第47話 イベント前日

 店舗での打ち合わせの後、西川と大森はメールや電話で数回にわたってリモートで打合せと確認をしていたのだが、もちろんその打ち合わせにはオサムも積極的に加わっていた。

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 そして月日が経ってイベント前日、閉店後のあずまやの会議室にオサムの大きな声が響いていた。

「違う違う、ここはこうです。違います。だからこうです。そうです、わかりましたか店長?」

「わかってますよ。こうですよね。」

「だから違いますよ、こうです。」

「榊さん、そこは違うでしょ。今センターにいるのは志桜里ちゃんでしょ。だからコールは”めちゃくちゃかわいい志桜里”です。メンバーの顔をよく見てくださいね。はいもう一回ブルーレイ観て確認お願いします。」

 西川をはじめ店のメンバー全員にオサムのに厳しい?応援指導がお店の閉店後ほぼ毎日の様に行われていた。

「店長、店長、ちょっと厳しすぎませんか木村さん。俺メンバーの顔と名前なんてわからないですよ。大体かわかる人いるんですかね? 店長だってそうですよね?」

 榊が少し息を切らしながら西川に泣きついていた。

「そんなこと無いですよ、はいこれ。」

 西川は涼しい顔で榊に手に持っていた1枚の紙を見せてきた。

「これって、メンバーのプロフィール表じゃないですか、い、いつの間にこんなものアウトプットしたんですか。まさか仕事中にそんなことしてたんですか?」

 あきれたような顔で榊が西川を見て崩れ落ちていると、西川は勝ち誇った顔をして見せた後、何か屁理屈へりくつの様な事を言っていた。(確かに業務ではあるのは間違いないことなのであるが、それは果たして・・・。)

「何言ってるんですか、これなの当たり前ですよ。それにこれは業務ですから、イベントに必要な資料ですよ。」

「これぐらいしなきゃ、来てくれる向日葵16の皆さんに申し訳ないと思いませんか。だって若い二十歳そこその、いやそれ以下の年齢の女の子達がが一生懸命イベントやってくれるんですよ。はい、コピーありますから、榊さんもしっかり覚えるように。」

 西川はプロフィール表のコピーを榊に手渡してその場を離れて行った。

「あー、よし全員覚えてやる!」

 それを手にした榊は、急にどこでスイッチが入ったのかはわからないが、その紙を食い入るように見ながらブツブツと言いながら思っていた。

(店長って本当に若い女の子に弱いよなあ、このあいだも落ち着きが無くなって全然仕事してなかったし、そう言えば女子高校生好きって言う噂あったけど、あの噂は本当なのかもしれないな・・・。)


「はい、じゃあこの辺で今日は終わりにしますか、木村さんありがとう。明日いよいよ本番ですから、体力残しておかないと。会場のほうも大体準備終わりましたし、あとは自宅に帰ってから自主練してください。明日も早くから出店とか色々な準備がありますんで、それではみんなで急いで片付けちゃいましょう。」

 西川の言葉でようやく合同練習?は終了した。



 オサムは家に帰っても明日イベントのことを考えると、興奮がおさまらないというか興奮がどんどん高まってしまっていた。ここのところ握手会もライブも不完全燃焼で終わってしまっていたので、オサムの明日のイベントにかける情熱は半端ないものだったのだが、西川から言わせるとこの情熱を仕事になぜ向けられないのかと言ったところであろう。

 午前0時を過ぎオサムはベッドに入るが、興奮状態が続いたためかまったく眠れないで苦しんでいた。何時間そうしていたんだろうか、部屋の外が何となく明るくなり始めたころオサムは寝ることをあきらめて、スマホを取り出してもういち度向日葵16の動画を見始めていた。しかし人間寝なくてもいいやと思うと不思議と眠くなるもので、動画を見始めて数分でオサムは眠ってしまったのであった、



 西川はいつもよりかなり早く事務所に到着すると、いつもと違う光景が目に入ってきて驚いていたのだが、それはいつもは始業時間ギリギリに出社してくるオサムの姿がもうすでにあったからであった。

「木村さん、おはようございます。今日は早いですね。気合入りまくりですね。」

 西川はオサムに声を掛けるも、オサムの反応はなかった。

 不思議に思い西川はもういち度、今度は少し声を大きくして声を掛けた。

「木村さん、おはようございます!」

 ようやくオサムは西川の存在に気付いたようで、かなり眠たそうな顔をして答えてきた。

「店長おはようございます。」

「ちょっと大丈夫ですか? 今日イベント本番ですよ。そんな眠そうな顔で。」

 その顔を見て西川が心配そうに聞くと、無理やり大きく目を開けてオサムは答えていた。

「店長、何言ってるんですか? 全然眠くなんかないですよ、気合十分ですよ、それに開店前までに会場の方を完璧に仕上ちゃえば、イベント開始までは少し時間ありますから、そこで少し仮眠取りますから、それでは行ってきます。」

 オサムは自分の顔をパンパン叩きながら足早に事務所を出て行ってしまった。

「仮眠? 何言ってるんですか、イベントだけじゃなく通常の業務もいっぱいあるのに、まったく困ったもんだ。」

 西川はオサムには聞こえないように小言を言っていたが顔は笑っていた。

「まあ、今日は許してあげましょう。特別に。」

 パソコンを開いてメールのチェックを始めていた。

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