第40話 イベント開催決定
「おはようございます。」
「おはよう。」
元気な挨拶が交わされていたが、どの声も何か緊張感あるような声に感じられていたのは、向日葵16の事務所の一室でであった。向日葵16の事務所は都内の小さなビルのワンフロアーを借りていて、部屋は全部で大森のいる事務仕事をする部屋と来客用の応接室、そしてミーティングルームふたつといった小規模の事務所であった。
今日は先日あったあの握手会の件を受けて、そのミーティングルームのひとつに、今後のグループの活動方針を決めるためルミをはじめ全メンバーが集合することになっていた。
「おはようございます。」
ルミが志桜里に笑顔で挨拶して席に着いた。
「あっ、おはよう。」
(なんで笑顔? あんなことあったのに何で笑顔で挨拶できるんだろう?)
志桜里は挨拶を返してながら不思議そうな顔をしていたが、ルミの中では色々な事の整理がもうすでに済んでいた様だった。その後数名のメンバーが到着し全員が揃い、席に着いたところで、大森が勢いよく部屋に入ってきて打ち合わせが始まった。
「おはようございます!」
大森はみんなが落ち込んでいると思い、いつもより大きな声で挨拶をすると、意外なことに、いつもより元気のよい大きな挨拶が帰ってきた。
「おはようございます!」
これに驚いたのは大森、志桜里、ルミの3人で、真理、玲を筆頭にそのほかのメンバーの顔は笑顔で満ちていて、何より全員の目は何か頼もしいぐらい自信に満ちた目をしていた。
「げ、元気があってよろしい。」
大森はその大きな声に少し圧倒されながらも、そう言って間を取った後話し始めた。
「それではまずは、これからのグループの活動について話す前に、みんなに謝らなければならないと思っています。この前の件の責任は全部私にあるんだ。握手会の中止をもっと早く決断していれば、それ以前に握手会自体を中止にしておけば、みんなを傷つけてしまうことはなかったのにと、深く反省しています。本当に申し訳なかった。」
大森はメンバー全員に深々と頭を下げると、それをメンバー全員しばらく黙って見ていた。
「みんな! すべてを大森さんのせいにしてしまっていいの!」
志桜里が立ち上がりメンバーに問いかけるように言うと、真理が手を上げ立ち上がった。
「志桜里さん、私たちあの後残ってみんなで話し合ったんです。誰も大森さんのせいだとは思っていませんよ。単純に私たちに実力がないだけで、だからみんなもっと努力して沙由さんと美里愛さんがいた時と同じぐらいに、いやそれ以上のグループに成長していこうって決めたんです!」
真理は志桜里に向かって言い放った。
志桜里はその真理の力強い言葉を聞いてしばらく動けずにいたが、みるみる目に涙を浮かべると、顔をくしゃくしゃにしてていた。
「みんな・・・、ありがとう。そうだよね・・・。私も・・・私も含めてみんなでもっと成長しなくちゃいけないんだよね。」
志桜里は大粒の涙をこぼしながら大森の方を見ると、大森の目もいくらか赤くなっていたようだ。
「大森さん、志桜里さん教えてください。私たち今後はどういった活動をしていくんですか?」
玲が立ちあがり聞いた。
「おお、そうだったな。今日はその話を聞いてもらうために、集まってもらったんだからな。」
「はーい。そうでーす。」
真理が少し大げさに大きな声で返事をしていた。
「よし、じゃあまずは聞いてくれ。悔しいけど今のグループの実力じゃ、それなりの規模のライブや握手会は色々な面で難しいと思うんだよ。」
「もう握手会は勘弁してください。当分いいでーす。」
真理がうんざりした表情を作って言うと、それを聞いて他のメンバー達も笑い声を出し始めた。
「そうだよね。だから私たちもう一回原点に戻って活動したいと思うんだけど。どうかな?」
赤い目をした志桜里が立ちあがり全員に向かって言うと、玲が不思議そうな顔をして質問していた。
「原点てなんですか?」
「そうかみんなはこのグループの原点がなんだかわからないんだ。」
大森はメンバー全員を見るようしていると、今まで黙っていたルミが志桜里の言葉を補足するように言った。
「このグループの原点はメンバー全員で1台の車に乗って、いろいろな地域に行って、多くの人達に会いに行くことですよね。」
ルミは志桜里の家で見た写真を思い出して言っていたようだ。
「そう、ルミよくわかったね。みんなはわかったかな?」
志桜里が他のメンバーに目を向けると、全員まだよくわからなそうな顔をしていた。
「よくはわからないんですけど、原点てなんだか楽しそうですね。子供のころの遠足みたい。」
そんなことを真理が言ったものだから、他のメンバーも何だか楽しそうなものなんじゃないかと思い始め、隣同士のメンバーと笑顔で話し始めていると、大森は昔の過酷な思い出が頭に浮かんできて辛そうな顔をしてみせていた。
「いやいや、そんな楽なもんじゃないんだよ。俺なんかずっと何時間も運転しっぱなしだし、結構なんてもんじゃなくて相当疲れるんだぜ。」
「いいんじゃない原点。私もその意見に賛成です。よし、このメンバーで原点から再出発ってことね。みんなはどう?」
玲が言うと、他のメンバーも全員立ち上がり、それぞれ声を発していた。するとルミが急に立ち上がると、それまで盛り上がっていた会議室内は一瞬静まり返った。
「みんなちょっと聞いてもらえますか?」
全員がそのルミの何か気迫ある姿を見て席に着いた。
「私はみんなに謝らなくちゃいけない。この前も少しつらいからって逃げ出しちゃったし、自分のことしか考えていなかったし、みんな本当にごめんなさい。志桜里さんごめんなさい。」
震えながらルミが言い頭を下げると、すぐにメンバーが反応していた。
「何言ってるのルミ、ここにいる誰よりも人一倍ルミが努力していることは全員が知ってるよ。」
「私はルミについていくよ。」
「私だってルミについていくよ。」
あちらこちらから声が上がった。
「みんな、こんな私に・・・。ありがとう。本当にありがとう。」
ルミの目に涙があふれると、志桜里は立ち上がって、そっとルミの肩に優しく手をのせた。
「よし、じゃあ今後の活動方針はこれで決定ということで。どういったところに行くかは、これから考えようと思ってたんだけど、1件イベントのオファーがあったんだ。まずはそこから始めたいと思うので。はい、これ回して。」
大森は持ってきていた用紙を左右に分けて渡した。
「資料、全員の手元にいったかな?」
ルミも資料を手にして、そこに書かれている文字に目を向けてると、明らかに動揺して小刻みに手が震え出していた。それは隣にいた志桜里も気づいていた。
(ルミ・・・?)
「再スタートは”スーパーあずまや 武蔵台店”のイベントからです。」
大森が大きな声で発表していた。
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