群れ、不安定な足場。

 空を飛べる【魔王】しか、対処の使用がない。

 だが、彼女がその強大な力を見せつければ、バレてしまう。

 それは———ダメだ。


「悪い、皆、ロープを解いてくれ、俺に渡してくれ。長いひもが必要だ」

「は? 何言ってんの⁉ こんな危ない状況でそんなことやったら……落ちるかもしれないじゃん!」

「ハーピィが目の前に来たら、どちらにしろ落ちるだろうが! 必死に壁にしがみついててくれ、頼む」

「————仕方ねぇ」


 ベイルは自分の腰の命綱を解き、【魔王】も俺の意図をくみ取ってくれて、自らの物と、ロッテの腰に巻かれている縄を解く。

 そして、ベイルの手からロープを渡される。


「何をする気っスカ?」


 心配そうにルカに尋ねられる。


「————何とかする」

「へ?」

「俺が、何とかする」


 俺は———道を自ら踏み外した。


「レクスさん⁉」


 崖の上の道からハーピィのいる空中へ向かって飛び出していった。 

 ロープと、剣だけを手に————。

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