第10話

交差点を右折して、真実の口の前で原付を左に寄せた。一足早く、虹はさらに遠くに移動していた。今度は友人の中田の住むアパートにその右足をおろしている。


 早く虹が消えてしまえばいいと思った。ベースボールで名声を得た選手が引退を延ばした結果醜態を晒してしまう事がある。

 今虹がその美しい姿を損なうことなく消えてしまうのなら、それは僕の頭の中でいつまでも美しく、そしてこれからもどんどん美しく成長していくに違いない。

 無様な消え方をする前に、さっさと僕の前から消えて欲しい。


 それでも虹はそう簡単には消えてはくれなかった。目の前に虹がある限り、僕はその虹を追いかけ続けなければならない。頭の中で美化されたカヨコといつまでも別れることができないように、虹が醜態を僕に見せ付けて消えていくまで虹を追い続けなければならない。


 また原付のスロットルをひねって、200mほど進んだ先の交差点を左に曲がった。


 ほんの数年前まで田んぼと葡萄畑しかなかったこの土地に大学が移転してきて、それから発展してきた街だから道幅も広く、学生街と言ってもまだ建物はまばらだ。新しい街の空に張り巡らされているはずの電線は地中深くに埋められ、すこんと抜けるような空には太陽とバラバラになった雲と虹しかない。


 空を見ながら50mも走れば中田のアパートだ。アパートに着くと、虹はまた一足早く、その先のパチンコ店へと逃げていた。

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