第22話 ポーション千個!?

 魔禍病の特効薬のレシピと製法はリシェナさんにタッチした。あの人に研究を進めてもらって、量産化の体勢を取るらしい。

 まだ時間はかかるけど、そうなったら今も魔禍病で苦しんでいる人が助かる。

 肝心の開発者はリシェナさんになるんだけど、私としては報酬さえ貰えたらそれでいい。

 さて、あれだけ頑張ったんだし今日はゆっくりと休もう。


「こちら、レイリィのアトリエで間違いないか?」


 誰かがドアをノックしている。のぞき穴から確認すると、立派な兜と鎧を身に着けた騎士が立っていた。意外な訪問者に面食らう。 


「間違いないですが、何か用ですか?」

「王国騎士団からの依頼だ。三日後にポーションを千個を納品してほしい。詳しい内容はこちらのポストに入れておく」

「ちょっと! あの!」


 さすがにドアを開けて、騎士を呼び止める。


「このアトリエには私しかいませんし、一人で三日以内に千個は無理です」

「私が依頼を出したわけではない。一週間後に騎士団内で演習が行われるので、その際に治療用としてのポーションが必要との事だ」

「しかも報酬額がたった五万ゼルっておかしいでしょう。こんなもの引き受けられません」

「私にそう言われてもな」

「アルベール王子とお話をさせて下さい」

「私に頼まれても困る。一介の騎士だぞ」


 もっともです。あの人も王子だから予定がある。考えてみたらいつもあの人からこっちに来ていたけど、私からコンタクトは取れない。

 いつもはアルベール王子が依頼を持ってくれていたのに不自然だ。いきなり騎士団が私に依頼なんてしてくるのもおかしい。

 うん、きな臭い。ここは一つ、こっちから飛び込んでみるのもいいかな。


「わかりました。引き受けます。ただし三日以内に千個となれば報酬は三百万ゼルいただきます」

「なっ! たかがポーションだぞ!」

「三日以内に千個となれば、激務は必至です。それなりに技術も必要ですし私に依頼するからには質も当然、無視できないでしょう」

「しかし、こちらにそんな額を支払う義務はない」

「報酬額に関しては私の希望を優先するという話が通っています。もしここでこじれるようであれば、今は無理でも後ほどアルベール王子とお話させていただきますが?」

「わ、わかった。もういい」

「いいんですね? 三百万ゼルですよ?」

「上と掛け合ってくる!」


 突然、態度を変えてそそくさと逃げるようにしていなくなった。どういうつもりか知らないけど、たかがポーションと思ってるのかな。

 何にせよ、三日で千個か。ありえない。


「威勢よく追い返したのはいいけど、まずポーション以前にビンが必要なんだよね。尚且つ、質も落とさないとなるとー?」


 普通に考えれば私一人じゃ無理だ。それに素材の問題もある。手持ちのお金は特効薬開発の報酬のおかげでたくさんあった。

 これを活かさない手はない。無から有を生み出す、それこそが錬金術師だ。例によってひとり言で思考を捗らせよう。


「まずは素材。さすがに千個となると、素材費用も馬鹿にならない。手持ちのお金で安価で揃えられて、尚且つ質がそこそこのポーション。考えられるのはアレとソレと……。ええーい! まずはビン! 出来ることから!」


 ビンなんて一から作ってられない。今こそ、あの人達の力を借りるべきだ。


                * * *


「……というわけで、私が空き瓶を買い取ります」


 貧民街の人達に集めてもらう。使えそうなものは何でも集めている人もいるし、リサイクル品として販売している人もいる。

 皆、一斉に散って空き瓶を探しに行ってくれた。


「レイリィさん! これはどうだい!」

「いいですよ。買い取ります」

「そっちと形が違うんだけどいいか?」

「問題ないですよ。こっちで変えます」


 集まる、集まる。もちろん中古品だから、きちんと洗浄しないといけない。錬金術でどうにか出来るけど、魔力節約だ。


「更に空き瓶洗浄のバイトなんですけど、やります?」

「やる!」

「やぁぁるぅぅ!」


 すごい気合いの入りようだ。井戸周辺にて、私が作った洗浄液と水でたくさんの人達が空き瓶を洗っている。

 自然にも優しい洗浄液だから、洗い流しても安心。してばかりいられない。まだスタートラインにも立っていないんだから。

 これからこの空き瓶に入れるポーションを作っていかなきゃ。そこで私はまた思いついた。


「ポーション作りのバイト、やります? 未経験者歓迎、手取り足取り教えます」

「やる!」

「手とか足とか取ってほしい!」


 妙な熱が入ってる人がいるのが気になるけど、やる気があるのはいいことです。素人とはいえ、これで人員は確保した。

 この人達はハングリー精神があるのか、仕事に対するモチベーションがものすごく高い。物覚えがいい人も多いし、こんな人達を腐らせるなんてもったいないと思う。ただ機会や境遇に恵まれないだけだ。


「では私のアトリエ周辺で行います」


 こうして私は希望者達を連れて、ポーション作りを目指した。こうなると報酬三百万じゃ足りなかったかな。人件費が結構かかるかも。

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