第24話 歌

 森の道をひたすら突き進む俺たち。

 一時間程度歩いただろうか。


 ン~……ン~……ン~……♪


「歌?」 


 突然、聞こえてきた。


「もしかして、ハーピィ⁉」


 ロッテが不安そうに声を上げた。


「ムフ」


「ムフっじゃねえよ。喜ぶな」

「イッタ‼ 今、また叩いたね⁉ 王族の頭をまた叩いたね⁉」


 突っ込みでベイルの頭を軽くはたいてしまったが、もういいだろう、こいつにはこんな扱いで。


「…………」


 【魔王】は虚空を睨み耳を澄ませる。


「ったく、ハーピィ寄せなんて持ってくるから……匂いが体について寄ってきちゃったんだろ」


 警戒しながら剣を抜き戦闘態勢に入る。ロッテも同じように背中に担いでいた弓を構え、矢をつがえる。

 どこからかかって来ても、迎撃できる体制はととのえた。


「違うな……」

「あ?」


 ボソッと【魔王】が呟く。


「この歌には、魔力が感じられない」

「いや、感じられないって、たかが、歌だろう? 歌に魔力なんてこもるのか?」

「ハーピィの歌は人を惑わし、道に迷わせる。ただの歌ではない。そして時には物質を破壊する超音波を発するものもある。そのような種族は全く魔力を込めずに歌を歌うなどというのはありえないことだ」

「リコリスちゃんは物知りだね。そう、これはハーピィの歌じゃない」


 【魔王】の言葉を聞いていたのか、ベイルが同意する。

 なぜかニコニコの笑顔で。


「お前、どうしてわかる?」

「だって、ハーピィがこんな森の中に来るわけないもん。森は森でコカトリスとかハーピィの天敵がいるから、いくらハーピィ寄せを使ったって来ないよ」

「そうなのか……コカトリスってここいらにいるのか?」

 それはそれで警戒するべき相手なのだが。

「あいつらは数が少ないから、滅多に遭遇しないよ。それに人間にあんまり興味がない。多分グルメなんだろうね。ハーピィだったら好んで食べようと狩りに出るけど、人間は見かけても襲ってこないことがほとんどだ」

「そう、なのか?」


 ちらりと【魔王】に視線で問いかけると、彼女も頷いた。

 このベイルという追放王子。魔族と結婚したいとかほざくだけあって魔物の知恵はやはり膨大なものを持っているようだ。


 ン~……ン~……ン~……♪


 歌が、まだ聞こえてくる。


「じゃあ、この歌は何なんだよ」

「……あれ? この声」

「ロッテ?」


 ロッテが首をかしげて耳を澄ませる。


「どこかで聞いたことがあるような」

「フッフッフ……」


 ベイルは相変らず笑っている。


「おい、何か知ってるなら早く教えろよ」

「イッタァ! また叩いたね! そんなにポンポン王族の頭を叩くもんじゃないんだよ。まぁ、教えるけど。このパーティ。何か足りないものがいないか?」

「……いきなり何を言ってるんだ? その話今、関係ある?」

「大いに。まずこのパーティに足りないものはないか? まず戦士のレクス。そして狩人のロッテ……」


 一応、この村に来て俺は狩人としてやっていくつもりだったが……まぁいいか。普通に両手剣の兵士が使う剣術しか学んでこなかったし、森に潜む本格的狩人のナイフ術はあまり知らないしな。

 ベイルはロッテを指さした後、【魔王】を指さし、少し視線を泳がせ考え込み、


「ま~……魔族だから、魔法使い扱いでいいでしょ。リコリスちゃん、どうせ魔法使えるだろうから」

「どうせってなんだよ……」


 下手に魔法を使うと【魔王】だとバレる可能性が高まるから使っては欲しくないんだが。


「で、リーダーの俺」

「「…………」」

「ちょっと、視線が痛いよ」


 何も役に立たないで口ばっかり出してくるのがリーダーだと言うのならそうなんだろうと、俺とロッテが視線で訴える。

 流石にベイルも気まずくなったのか、一つ咳ばらいをして。、


「そ、それでだ! 足りないのは何か、回復役、回復役! 僧侶が足りないでしょって言ってるの!」

「回復役、ねぇ……」


 ロッテと視線を見合わせる。

 確かにいないと言えばいないのだが、ロッテだって薬草ぐらいは持ってきているし、村の近郊でクエストをこなすだけなのでそこまで本格的なパーティ編成は必要ないと思うのだが。

 まぁ、話は聞くだけ聞いてやろう。


「で、その回復役がいないことが……この歌と関係するってことは……?」


 わかりかけてきた。


「ビンゴ。そういうこと。心当たりがあるのよ。その回復役に」

「どんなやつなんだ? この歌を歌っているその、回復役っていうのは」


「不良シスター」

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