第6話

 部屋に入る。

 電気はもう消えていたので、父さんはもう寝たのかなと考えながら、静かに冷蔵庫に缶をしまった。


 手に持ったソーダを見つめる。

 今は飲む気になれなかった。

 同じく冷蔵庫にしまう。


 布団に向かう――――おっと、歯磨きを忘れていた。

 洗面所で、シャコシャコと歯ブラシを動かしながら鏡の中の自分を見つめる。

 目にかかるほど伸びた前髪を片方に流して、その間から深緋こきひ色の目がこちらを見ていた。

 遺伝じゃない。父さんは真っ黒の目をしている。

 母はどうか知らない。俺が本当に小さい時に、亡くなったらしい。なので記憶も悲しみもない。


 静かに布団に入る。

 隣を見ると、父さんは疲れて眠っていた。

 父さんはこの能力を使えないと思う。でも彼は、それと同等の巧みな話術を持っている。


 仕事は詐欺師だ。


いつだったか、変則的な仕事ぶりの不自然さに気づいて聞いてみたところ、問い詰められた後カミングアウトされた。

 詐欺師の世界では、俺みたいに変わった色の目を持つ者が結構いるらしい。そしてその人達は話術はないのに、不思議と人を騙すことができているんだ、変な能力でも持っているのだろうかと父さんは語った。


 目は、能力と関係があるのかもしれない。

 その結論に父が至る前に、以前能力を使った。


 これのことは父さんには隠している。

 知れたらどうなるだろう。

 後を継げなんて言われるかもしれない。それは絶対に嫌だ。

 俺は善人を騙すような仕事はしたくない。


 そう思っていた。でもさっき。

 ……ソーダに能力を使った。

 ついに善人にも使ってしまったのだ。

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