うちにきた残念な魔女がどMだった件 ~魔女狩りしないの?~

ぼっち猫@「異世界ごはん無双」書籍化決定

第1話 いつもの朝のはずだった

「この会社からおまえみたいな奴が出るなんて、面汚しもいいところだよ」

「……すみません」

「この会社でやっていけないなんて、おまえはどこに行ってもダメだろうな。とっとと出ていけ! 二度と顔を見せるなよっ!」

「……お世話になりました」


◆ ◆ ◆


「んん……。うわっ会社に遅刻す――あ」


 そうだった。もう行かなくていいんだ。


 オレ――小鳥遊大翔(たかなし ひろと)は、大学卒業後初めて勤めた会社がブラック企業で、精神を病んで先月から休職中である。

 会社を辞めて1か月以上経つというのに、未だに上司に暴言を吐かれる夢を見るし、起きた瞬間「会社に遅れる!」と嫌な汗をかいてしまう。


 時計の針は8時を指している。

 起きたところで特にこれといってすることもないのだが、このままダメ人間になってしまう気がして、朝はだいたいこの時間には起きている。


 ――さて、今日は何をしようかな。

 ああそうだ、食器用の洗剤が切れそうなんだっけ?

 あと食材も買ってこないとな。

 とりあえず買い物でも行くか。


 オレは出かける準備をして、家を出る。

 精神を病んだと言っても、べつに外出できないほどではない。

 というか、会社にさえ近寄らなければ、特に日常生活に支障はない。


 近所のスーパーに入ると、開店間もないのに多くの人が買い物に訪れていた。

 こんな時間にスーパーにいる25歳の男というのは、周囲にどう映るのだろう。

 オレは勝手に多少の気まずさを感じながらも、必要なものを買い物かごへと入れていく。


 ――あ、鶏もも肉が安い。もも肉で100g98円は優秀だな。

 せっかくだし、多めに買って冷凍しとくか。


「お会計2570円です」


 会計を済ませ、再び先ほど通った道を歩き自宅へと向かう。

 最近は、ほぼほぼこの往復しかしていない。


 まあ元々インドア派だし、会社に勤めていたときも会社と自宅の往復ばかりだったので、オレにとってはこれが通常運転だ。

 今日の朝飯兼昼飯は、鶏もも肉のソテー丼にしよう。

 こんがり焼いた鶏もも肉にトマトソース、にんにく、コンソメ、塩コショウで作ったソースを絡めて、熱々ごはんに乗せるだけ。

 簡単だが、トマトの酸味とにんにくが効いたソース、それに鶏肉のうまみがご飯に絡んで絶品なのだ。


 昼ごはんに温かいものが食べられるなんて最高だな。

 会社にいたときは、コンビニおにぎりを詰め込むくらいの時間しか取れないことがほとんどだった。

 考えてたら腹減ってきた。早く食べたい。


 オレは玄関の鍵を開け、いつも通り帰宅する。

 ご飯は炊いてあるから、これからサラダを作り、鶏肉をこんがり弱火で皮目から焼いていく――はずだったのだが。


 部屋に入った瞬間、目の前に見知らぬ女が立っていた。

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