第2話 冒険者ギルド
異世界でまず最初にすることは働いて住む場所を見つけ食事をすることだ。
そのために人々は職を手にする。
ありふれた職業の中でも憧れを抱くのが冒険者だ。
自由気ままに自分のやりたい仕事をこなし手っ取り早く金を稼げるからだ。
しかし、冒険者になるということは死を覚悟する必要がある。
ギルドの中は屈強な男達が真っ昼間からテーブル席で酒を飲んだりと汗臭い連中ばかりだ。
ジョセフはそんな泥臭い連中が集まる中、リサとテレサを連れてギルドの中にいた。
「おいおい、あの長髪男、女の子を二人も連れちゃって嫌になるねぇ……」
「ああゆうのはどうせ女も碌に守り切れずに無様を晒すだろうよ」
昼間から酒を大量に浴びている男達はジョセフに辛辣な言葉を浴びせる。
地球にいた頃なら見ず知らず、ここは異世界だ。
むやみやたらに喧嘩でもするものならどうなることやら。
ゴブリンに殺されかけたことを考えればこの世界の住人がどれほどの強さなのかは未知数だ。
君子危うきに近寄らず、ジョセフはそのまま無視して受付へと向かう。
下を向いていた受付嬢は足音に気付いたのか顔を見上げる。
「見かけない顔ですがもしかしてギルド加入がご希望ですか?」
受付嬢は手慣れているのか察しがよかった。
「えぇ、この国で骨を埋めていく以上は働き口が欲しいもので……」
「それでは今から用意する書類に書いていただく項目がありますが読み書きはできますか?」
書類を渡されたジョセフは目を通し終えると軽く頷くとリサとテレサも同じく頷いた。
不思議なことに知らないはずの文字の意味がジョセフには理解できていた。神様に転移してもらう際、異世界での言語理解ができるようにしてもらった恩恵が今ここで役に立ったのだ。
「ふぅっ、思ったより内容は簡単なんだな……」
ジョセフのこの一言を耳にした一人の男が足音を大きく立てながら後ろから近寄ってきた。
「おいクソガキ、さっきからカッコつけやがってよ!ここはてめえみてえな温室育ちの人間の来るところじゃねえんだよ!」
男はジョセフの肩に手を強く乗せる。
「ちょっと、その汗臭い手をのけなさい!」
リサは男の態度が気に食わないのかジョセフの肩に乗せてる手を引くよう注意する。
「お嬢さん、このガキが悪いんだぜ?こんなガキがお前さんら二人の美女を侍らせて…………」
すると、男は冷や汗を掻きながら後ろを振り向いた。
「それ以上私達に付きまとうようでしたら死んでいただきますよ?」
テレサは男に剣を突きつけていた。
「わっ、分かったよ……」
男はそのままギルドを出ていき、テレサは剣を鞘に納める。
「二人とも、お怪我は?」
「……んっ、別にないけど」
「私は大丈夫です」
二人の安否を確認するとテレサは胸を撫で下ろした。
「ちょちょっ……冒険者になるための手続きをしているのになんか空気凄く重いんだが……急にチンピラには絡まれるし俺なんかした?」
「ジョセフ様がカッコ良すぎるから嫉妬してるだけだと思います」
「そうなのか?」
ジョセフは異論を出そうとしたがリサが納得するとは思えない。それが分かっているからこそテレサは介入しなかったのだろう。
一先ず、書類に記入し終えると受付嬢が免許証と同じサイズのカードとナイフを三人分手渡ししてくれた。
受付嬢はそのままジョセフ達に指示を出した。
「今渡したそのナイフでこのカードに血を染み込ませてください」
言われるがまま、自分の体に傷を入れることに躊躇いながらもナイフで親指を軽く刺し、カードに染み込ませた。
白紙だったカードから黒色の文字が浮かび上がる。
「一応これで登録は完了しました。このカードは本人以外が触れると文字が薄くなります。それと偽造防止の魔法も付与されていますがもし紛失した際は追加料金がかかりますがこちらで再発行手続きを行なってください」
地球でも免許証の偽造防止の為にicチップを仕込んでいることはジョセフでも知っていたがこの世界でもそれとよく似た技術があることにはかなり驚愕したようだ。
「お仕事の依頼はあちらにある掲示板を確認してからこちらで依頼を申し込んでください」
ジョセフ達は掲示板の前へと立ち、ランクに合った依頼を探す。
「俺らが受けられそうなランクの依頼は薬草取りとか下水道掃除、魔獣討伐……色々あるな」
唇に手を当てながらジョセフは考え込む。
「ジョセフ様、私は簡単な依頼からこなしていくのはどうでしょうか?」
リサは提案を出す。
「……んっ、何か良さげな依頼あった?」
「はい、ある商人さんの依頼です」
笑みを浮かべながらリサはジョセフにその依頼の用紙を渡す。
その内容は依頼主アーサー・サカモトの妻は近頃態度が急変し、何かと決まった時間に化粧をしては外出していたようだ。
「……ん、なるほど。要するに浮気調査か……」
「はい……」
「これならお二人の最初のクエストとしてはいいかもしれませんね……」
テレサは感情のない顔で頷くだけだ。
ジョセフはそのままその用紙を受付で申請しようとした時だ。
「……どうかなさいましたか?」
リサは呆然としているジョセフに首を傾げながら尋ねる。
「そうだ、俺……まだ丸腰だ……」
「「あっ!」」
浮気調査とは言えど、戦闘にならないとは限らない。
リサとテレサは宝玉の埋め込まれた剣を腰に差しているのに対して、ジョセフは丸腰だったのだ。異世界人の強さが未知数である以上、今後の生活で武器は必須となるだろう。
とは言いつつもテレサはリサの世話係を担当していたこともあってか武器屋に詳しいわけでもなく、リサも基本的には王女様として城内にいた時間が長いだろうから街全体には詳しくなかった。
「武器屋探してるの?」
悩んでいる三人の背後から声が聴こえた。
三人は聴こえた方向を振り向いた。
「私達もパーティメンバー探してたとこなんだけどもし良ければ一緒にどう?」
声をかけたのは亜麻色のツインテールに翠色の瞳を持つ少女だ。
その少女の体つきは程よく引き締まったアスリート体型かと思いきや、胸の膨らみはハリウッド女優のように大きく、身長はジョセフがブーツ込みで百七十cmある。少女はジョセフと比べてもブーツ込みで五cm程低かった。
「私はジンジャー。隣が今日知り合ったばかりのマリー、所謂魔術師みたい」
「マリーよ、それにしても中々可愛い坊やを見つけてきたじゃない?」
赤毛に赤みがかった黄色い瞳をした少女はマリーと名乗る、マリーは何処かしら妖艶で、ジョセフは一瞬視線を逸らしてしまった。
「ジョセフ様、私達は夫婦なんですから浮気はメッ!ですよ」
「いやいや、ちょっと目移りしただけで浮気認定は酷いでしょ!てかテレサ、なんとかしてくれないか?」
ジョセフはテレサに視線を向け、助けを求める。
「私には二人の世界に入り込む資格はありません」
テレサはジョセフの頼みをすんなりと拒否した。
マリーは艶やかな唇に指を当てウインクした。
「ジョセフ君って言うんだね、そしてそこの可愛い女の子がリサちゃん、大丈夫よ。あなたの可愛いジョセフ君を食べたりはしないから安心して」
揶揄われたと思ったリサは頬を膨らませながらマリーを睥睨した。
「マリーさんでしたか?冗談でもそうゆう言い方はやめて頂けますか?」
「ごめんごめん、別に手を出すつもりはないから許して」
依存心が高いからなのか、リサはマリーに敵対心を抱いたのだろう。
すると、マリーはリサの胸元に視線を集中して思わずニヤける。
それに気付いたのか、リサは涙ぐんだ。
「まだ成長期です……ジンジャーさんくらいには大きくなってジョセフ様を色仕掛けを……」
肩を竦めながらジョセフはリサに苦言を呈する。
「なんでそうなるんだ、一国の姫様がそのような言葉を口に出すものではありません!」
十三の少女が淫らな発言をすることに驚いた。リサも一人の女性として本能の赴くまま、子孫を繁栄させるためとは言え、もう少し言葉をよく咀嚼し、吟味してほしいとジョセフは思っていた。
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