忘れられ師の英雄譚/第三巻:あらすじ

 カズトは心的外傷トラウマを克服する手段を探すため。シャリアは元パーティーメンバーのトランスから受けていた商談の話をする為、彼等はマルヴァジア公国の首都マルージュを目指していたのだが。

 その道中、カズト達は迷霊の森の中にあるライミの村に立ち寄る。


 ここは聖勇女パーティーのキュリアの故郷でもあったのだが、そこでシャリアの元パーティーメンバーであるエスカと出会う。

 彼女にこの先のことについて占ってもらったカズトは、そこでエスカに乗り移った死んだキュリアの母、フィネットより『光を追わねば闇に消え。光を追えば、闇が共に消える』と謎の予言を受けた。


 予言の意味を分からぬまま、マルージュに到着した三人は、シャリアの元パーティーメンバーであり、宮廷魔術師を務めるトランスに会いに行った。

 そこでカズトの心的外傷トラウマを克服する手段がないかを聞いたものの、そんなに簡単にはいかないというトランス。

 だが、もしかしたら可能性があるかもしれないと、彼が二人に口にした名前。それは宮廷大魔術師の座にあるハインツだった。


 マルージュとの交易許可をもらう為、カズト達はマルヴァジア公国のダラム王と謁見する。

 そこで交易の商談をまとめる中、トランスの提案でハインツが行っている研究についてシャリア達にも見せたいと申し出て、彼等はハインツの案内でその研究について説明を受けたのだが、それは記憶から勝手に物を書き起こせる、『自動書記オートライト』の技術。


 記憶から何かを生み出す。

 その技術の凄さに驚くシャリアとは対照的に、カズトはこの技術を好意的に捉えることができなかった。


 ハインツに研究を見せてもらった後、応接間にてダラム王と歓談する中、最近まルージュ近郊で人が行方不明となる事件が起こっており、それが四霊神の仕業ではないかとハインツが話していたと聞かされるが、トランスはそんな事ありえないと否定した。


 歓談も終わり、カズト達が応接間を去ろうとした所、ダラム王がカズトと二人きりで話をしたいと申し出、彼だけを残し皆が応接間を去ったのだが、そこでダラム王が母の形見の付与具エンチャンターでカズトのことを覚えている事を知る。


 予想外の事に驚いたカズトに、ダラム王は四霊神がいると思うかを尋ねてきた。

 考えた上、正直に真実を告げると、この都市の下にある魔誕の地下迷宮に四霊神がいないかと個人的に調査を頼まれた。


 シャリア達にもその話を告げ、三人で既に観光地と化した魔誕の地下迷宮を進んでいくと、転移陣をくぐった先で、彼等は四霊神であり転移の宝神具アーティファクトである老人、ワースと出会う。


 その何とも得体のしれない雰囲気と態度から、ワースを行方不明事件の犯人と判断したシャリアとアンナが彼に襲いかかったのだが、逆に返り討ちに合い、水晶に閉じ込められてしまう。


 シャリアとアンナを助ける為に、ワースがカズトに与えたのは、彼が別人に映り、嫌われる呪いを受けたまま、ロミナ達とパーティーを組むというもの。

 その試練を承諾し、カズトは早速彼女達に会いに行ったのだが、その反応は嫌われているどころか、憎まれているかのような反応だった。


 あまりの事に衝撃を覚えつつも、カズトは何とかシャリア達を助けたいと、再び彼女達に接触し頭を下げると、ロミナから彼女達を倒し降参させればパーティーに加えると提案を受ける。


 それを承諾し、ロミナ達と剣を交える中、彼女達に傷つけられたカズトは、それでも皆を傷つけることなく降参させようと試みるが、それも一歩及ばず傷だらけとなり意識を失ったのだが。

 カズトが次に目覚めた時、彼を助けてくれたのは、以前から何処か迷いを見せていたキュリアだった。


 母、フィネットが夢の中で彼を信じろと言ったからと、嫌いながらも助けてくれたキュリアに感謝すると、彼女からロミナより、行方不明事件を解決したら仲間に加えるとチャンスを貰い、彼は調査を開始する。


 途中、キュリアだけでなく、彼を傷つけたことで何故そんな事をしたのかと迷いを持ったフィリーネの力も借り、色々と調査を進めていると、唯一街の外で起きた行方不明の現場を調査している時、ルッテとミコラが現れる。


 カズトが仲間を操っているのではと疑う二人に対し、キュリアは涙ながらに己の心の疑問を訴え、フィリーネもまた自らの意思で協力したと彼を庇うと、二人は一度カズトとだけ話をしたいと切り出してきた。


 場所を移し、ルッテ、ミコラと話を始めたカズトは、正直に現在自分が受けている試練について話をする。最初は二人に信じてもらえなかったが、彼女達と行動を共にしなければ知り得ない事実を話したことで、信じてもらうことができた。

 ただ、カズトを傷つけ憔悴しきっているロミナには、この事実は伝えないよう口止めをし、引き続き一人で調査を進めていった。


 カズトが怪しんだのは、クエストで冒険者が行方不明となった事件の依頼人、魔導学園校長のヴァーサス。

 彼はトランスとともにヴァーサスに面会すると、ハインツの『自動書記オートライト』を使ってでもはっきりと無実を証明しようと尋問まがいの行為に出ようとする。

 その言葉に怯えたヴァーサスは、今回の行方不明事件の首謀者がハインツであること。そして彼の行っている研究は表向きのもので、実際には記憶から怪物をも具現化する禁術の研究を秘密裏に進めていたことを知る。


 その話に嫌な予感を覚えたカズトはロミナ達の元へと向かうも、既に彼女達はフィリーネの屋敷にはおらず、慌てて城に向かうと、そこで彼女達がハインツ達と彼の別邸に向かったことを知る。


 そして、突如街の中に浮かび上がった幻像。

 そこで囚われたロミナ達の記憶から、ハインツが魔王を生み出すシーンが映し出された。


 魔王を操ろうとするも返り討ちに遭い命を失うハインツ。だが、彼が用意周到に準備した結界により、魔王は一時的にそこから出られない状況となったのだが、ロミナ達もまたハインツの用意した檻の中に閉じ込められたまま、魔王の直ぐ側にいる状況。

 しかも新月である今夜になれば魔王の力が蘇り、再びその結界を破り世界を滅ぼさんとする現実に、ダラム王達もカズトも茫然自失となる。


 そんな中、カズトが思い出したのは、予言の言葉。


『光を追わねば闇に消え。光を追えば、闇が共に消える』


 その意味を悟ったカズトは、ダラム王にこの国の者達を魔王討伐に向かわせるなと忘れられ師ロスト・ネーマーとして忠告した後、魔王のいるハインツの別邸へと向かった。


 別邸の地下で魔王とロミナ達の前に立ったカズトは、ロミナに再びパーティーに加えてほしいと頼むが、行方不明事件を解決したのはあなたではないと断られる。

 それでもチャンスをくれと引かないカズトに、ロミナは魔王を倒してと口にしてしまう。


 その言葉を真に受け、魔王と対峙するカズト。

 己の全力を使いなんとか善戦するも、魔王がロミナ達を狙った術を止めに入った彼は、致命傷の傷を負ってしまう。


 魔王から受けた呪いで回復もできず、死を待つだけの中。それでもパーティーに加えてくれと頼むカズトと、拒むロミナ。


 自分をパーティーに加えたら後悔する。そんなロミナの嫌な予感が当たることを知りなら、カズトは彼女に、嫌な奴一人のために世界を見捨てるのかと発破をかけ、パーティーに加わった。


 皆が悔しさと後悔を滲ませるロミナ達に、俺は嬉しいんだと語ったカズトは、彼女達を転移の宝神具アーティファクトの力で檻から開放すると、共に魔王討伐に挑み、魔王を倒す夢を見せてくれと彼女達に告げ、『絆の加護』を与えると戦いを見守った。


 その力で躍動し、圧倒的な力にて魔王と対峙したロミナ達は、ルッテの呼び出した最古龍ディアの力も借り、無事魔王を倒す。

 それを見届けたカズトは、彼女達に感謝を告げると、そのまま命を落とし消え去った。


 カズトが死に、パーティーを外れたことで、そこにいた彼の存在を忘れてしまった一行。

 だが、凱旋しフィリーネの屋敷に戻った後、彼女達にねぎらいの言葉をかけてきたシャリアとアンナの悲痛な表情に何かあると感じ、ロミナは問いただそうとする。

 だが、カズトを知らないと返した彼女に、シャリアはそれがあいつののぞみだったからそれでいいとだけ話し、彼女達の元を去っていく。

 

 シャリアから真実を聞けぬまま、ダラム王と謁見したロミナ達は、彼よりロミナ達とだけ話したいと聞かされ、彼のいる応接間に向かう。


 ダラム王との歓談の中、魔王との戦いの話をするミコラ達の会話を聞き、ロミナはふと彼の表情の憂いを感じ取り、彼にカズトを知らないかと尋ねてみた。

 その質問に、覚えているのかと問い返され、首を振るロミナ。


 その言葉にカズトのことを知っていると気づいたルッテの問いに、話してやることはできるが、傷つく覚悟もして貰う必要があると告げるダラム王に、その覚悟を決め、事の一部始終を知るロミナ達。


 自身がカズトの死を招いたと悲しみ、誰もが彼を忘れてしまっているのかと悔しがる中、ダラム王は彼こそが忘れられ師ロスト・ネーマーであり、彼はずっと彼女達と仲間であり続けたからこそ、最期まで諦めずに前を向いたのだと話し、どうか彼を忘れずにいてやってほしいと願いを口にする。


 そして魔王を倒した祝典の中で、ロミナは魔王との戦いの中で、自分達は忘れられ師ロスト・ネーマーに助けられたであろうことを話し、この英雄譚に彼も語り継いでやってほしいと伝えたのだった。

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